大学祭で照射食品の宣伝?!

照射ジャガイモの配布、2016年度は?

本会は「照射ジャガイモをみつけたら、連絡して!」と、「照射ジャガイモ監視活動」を行っています。春先の端境期(2月~5月)に出回るのがふつうですが、10~11月に複数の大学の大学祭で「照射ジャガイモが無料配布され、照射食品のPRも行われている」という通報がありました。

それは2年にわたり行われており、本会は配布された照射ジャガイモも確認。そうした活動を原子力関係団体が行っていることもウェブサイトで確認し、5つの大学でそうしたPRが行われていることもわかりました。

そこで本会は、該当する大学祭でそうした照射ジャガイモの配布や宣伝活動を行わないよう、2016年8月に大学学長に申し入れました。その後の大学祭は、どうだったのでしょうか? 2016年10月、東京都内の二つの大学祭を見てきました。照射ジャガイモ配布はなくなりましたが、放射線利用を喧伝する展示やリーフレットの配布が行われていました。そのようすをご報告します。

東京工業大学大学祭2016・10・8

本会への通報は、2014年10月に東京工業大学(以下、東工大)の大学祭で「照射ジャガイモ」が無料で配られているというものでした。

「安全性に問題はありませんよ」と言われて手渡されれば、危険な照射ジャガイモを食べてしまうでしょう。本会は、2016年8月、東工大学長宛にそのような照射食品の宣伝活動を行わないよう文書で申し入れました。

それに対し東工大からの回答は、「そのような企画はなかった。今後もない」という内容でした。

10月8日、東工大大学祭に行ってみました。

東工大はキャンパスが広く、東急大井町線の二つの駅にまたがっています。正門は大岡山駅前ですが、企画が行われていた原子力関係の研究室は隣の緑ヶ丘駅にあり、正門からはかなり距離があります。大学祭案内パンフレットには、企画の詳細はなく、会場周辺は来場者も少なくひっそりしていました。

展示は原子力関係の建物の一つで行われていました。建物の前には花のない花壇があり、そのレンガは、「人形峠製のレンガ」とのこと。

岡山県・鳥取県の県境にある人形峠は、1955年にウラン鉱床がみつかり、70年代まで利用された。レンガは、坑道の掘削土を利用したものという。

展示室の入り口には「撮影禁止」の張り紙。会場には、目立つ所に精巧な原子炉模型が展示され、まわりをぐるっと原子力関係の研究機関・企業・大学研究室のパネルが展示されていました。その一角に、先の通報で照射ジャガイモを配っていたというウィメンズ・エナジー・ネットワークの展示ブースがありました。

今回は照射ジャガイモの配布はありませんでしたが、3人の女性がエネルギーや原子力発電について、「原子力発電は問題ない」「放射能はどこにでもあるので怖がる必要はない」「電力単価は原発が一番安い」などと、一方的な内容の説明をしていました。そして、身近さを強調したいのか、乾燥昆布・減塩塩(カリウム添加塩)・カリ肥料を並べ、それにガイガーカウンターを当てて、来場者に放射線が出ていることを教えたり、来場者の体にもガイガーカウンターを当てて、「ほら、あなたの身体からも放射能が出てますよ!」などと言っていました。

カラーの小冊子2冊―『私たちの暮らしと放射線』『くらしと廃棄物』(ウィメンズ・エナジー・ネットワーク発行)も配っていました(写真参照)。

その一冊にはジャガイモの放射線照射風景がカラーで載っていました。その説明は、放射線を照射しても「栄養価や味が変わらない」、放射線で芽が破壊されていてもジャガイモは「ゆっくりおやすみ」などと、これも何とも無責任なものでした。

2016年度の東工大大学祭では、照射ジャガイモの配布を伴う積極的な食品照射推進の展示はありませんでしたが、このような“身近さ”を装った照射食品の宣伝活動は一切やめてもらいたいと思います。

東京都市大学大学祭2016・10・29

東京都市大学でも2014年度、2015年度と連続して「照射ジャガイモ」の配布活動があったことが通報されていました。東工大同様、2016年8月、本会から学長宛に照射食品の宣伝活動をやめるよう、申し入れ文書を送りました。

最初の回答では、「そのような企画はなかった」という内容でしたが、同大学祭での配布活動が事実であったことは原子力関連団体の報告書などから確実でした。そのことを同大学に伝えると、その事実を認めた上で、「今年度は、企画なし」との再回答を受け取りました。そこで、10月に開かれた大学祭の様子を見てきました。

原子力安全工学科は東京都市大学世田谷キャンパスにあり、校舎は東急大井町線尾山台駅から多摩川に向かい15分程歩いたところにありました。原子力の展示会場については、大学祭案内パンフレットに掲載されており、すぐにわかりました。展示は原子力安全工学科所属の団体が2か所の会場で行なっていました。

その一つは教室展示で、主催は「原子力リスク評価研究室」。この建物内で最も賑わっている教室でした。というのも、部屋はハロウィンの装飾で飾られ、「サイエンス・カフェ」と称し、飲み物やお菓子を無料で提供するくつろぎのスペースとして開放していたからです。

部屋の壁側にぐるりと原子力関係の研究機関・企業(全部で9団体)のブースが並び、それぞれに展示をしていました。ここでの展示の主導は、大学より企業や研究機関で、学生たちは手伝いのようでした。

会場に入ってすぐは、放射性廃棄物の地層処分を推奨しているNUMOの大掛かりな展示。チラシに誘われてコーヒーを飲みに来た家族連れの人たちに、地層処分の安全性、優位性を解説しています。「地下深い場所は地震の揺れもほとんどなく、安全」と、安全性を強調していました。

高崎量子応用研究所は、『暮らしといのちに役立つ量子ビーム』という冊子を配布し、その中で量子ビーム応用の一つとして「食品照射」が取り上げられ、「照射ジャガイモは発芽しない」という写真展示を行っていました。同研究所こそは、1956年に日本原子力研究所が発足した後の1963年に同高崎研究所として設置され、翌1964年にはコバルト60照射施設・電子加速器を完成させて、国策として食品照射など食料・農業部門での放射線利用を開発してきた所です。その後、2005年に日本原子力研究開発機構に統合されると共に高崎量子応用研究所となり、2016年に(国立研究開発法人)量子科学技術研究開発機構の発足により、その下に統合されています。

休憩コーナーを提供して、興味を引く実験やサンプル配布などがあったからか、多くの来場者で賑わっていました。ただし、ウィメンズ・エナジー・ネットワークの展示ブースは見当たらず、照射ジャガイモ配布も行われていませんでした。

展示会場としては、もう一つ、原子力安全工学科の「閃源会」の展示スペースがあり、そこにウィメンズ・エナジー・ネットワークの展示ブースがありました。展示内容は東工大でのものとほとんど同じでしたが、照射食品関連の冊子は配っていませんでした。