ジストニアの臨床的特徴には以下のようなものがあります(参考文献13,26, 参考図書1)。
・定型性
それぞれの患者さんにおいて筋収縮パターンが一定であり、顎口腔ジストニアでは閉口、開口などの運動方向は必ず同一です。
・動作特異性
特定の動作で症候が出現したり、増悪したりすることであり、顎口腔領域では、発語や咀嚼により、開口、舌前突その他の異常運動が生じ、他の顎運動や安静時には症状がみられないことが多いです。ただし、長期化、重症化すると常時症状がみられるようになります。
・感覚トリック
特定の感覚刺激で、症状が軽くなったり、重くなったりする現象です。顎口腔領域では、ガム、ハンカチ、タバコなどを口にくわえること、あるいは下顎または歯に軽く触れることによって、症候が一時的に軽快、消失することがあります。
・オーバーフロー現象
ある動作をするときに、不必要な筋が不随意に収縮してジストニアを生じる現象のことです。咀嚼筋から口輪筋、眼輪筋、頸部筋、肩部筋まで異常収縮が拡大することがあります。
・早朝効果
朝起きたときや早朝に症状が軽快することです。ジストニアは起床時に症候が最も軽減していることが大半で、ブラキシズムや咀嚼筋の過緊張が原因の顎関節症I型では起床時に筋症状を認める場合が多く、鑑別診断のための所見として重要と考えられます。
・共収縮
正常な場合、協働筋と拮抗筋が互いの運動を妨げない、たとえば、口を開けるときは口を閉じる筋肉は収縮せず、口を閉じるときは口を開ける筋肉は収縮しません。ジストニアでは、お互いが抑制しているバランスが崩れて、ある運動の際に、拮抗筋が同時に収縮して、しようとしている運動が妨げられることです。咀嚼筋では開口筋と閉口筋が同時に収縮して発語や咀嚼に支障をきたすことがしばしばあります。
・フリップフロップ現象
ジストニアの症状が何らかのきっかけで、急に症状が軽くなったり、重くなったりする現象のことです。発症後経過が長くない症例で治療途中に突然症候が完治してしまうことがあります。
・振戦
振戦は身体の一部または全身に不随意に起こる、素早く、規則的な反復運動で、安静時振戦は頭頸部では口唇、舌および下顎に認められ、家族性ジストニアの家系内では、振戦だけを示す場合もあります。
以上のジストニアの特徴がみられず、心因性としか考えられない不随意運動の患者さんもおられます。心因性不随意運動の特徴として、一貫性のない運動(パターン、分布、速度が変化する)、自然軽快や再発を繰り返すなどの特徴があります(参考文献43)。