研究内容

  • シカの過採食による植生衰退・生態系改変

  • 森林樹木の多様性と生態系機能

  • 生態系サービス

  • 成熟木の樹冠発達

  • 豊凶現象

  • フシダニのゴール(虫こぶ)の分布

  • 葉面積指数の推定方法

  • シカの採食によるススキ群落の衰退と防鹿柵による回復過程


シカの過採食による植生衰退・生態系改変

日本各地の森林では個体数が増えたニホンジカによる森林・湿原・草原の植生衰退が衰退が進んでいます。植生衰退はさらに陸生昆虫、水生昆虫、魚類など多様な生物相、土壌や水質などの生態系機能にも影響を与えています。

芦生研究林でも1990年代後半から植生衰退が進み、シカの個体数は減少したものの引き続き植生衰退が進行し、様々な植物種が見られなくなってしまいました。樹木の稚樹も育っていないため、このままでは森林の継続も危ぶまれるでしょう。土壌の流亡も進んでいます。

こうした状況をうけ、植生を回復させるための研究、多様な関係者と連携した保全に向けた取り組みを進めています。


研究

埋土種子相の劣化の評価

不嗜好性植物の除去実験

既存柵からの種子散布効果

防鹿柵での植生回復(石原ほか 2012)


保全

京都府立植物園と連携した希少植物種の域外保全

市民ボランティアや企業との防鹿柵の維持管理・モニタリング

芦生地域鳥獣対策協議会

京都丹波高原国定公園生態系維持回復事業(京都府事業)

森林データの公開と統合解析

森羅プロジェクト

全国演習林協議会の共同プロジェクト・科研費研究成果公開促進費(データベース)

全国の演習林が有している毎木調査データ(樹木データ)をデータペーパーとして公開し、統合解析を大学の研究者と共同し進めています。

樹木の重さデータ

全国の木の重さと形に関するデータを、世界中のデータとともに公開しました(Falster et al. 2015)。さらにそれが他の植物の形質データとしてTRYデータベースに含まれました(Kattge et al. 2020)

気象データ

京都大学の研究林・試験地の約100年の気象データを公開しました(Nakagawa et al. 2020)。

森林樹木の多様性と生態系機能

2007~2009年まで「モニタリングサイト1000森林調査」(環境省)に関わり,全国42ヶ所の天然林における樹木および落葉量のデータを用いて、亜寒帯から亜熱帯の森林における種多様性、炭素循環、生物季節性の地理的パターンを明らかにし,気候、地理条件、生物種、病害虫の発生や台風による撹乱の効果を検討しました。データペーパーとしてデータを公開しました(Ishihara et al. 2011; Suzuki et al. 2012 )。

現在は以下のテーマで研究をしています。

森林を構成する樹木の多様性がどのように決まっているのか

森林施業などの人間活動や地球環境変化は,森林の生物多様性にどのような影響を与えるのか

生物多様性の変化は生態系機能にどのような影響を与えるのか

生物多様性や生態系機能の定量的予測(Ishihara et al. 2016;Toda et al. 2020


生態系サービス

森林は、炭素貯留、木材生産、水質浄化など、様々なサービスを人間社会に供給している。こうした生態系サービスの持続的な利用のためには、サービスの定量的な評価とともに、サービスを左右する自然・社会的要因を理解することが重要である。

北海道大学の柴田英昭教授らと共同して,政府統計や生態系サービス評価モデル(InVEST)などを用いて、過去40年間の供給・調整サービスを石狩川流域で求め、その空間的な変異や時間的変化をもたらす要因を検討している。

成熟木の樹冠発達

樹木は小さな種子から発芽し、20mを超える大きな体を持つようになります。その間に個体をとりまく環境も変化し、体の体制も変わります。したがって、稚樹を対象とした研究だけでなく、成熟木も対象とした研究を行うことで、より樹木を理解できると考えてます。

樹木の葉の茂っている部分を樹冠といいます。樹冠は、光合成生産の場です。同時に、成熟木では有性繁殖の場でもあります(幹生花を別として)。そこで、繁殖と枝の伸ばし方の関係について研究しました。

1)カバノキ属5種における種特異的な繁殖と枝の伸ばし方の関係(Ishihara & Kikuzawa 2004)

2)カバノキ属3種における豊凶周期にともなうシュート(当年枝)生産の年次変動(Ishihara & Kikuzawa 2009)

また成熟木では樹冠拡張が停滞することが知られています。そのときにどのように枝を伸ばしているのかを研究しています。

3)ウダイカンバの成熟木における短枝の長枝化(Ishihara 2013)

4)ミズナラの樹冠内萌芽(共同研究)

また共同研究として,マレーシアで熱帯パイオニア樹種の稚樹を用いて樹形,生理特性,葉動態の研究も行いました。


葉面積指数の推定方法の開発

葉面積指数(LAI)とは、土地面積あたりの葉面積のことで、森林の構造や生産力の指標であり、広域の炭素循環モデルに不可欠な値ですが、測定が困難なため、より簡便で精度の高い推定方法が求められています。Ishiahra & Hiura (2011)は,毎木データとリタートラップデータからLAIを推定する新たな方法を開発しました。

シカ排除柵によるススキ群落の回復過程

京都大学芦生研究林長治谷作業小屋前の開地ではススキを主とする草本群落が見られましたが,2007年以降シカの採食により衰退しました。

2010~2011年まで「森里海連環学による地域循環木文化社会創出事業(木文化プロジェクト)」に関わり,共同研究者とともに,防鹿柵によるススキ群落の種多様性および現存量の回復過程を調査しました。

柵設置2年後には種多様性,群落高,植被率および現存量は回復したと考えられました。このように早期に回復したのは,ススキ群落の衰退直後に柵を設置したためと考えられました。

豊凶現象

豊凶現象(masting, mast seeding)とは、種子の生産量が多い豊作年と少ない凶作年があり、その年変動が同種個体間で同調している現象を言います。多くの樹木で見られる現象で、森林の更新を左右し、種子をエサとする生物に影響を与えています。

京都大学芦生研究林で,ミズメ(カバノキ科の樹木)の種子量の年変動と個体間の同調性を2000年から調べています。その結果,豊凶現象の生理メカニズムとして、個体のおかれている光環境や資源量が重要であることが分かってきました。

虫こぶの分布

ソロメフクレダニ(フシダニの一種)はイヌシデ(カバノキ科の樹木)の冬芽、特に枝の先端の芽にゴールをつくります。Ishihara et al. (2007)では,フシダニの樹木個体間分布を決める要因を検討し、樹木の成長段階が植食者の空間分布を左右することを示しました(京都大学農学研究科21世紀COE・昆虫科学が拓く未来型食料環境学の創生・若手研究者研究活動経費)。