関連生物たちの紹介

以下は野崎の理解の範疇で述べたものです.間違いがあればご指摘ください.

Termites | シロアリたち

山林の腐朽木を割ってみると、そこにはシロアリの社会を見ることができる.彼らはセルロースを分解することができる.朽木は彼らの巣であるとともにエサでもある.

シロアリはアリやミツバチと同様、真社会性昆虫と呼ばれる存在で,血縁関係にある個体が協働生活を送っている.彼らは家屋・木材の大害虫として認識されていると同時に、分解者として様々な生態系において重要な役割も果たしている.

Reticulitermes speratus | ヤマトシロアリ

本州全域の山林に広く生息するシロアリで,南西諸島には近縁種が生息している.

毎年5月ごろ有翅虫の群飛が生じ,翅を落とした個体はペアとなる異性を探す.ごく少数の働きアリを含む巣は,数年から数十年かけて巨大な巣へと成長する.

巣が巨大になるにつれ,メス繁殖虫:女王の卵巣が発達し腹部は膨満する.女王の卵巣では,約100個の卵が同時並行で生産される(後述).

本種の巨大な巣で頻繁に見られる,夥しい数のネオテニック女王は単為生殖によって生産された個体である.遺伝的には巣を立ち上げた女王のコピーである.卵生産能力の高い女王が大量に存在する巣は,さながら卵の大量生産工場である.

複数の腐朽木にまたがる巣のメンバーは数万~数十万個体にも達する.

成熟した女王の腹部は,栄養貯蔵および卵黄生産を担う臓器である脂肪体,そして巨大な卵巣が詰まっている.女王の卵生産はそのまま巣内のメンバーの増大につながる一方で,卵やふ化直後の幼虫を育てる労働力に見合った量である必要がある.女王の卵形成は,季節的な環境変化や巣の中の状況に応じてダイナミックに制御されている.

Aphids | アブラムシたち

気が付くと大量に沸いているアブラムシ.彼らは植物の師管液を吸っているが,これは砂糖水のようなもので各種アミノ酸やビタミン等が乏しい.アブラムシ体内の特殊な臓器には特定の細菌が保持されており,この細菌が必要なアミノ酸を合成し,宿主に不足する栄養分を補っている.この細菌Buchnera aphidicolaはアブラムシ体外では生存できず,両者は絶対的な共生関係―お互いの存在なしには生存できない―にあるといえる.

このような微生物との共生関係が,貧栄養なエサしか食べないアブラムシが爆発的に増殖できることの要因の一つである.

アブラムシは植物保護の観点から厄介な害虫である.一方で,彼らの特異な繁殖様式: cyclic parthenogenesisやBuchneraをはじめとする微生物との細胞内共生,holocentric染色体など,生物学者の興味を惹きつけてやまない特徴を多く備えている.

 Acyrthosiphon pisum | エンドウヒゲナガアブラムシ

エンドウなどマメ科植物につくやや大型のアブラムシ.日本では本州~北海道まで広く分布する.春~秋は単為生殖によって繁殖する.北海道などの高緯度地域では、秋~冬にかけて有性生殖をおこなう世代が出現し,交尾・産卵をおこなう.このような地域では本種は卵の状態で越冬するが,関東以南の地域では周年,単為生殖によって繁殖が継続される.

 Cinara cedri | 地中海地方原産のオオアブラムシ(和名なし)

ヒマラヤスギの枝につくやや大型のアブラムシ.原産は地中海地方(西・南ヨーロッパ,西アジア,北アフリカ)のどこかであると考えられている.寄生蜂の分布より,西アジアが有力な説.

実は非常によく研究されている:Buchneraに加え,Serratiaという細菌がアブラムシと絶対的な共生関係を結んでいる(多重共生系).

Stick insects | ナナフシたち

ナナフシは木の枝に擬態した姿が非常にユニークな昆虫である.植物の葉に潜む彼らのエサもまた植物の葉である.

加えてさらに興味深いのは,彼らの単為生殖能力である.オスが見られない種類では,彼(女)らの産む未受精卵はそのまま発生を進める.

一方でオスの確認されている種類でも,限られた地域でしかオスがみられない場合がある.繁殖様式に関して地理的な変異を生じるのも非常に興味深い.

Ramulus mikado | ナナフシモドキ

平地でもっとも頻繁に出会うことのできるナナフシで,日本全国メスしかいない,単為生殖の種である.サクラやエノキ,ケヤキなど多くの植物を食べる.年一化.

エダナナフシのメスとは外見がよく似ているが,以下に注目することで区別が可能:

・触覚が短い;エダの場合触覚は前脚と同程度長い・前脚がとても長い;エダの場合,前・中・後脚はだいたい同じ程度の長さ

まれにオスが見つかったり,大発生したりと興味深いナナフシである.また鳥に食べられることで長距離分散している可能性が示されている.検証中.

Phraortes elongatus | エダナナフシ

山地もしくは沿岸部に生息するナナフシで,分布はパッチ状(個人的な経験).個体群によって両性がみつかったり,雌しか見つからなかったりする.

高標高・高緯度には単為生殖個体群が生息しているが.それらと両性生殖個体群の関係は現在調査中である.この「地理的単為生殖」というパターンは分類群を超えて様々な生き物で見られる.

Others | その他の関連生物たち

Haploembia solieri | 地中海原産のシロアリモドキ(和名なし) 

2017年に神戸市摩耶埠頭にて記録された外来シロアリモドキ.地中海の他にも,北米にも侵入・定着していることが確かめられている.

調査の際,メス個体のみが観察された.原産地においても地理的な単為生殖が知られており,日本へは単為生殖個体群が侵入した可能性が高い.継続した観察が重要である.