「アジア原子力協力フォーラム」の「バイオ肥料プロジェクト」

「バイオ肥料」の原料を放射線照射で殺菌?!

環境保全分野に進出

農業分野では、放射線照射により突然変異を起こし、それを利用して新品種をつくる「放射線育種」が行われてきたが、「アジア原子力協力フォーラム」のウェブサイトをみると、「バイオ 肥料プロジェクト」と称して、製造過程で放射線照射を使い、化学肥料に代わる「バイオ肥料」(一般には生物資源利用の肥料をさす。ここでは、微生物利用の肥料。ただし、いずれにしても公的な定義・基準などはない)の研究・開発が行われ、すでにフィリピンでは販売されていることがわかった。

この「バイオ肥料」は、植物と共生して植物の栄養素の窒素の固定を行う根粒菌や、リンの吸収を助ける菌根菌などの微生物を取り出して利用するもので、それらの微生物を保持・増殖するための資材(キャリアと呼ばれている)としてピート・鶏糞を使う。放射線照射は、このキャリア自体がもつ微生物を滅菌するために使われる。キャリアからの微生物によって目的の微生物の生菌数密度が低下し、肥料効果が減じるのを防ぐためという。2002年からプロジェクトは始まり、すでに2012 年から製造過程で放射線(ガンマ線)を使ったものがフィリピンで販売されている。

アジアでの協力進める FNCA

「アジア原子力協力フォーラム」(FNCA:Forum for Nuclear Cooperation in Asia)とは、国の内閣府と文部科学省が中心となって進めているアジア諸国との原子力技術の平和利用における国際協力の枠組み。(ウェブサイトには、文部科学省の委託を受けて「公益財団法人原子力安全研究 協会」が運営しているとある。)

参加国は12 か国。オーストラリア、バングラデシュ、中国、 インドネシア、日本、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ、ベトナムである。

活動内容は、1 FNCA大臣級会合(原子力を所管する 大臣級代表による会合と上級行政官による会合で構成。協 力方策や原子力政策について討議)、2 コーディネーター会合

(各国1名のコーディネーターにより、協力プロジェクトの成果と評価、推進方針、新提案ならびにFNCAの運営全般に関 わることを審議)、3スタディ・パネル (原子力発電および非発電分野での各国の政策課題や、原子力発電導入の技術課題について討議)、4個別プロジェクトについての協力活動(放射線利用および原子力基盤に係る4分野10プロジェクトについて、FNCA参加国が持ち回りでワークショップを開催し、活動の成果と計画を討議)とのこと。

そして、<FNCA10プロジェクト> として次があがっている。

○研究炉利用開発分野 ○原子力基盤強化分野・研究炉ネットワーク・人材養成・中性子放射化分析・核セキュリティ・保障措置 ○原子力安全強化分野 ○放射線利用開発分野・原子力安全マネジメントシステム・放射線治療・放射線安全・廃棄物管理・放射線育種・バイオ肥料・電子加速器利用

フィリピンでバイオ肥料「Bio N」を販売

ウェブサイト上の同フォーラム『ニュースレター』No.27(2018 年 3 月)の表紙には、「持続可能な発展をめざして」「環境保全分野への原子力科学技術の応用を推進」との大見出し。 原子力技術そのものが本来、持続可能であるはずはないが、 言葉の濫用でこれまでの放射線に対するイメージを好印象に変えようとする意図が歴然である。

『ニュースレター』では、2017 年 11 月 13-17 日には、「放 射線滅菌・加工技術でアジア農業を振興」をテーマに、群馬県高崎市にある量子科学技術研究開発機構 高崎量子応用研究所を会場にして、文部科学省主催の「バイオ肥料プロジェクト・電子線加速器利用プロジェクトの合同ワークショップに10 か国(バングラデシュ、中国、インドネシアなど)を集めて開催されたことが報じられている。

ここでは、このプロジェクトは「放射線照射による滅菌技術を利用し環境に優しく高品質なバイオ肥料(植物の生⻑に役 立つ微生物を利用した肥料)に関する研究開発」と説明され ている。フィリピンのバイオ肥料「Bio N」はイネやトウモロコシ栽培用に作られたバイオ肥料で、2012年から製造過程でガンマ線による照射滅菌を取り入れて製造され販売されていると、写真入りで載っている。

また、ベトナムの植物生⻑促進剤「RIZASA 3SL」は、イネ、サトウキビ、トウガラシ向けのオリゴキトサン植物生⻑促進剤で、甲殻類の殻から抽出したキトサンを「ガンマ線照射で低分子化して」作ったものとのことだ。

肥料製造過程での放射線利用はやめてもらいたい

日本での放射線利用の実態は不明だが、十勝農協連は、 根粒菌を取り出してそれを豆科作物の種子に接種処理した「R 加工」(リゾビウム加工)をした種子を売り出している。

豆類の安定多収のために根粒菌の助けを借りようということのようだ。十勝管内には照射ジャガイモを製造している士幌町農協があり、ガンマ線照射ができるアイソトープセンターがある。ただし、現在販売中の R 加工種子の製造過程で照射滅菌処理が行われているかどうかはわからない。

肥料については、肥料取締法が品質・安全性などでの規定や公定規格、ガイドライン等をもっているが、製造過程における放射線照射についての明瞭な禁止規定はみあたらない。だが、食品衛生法では放射線照射を原則禁止している。持続可能な農業の筆頭にある有機農業の有機農産物規格基準においても放射線を使わないことが原則である。“持続可能な発展”とうたうプロジェクトの中身が原子力技術というのはやめてもらいたい。原子力産業界は、身近なところでの放射線利用こそを進めたいのだろうが、肥料にまで放射線照射というのは濫用をうむ。