私たちの研究室ではプラズマ物理の研究を進めています。プラズマは電離したガスです。例外はありますが、ほぼ電気的に中性となっているプラズマを研究の対象としています。(余談ですが中国語ではプラズマのことを等離子体と呼びます。)これらの電離したガスが、電磁場と相互作用し、全体の物性を決めます。プラズマに励起する様々な構造の起源や、それらによって発現する物性に関する研究が主なテーマです。
あまり聞き慣れないかもしれませんが、プラズマ物理の研究は物理学の最前線と密接に関わり合っています。物理学の最前線というと、素粒子物理や宇宙の成り立ちに関する研究が思い浮かぶかもしれません。確かに物質の究極の起源を問う学問は人口に膾炙していて、いろいろな啓蒙書などもあり人気のテーマです。こうした学問は物質を次々に分解し、その究極の構成要素を求める要素還元的な研究を指向します。
その一方で、多数の自由度を有する系を対象とし、こうした系に発言する多様な構造や物性の起源を問う研究も確かな物理学の最前線に挑む魅力的な学問分野です。その問題意識は有名な統計物理学の教科書の序文で語られています。非平衡・非線形物理と呼ばれるような分野が代表例で、物質の見せる多様な性質の起源や、最近では生命の起源や経済などの社会現象に物理的な視点から切り込むような研究も展開されています。物理学会でも様々な領域が存在します。我々が対象としているプラズマ物理は日本物理学会の領域2で取り扱われるテーマです。こうした分野で物理の最前線に挑戦するような研究に携わりたいと考え日々の研究生活を送っています。
プラズマそのものの振る舞いを理解することも重要ですが、我々の分野のもう一つの魅力はその幅広い応用にあると考えています。プラズマは普遍的に存在し、宇宙の星間物質やそれらが凝縮して生まれる星などの構成要素です。プラズマの振る舞いを理解することは星の成り立ちや一生を理解することにつながります。地球磁気圏にも存在し、オーロラを生み出す役割も果たしています。燦々と輝く恒星のエネルギー源が核融合反応にあることが判明して以来、その機構を地上で再現しようとする核融合エネルギー開発の研究もあります。我々の研究室でも、主な応用対象として核融合開発を念頭に置いた研究を展開しています。最近は共同研究者たちと宇宙の研究にも手を出したいと考え鋭意努力しているところです。
研究の進め方としては、モデルに基づく解析を中心に進めています。我々が対象とする系は非常に複雑です。その振る舞いを理解するためには、その絵姿を正確に記述することは諦め、主要な要素に焦点を定め思い切った簡略化を進めることで有用な知見を引き出すことを試みます。正確な比喩ではないかもしれませんが、人間を描くのに正確な記述は写真に任せ、その特徴を捉える上では棒人間のようなアイコンでも有用となるというような考え方でしょうか。
簡略化されたモデルの解析を進め、興味ある現象の背後に潜む物理的な過程を明らかにすることを目指します。モデルの導出に当たっては、プラズマの問題を取り扱っている場合でも、同様の性質を有する他の物理系からの知見を取り入れることもよくあります。例えば惑星乱流の性質だったり、統計物理のエントロピーの考え方であったり、人口学の捕食者モデルの考え方であったりといった具合です。
モデルの解析から何かしらの有益な知見が得られれば、実験データとの比較から検証を進めます。幸運なことに我々が所属する九州大学では様々なプラズマ実験が進められており、理論と実験の双方を念頭に置いて研究を進めることが可能です。
多彩な構造や物性を生み出すプラズマについて、核融合エネルギーへの応用や天体現象の理解を念頭に、突拍子もないアイデアで挑戦してみたいと感じた稀有な方は、ぜひこの分野に挑戦してみて欲しいと思います。研究成果を携えて、世界を相手に挑戦してみたいと思う方は是非。