グローバル化や競争環境等が大きく変化する中、企業におけるリスクマネジメントの重要性はますます高まりを見せています。その一方で、その実施には相応のコストを要するため、やみくもにリスクマネジメントを実施するだけでは、企業価値の向上への貢献度合いは少ないといえるでしょう。そこで、重要な論点となるのは、「企業はどの程度までリスクマネジメントにコスト(Total Cost of Risk, TCOR)を費やすべきか?」という問いになります。そして、業種や規模等の企業属性の違いはこの問いに対する答えに重要な影響を及ぼすことが予想されます。
本調査は,シンガポールに本部を置く企業のリスクマネジャーの国際団体であるPARIMA(Pan-Asian Risk and Insurance Management Association)の日本支部の協力のもと,慶應義塾大学商学部柳瀬典由研究室が実施します。本調査においては、回答者所属企業の規模、業種、所有形態、資本構成、成長機会等の属性データとリスクマネジメントに要するコスト(TCOR)、その他の質問への回答を代理変数として用いて、日本企業のリスクマネジメントに関わる意思決定の現状について、コーポレートファイナンス(企業財務)の観点から理論的・実証的に分析することを目指します。こうした研究成果は学術的にきわめて高い価値を持つだけでなく、実務的にも、例えば、自社のリスクマネジメントに関する意思決定に際しての重要な参考情報(ベンチマーク)になることが期待されます。
2021年7月
慶應義塾大学商学部 教授
柳瀬 典由
★山崎 尚志研究室(神戸大学大学院経営学研究科)との共同プロジェクト
Nanyang Technological University(南洋理工大学・シンガポール)の研究者と中国(復旦大学・北京大学),日本(慶應義塾大学・長崎大学),インドネシア(バンドン工科大学)の研究者が共同で,「退職後の高齢者の生活に関わる公的および民間の退職金、年金、医療・介護制度」についての研究プロジェクト(期間:2024年~2025年)が開始され,日本側の拠点として柳瀬典由研究室が参画します。このプロジェクトは,Global Asia Insurance Partnership (GAIP)の支援のもと実施されます。また,日本側のプロジェクトチームには,今仁裕輔 助教(長崎大学経済学部)が参加します。
研究プロジェクトでは,各国の制度やソリューションについて,質的評価とともに,財務リスク,経済的価値,福祉への影響といった観点から定量的な評価も行います。これにより、学術的な意義だけでなく,政策決定者や業界リーダーが証拠に基づく意思決定を行い,既存の制度を改善したり、新たな戦略を開発したりするための実践的な知見を提供します。
研究の質的評価では,以下の取り組みを行います。
働き盛り世代,退職前・退職後の各段階における公的および民間の年金・医療・介護ソリューションのデータベースの作成。
公的カバレッジの充足度や,民間ソリューションの利用可能性・アクセス状況に関する個人,保険会社,政府機関へのアンケートとインタビューを実施。
各国の制度から得られた教訓や関係者の認識を分析し,シンガポール,中国,日本,インドネシアなど一部アジア諸国の事例研究を実施。
ソリューションの成功基準を設定し,それに基づいて各制度の成果を検討。
定量的評価では,質的評価で特定した各制度・ソリューションの財務リスク,経済的価値,福祉的影響を評価します。同時に,政策担当者や民間企業が将来的に類似の評価を行うための汎用モデルも開発します。これにより,各ソリューションの長所と短所を定量的に把握し,今後の政策・ビジネスに役立つ分析手法を提供することを目指します。
柳瀬典由研究会(慶應義塾大学商学部・学部のゼミナール)は,2025年4月より,SOMPOリスクマネジメント(株)と共同で「日本企業のリスクマネジメント力向上に関する調査研究を開始します。教員(柳瀬典由)の指導のもと,研究会所属の学部生が複数の共同研究プロジェクトを進めます。
2023年6月26日より,安田 行宏 教授(一橋大学 商学部)・柳瀬 典由(慶應義塾大学 商学部)・今仁 裕輔 助教(長崎大学 経済学部)・東京海上日動あんしん生命保険株式会社と共同で,同社の保有契約データを活用したビックデータ分析を開始しました。
600万件以上の保有契約に加え,保険金支払いなどで消滅した契約を含めた全契約データ(約1100万件)を用い,居住地域や加入経路等ごとの加入傾向を分析します。
具体的には,加入商品,付帯特約,加入時期,複数商品加入状況,保険料,保険金額等,顧客属性や契約属性等の切り口で統計的分析を実施するとともに,公知情報等とも比較することで,保険消費行動における特性の可視化を試みます。
また,過去からの経年変化の観点も踏まえた分析を行うことで,例えば「新型コロナウイルスの流行」や「大規模災害の発生」前後における保険消費行動の変化の可視化も予定しています。