和田一雄
1965年にオットセイの研究を始めて以来現在まで細々と各種の鰭脚類を研究してきた中で多くの経験を得てきたので、エッセイとしてまとめました。研究内容は論文、学術書で発表してきましたので、それ以外の研究にまつわる自然条件、文化、社会、経済について私が体験したことをエッセイ風に述べました。1965-67年には水産庁所属東海水産研究所でオットセイを、1970-90年には京大霊長研にいて、北海道のゼニガタアザラシとトドを、1991-2002年(1991-96年は東京農工大学)まではサハリン、コマンドル、千島列島で繁殖場におけるオットセイ、トド、アザラシ類の研究を行いました。私は日本の鰭脚類研究の始めから参加したので、日本の鰭脚類研究史をなぞることになっているので、その意味もあるかと考えました。現在北海道ではトドの保護がダイバーや、またゼニガタアザラシの保護がエリモ岬などでエコツアーを通して広がり始めており、次第に鰭脚類に関心が高まりつつある様に思われます。また,1990年代から知床半島を世界自然遺産にする試みが動き出し,2005年に知床半島が世界自然遺産に指定され、その過程で指定海域に含まれた資源管理の宿題も残されました.この原稿はそれらの興味に多少とも材料を提供出来るかと考えた次第です。
目次
はじめに
第1部: 鰭脚類の調査研究
第1章三陸沖のオットセイ調査
オットセイの国際会議、三陸沖の回遊調査:1965-67、骨格標本作りに気は抜けない、海に出よう、全国から集まる仲間、海上調査のひと工夫、しぶとい漁師たち
第2章 オットセイ:ルッカリーでの社会生態調査
コマンドルスキー諸島調査行・1965年、チュレニイ島・1991年、チュレニイ島・1992年、コマンドルスキー諸島調査行・1993年、さらに充実するオットセイ調査、日本での研究交流
第3章 千島列島のトド調査
第1回調査・1995年、第3回調査・2001年
第4章 官僚組織が研究をダメにする
東海区水産研究所資源部第三研究室(オットセイ研究室)の消滅、水産研究所の現状、将来の鰭脚類研究に向けて
第2部: 鰭脚類と人の関係
第5章 オットセイ保護条約の成立と消滅
オットセイ保護条約と行政・漁業者の関係、オットセイ保護条約の消滅、漁業から観光への転換
第6章 オットセイの資源管理:米加ソのオットセイ研究
国際的保護条約に基づくオットセイ調査、アメリカの研究、カナダの研究、ソ連の研究、現在の研究はどうなっているか
第7章 食害とは何だろうか
オットセイの場合、トドの場合、ゼニガタアザラシの場合
第3部: 鰭脚類と共存する未来へ
第8章 保護の模索:ゼニガタアザラシの場合
天然記念物か共存か、ゼニガタアザラシの生態と保護に関するシンポジュウム、その後のゼニガタアザラシ調査、ゼニガタアザラシの法的保護
第9章 知床半島の世界自然遺産指定:トドの場合
知床半島の世界自然遺産指定の現代的意義、世界自然遺産の海域指定をめぐる問題、世界自然遺産指定における鰭脚類の重要性、北海道周辺海域におけるトドの回遊特性と被害の概略、トド保全に関係する行政の取り組み、トドと漁業被害の関係、トド保全をめぐる最近の論調、トド管理への提言、世界は動いている
第10章 鰭脚類との共存をめざして
野生動物保全に求められること、トドの場合、ゼニガタアザラシの場合、オットセイの場合、エコツァーとは何か
対談 トドと海の話
おわりに