当研究室では、主にシアノバクテリアを実験材料として微生物の環境適応機構を分子レベルで解明することを目指しています。
シアノバクテリアは植物と同様に酸素発生型光合成を行うバクテリアです。約25億年前に地球上に誕生したと考えられており、現在では光と水が利用できるほとんどの環境で見られます。湖沼や海洋などの水の中だけでなく、陸上でも見られます。また、氷河や温泉、さらには砂漠など通常生物が生きるのが困難な環境にも適応しています。シアノバクテリアがどのようにして、このような過酷な環境に耐えることができるのか、その特殊な能力が発揮されるシステムを明らかにすることを目指しています。
DNA、RNA、タンパク質を対象とした分子生物学的手法、トランスクリプトームなどのオミクス解析、さらには遺伝子機能を自在に操るための合成生物学的手法を駆使した研究を行っています。
シアノバクテリアには砂漠や氷河など、他の生物がほとんどいない過酷な環境に適応することができるものがいます。どのようにしてほとんど雨の降らない砂漠や一年のほとんどが氷点下の氷の世界で生き残ることができるのでしょう。我々は乾燥や凍結耐性に関わる遺伝子を同定し、その機能解明を進めています。シアノバクテリアの環境適応機構を明らかにすることで、生物のもつ特殊な能力を遺伝子レベルで理解することを目指しています。
キーワード:遺伝子機能解析、乾燥、凍結、栄養飢餓
シアノバクテリアには、単細胞性のものから複雑な形態をとる多細胞性のものまでいます。そして多細胞性のシアノバクテリアには、特殊な能力をもった分化細胞をつくるものがいます。分化細胞を形成することで、過酷な環境に耐えたり、貧栄養環境で増殖したり、さらには植物などの他の生物と共生関係を築くことできます。増殖に適した環境では分化細胞を形成されず、環境の変化に応答して細胞分化が誘導されます。シアノバクテリアが環境の変化をどのようにして感知し、そしてどのようにして特殊な能力をもった細胞が作りあげられるのか、その仕組みの解明を目指しています。
キーワード:遺伝子発現制御、細胞分化、細胞周期、パターン形成、窒素固定、ストレス耐性
光エネルギーを利用して二酸化炭素から様々な物質を生産することができるシアノバクテリアは、バイオ燃料やバイオプラスチックなどの生産ホストとして期待されています。我々は、多細胞性シアノバクテリアの分化細胞ヘテロシストを利用して、物質生産だけを行う新たな細胞を創り出すことを目指しています。ヘテロシストは、大気中の窒素ガスをアンモニアへと変換することで窒素栄養として利用できるようにする反応である窒素固定だけを行う細胞です。ヘテロシストで窒素固定により作られたアンモニアはアミノ酸となり、隣接した細胞に輸送され、その細胞の増殖に利用されます。ヘテロシスト自体は増殖も分裂も停止しているため、ヘテロシストはアミノ酸を作り続けるアミノ酸生産工場だと言えます。ヘテロシストの物質生産工場としての特徴を活かして、効率的な有用物質生産系の開発を行っています。
また,シアノバクテリアの炭酸固定能力だけでなく,窒素固定能力も利用することで,大気中のCO2とN2から,化学繊維ナイロンの原料であるジアミンなどの窒素を含んだ化合物の生産にも取り組んでいます。
キーワード:代謝工学、バイオ燃料、バイオプラスチック、カーボンニュートラル