ボツリヌス毒素は神経が筋肉に接している箇所(神経筋接合部)に作用し、筋緊張を緩和します(参考文献22,24,26)。A型ボツリヌス毒素製剤 [ボトックス:Botox、グラクソ・スミスクライン社] の注射による治療法はまぶた、首などの局所性ジストニア(眼瞼痙攣、痙性斜頸)の標準的な治療法として世界80カ国以上で承認されています。従来の治療法では効果がなかった強度の筋緊張を和らげることによって、過緊張に伴った開口障害、疼痛、構音障害、咀嚼障害を改善させることが可能です。現在、わが国におけるボツリヌス毒素製剤の適応は眼瞼痙攣、痙性斜頸、片側顔面痙攣などです。ボツリヌス療法は注射する部位と筋肉によって保険が適応されず、自費となる場合があります。自費の場合、50単位で約5万2千円、100単位で約10万円の負担となります。注射する筋肉が少なければ、50単位で十分ですが、広範囲の筋肉に注射が必要な場合、100単位となります。
・筋電図検査
過緊張を生じている筋をMAB療法の場合と同様に筋電図検査で診査します。注射する主な筋は咬筋、側頭筋、外側翼突筋、内側翼突筋、オトガイ舌筋、胸鎖乳突筋、顎二腹筋などです(図7)。各患者さんの病状と筋電図検査の結果からどの筋肉に注射すべきか判断します。治療前に開口量、咬合力、痛みの自己評価などを記録します。
・注射
筋電計にてモニターしながら、注射針の先が過緊張を起こしている筋内にあることを確認して、生理食塩水で希釈したボトックスを数か所に分けて適量注射します。注射の際は少し痛みが伴います。効果は個人差が大きいため、最初の注射では打つ量をやや少なめにします。
・経過観察
効果は注射して2,3日後から現れます。効果は通常最低3~4ヵ月持続し、その後消失しますが、患者さんによっては効果がずっと続くこともあります。治療後で開口量、咬合力計測し、治療効果の客観的評価を行います。経過によって投与を繰り返す必要があります。
図7.不随意運動を起こす可能性のある筋肉。その他、表情筋、オトガイ舌筋、口蓋帆張筋にも異常収縮を生じることがあります。
動画4.ボツリヌス療法前後の閉口ジストニア
動画5.ボツリヌス療法前後の舌前突ジストニア