Outcomes

研究成果

多様化する歩行空間の移動形態に対応した人の生理心理に基づく路面評価手法の確立

独立行政法人日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C),代表,2023年4月〜2026年3月(予定)

研究概要

  近年,誰もが安全・快適に利用できる移動環境の実現に向け,世界的に人を中心とした歩行空間構築に対する需要が高まりをみせている.一方,人との接点となる路面の既存評価手法は車道を対象としたものが主であり,歩行空間への適用が困難となっている.そこで本申請課題では,歩行空間における移動形態の多様性および面的な動線の広がりを考慮し,歩行者および小型モビリティ利用者の生理心理反応に基づく人間中心の路面評価手法の開発を目的とする.具体的には,(1) 路面の三次元計測により人に影響を及ぼす路面凹凸を把握し,(2) 信号処理手法を駆使した路面の三次元解析によりその影響を可視化するとともに,(3) 利用者の潜在的および顕在的な生理心理反応に基づく路面評価手法の確立と妥当性の検証を行う.申請課題で得られる成果は,道路の多様な移動形態に対応した,科学的根拠に基づく合理的な路面評価の新基軸となるものであり,持続可能な歩行空間の整備に寄与するものと期待できる.

2023年度

 本研究課題では,道路の多様な移動形態に対応した合理的な路面評価手法の確立を目的に,今年度は,歩行と電動キックボードおよび自転車を対象に,既存研究を整理し北見工業大学構内において路面計測と利用者試験を実施した.
 歩行試験では,筋活動電位を計測し得られた歩行者の脚部筋肉に対する負担と,歩行空間における面的な動線を考慮し三次元的に計測された路面性状の関係を明らかにし,三次元点群のコンター図により,歩行者が負担に感じる地点を可視化できる可能性を見出した.
 電動キックボードの走行試験では,路面を入力とした振動モデルを構築し乗り心地指標を提案するとともに,主観評価との相関性を確認した.さらに,本研究では,電動キックボード利用者の生理心理反応に着目し,皮膚電気活動から乗車時の精神的ストレスの把握を試みた.その結果,走行速度が上昇するにつれ路面由来のストレスも増加する傾向が示されたものの,操縦安定性のような路面以外の影響も大きく,生理心理反応により潜在意識を把握する上での課題が明らかとなった.
 自転車の走行試験では,特に幼児用座席に対する路面の影響に着目し,路面プロファイルと車両振動の相互作用分析から,幼児への危険性が懸念される路面の段差量の目安を示し,利用者の安全性に立脚した路面管理に直結する成果を得た.

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ハンドル型電動車椅子の乗り心地に基づく歩道路面の点検および診断システムの開発

独立行政法人日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C),代表,2019年4月〜2023年3月

研究概要

 近年,シニアカーに代表されるハンドル型電動車椅子が,高齢者や障がい者の移動負担を軽減するための歩行補助用具として注目されています.その一方で,社会基盤の老朽化に伴い,路面の凹凸に起因するハンドル型電動車椅子の乗り心地の低下が懸念されいす.しかし,既存の歩道路面評価は車椅子や歩行者を対象としたものが主であり,誰もが安心して利用できる歩行空間の形成には,ハンドル型電動車椅子のようなパーソナルモビリティの乗り心地を考慮した評価が必要となります.そこで本研究は,ハンドル型電動車椅子の乗り心地に関係する路面特性を明らかにし,路面凹凸を測定し把握する「点検」と点検結果に対する「診断」を一体化した,歩道路面の評価システムの開発を目指しています.

2022年度

 最終年度となる2022年度は,これまで開発を行ってきたハンドル型電動車椅子と地上型レーザースキャナーを組み合わせた三次元計測システムによる点検と,点検結果に対する利用者評価に基づいた診断について,構内試験ヤードでの検証に加え,地方公共団体の協力を得て供用中の歩道を対象に実証試験を実施しました.その結果,計測システムを用いた点検手法は,実道においても,ミリメートルの高さ解像度を得ることができ,効率的に運用可能であることが確認しています.また,得られた三次元データに対し,Dual-tree複素数ウェーブレット変換により歩道に固有の路面変状を抽出し可視化することで,歩道における維持修繕区間の合理的な決定につながることを示すことができました.点検結果に対する診断では,国際規格であるISO2631-1に基づき,走行時の振動乗り心地を評価したところ,歩行や目視では気づかない路面凹凸に対しても不快と感じる場合があることを確認されました.その原因として,ハンドル型電動車椅子の振動乗り心地に関連する路面凹凸は,波長0.05〜0.5 mと短い波長が支配的であることを明らかにし,今後の路面管理につながる知見を得ています.最後に,点検で得られたデータをドライビングシミュレータで再現することで,道路利用者の視点で直接診断が可能な,仮想現実を活用した歩道路面評価システムを構築しました.

2021年度

 2021年度は,ハンドル型電動車椅子と地上型レーザースキャナーを組み合わせた三次元計測に基づく独自の走行路面の点検手法について,歩道上で運用が可能となるよう実用性を高め,計測精度について既存の路面計測技術との整合性を確認しました.また,得られた三次元点群データを元に,Dual-tree複素数ウェーブレット変換を用い,路面変状を可視化する手法を開発しました.本手法は,パーソナルモビリティの走行路面において着目する変状成分を理論的に抽出可能であり,三次元計測データの効率的かつ合理的な解析に寄与するものです.加えて,歩道に適用される種々の舗装路面において,ハンドル型およびジョイスティック型の電動車椅子を用いた走行試験を実施し,パーソナルモビリティに影響を及ぼす路面特性について車両振動との相互作用の観点から分析し,車道に比してより詳細な路面テクスチャによる影響が支配的となることを明らかにしました.

2020年度

  2020年度は,歩道など自動車の進入が困難な箇所における新たな路面調査手法の開発を目指し,ハンドル型電動車いすと,地上型レーザースキャナー(TLS: Terrestrial Laser Scanner)および全球測位衛星システム(GNSS: Global Navigation Satellite System)を組み合わせた道路の三次元計測手法について検討を行いました.特に,本研究では,TLSとGNSSを組み合わせることで,レジストレーションと呼ばれる異なる地点から計測された点群データの合成に必要なターゲットを省略した方法を提案し,歩行空間でも安全かつ効果的に面的な路面凹凸を計測可能な三次元計測手法について検証を行なっています.その結果,本手法は,従来手法と比較し同等の精度かつ短時間でワンマン計測が可能であり,またGNSSより得られた位置情報を活用することで,効率的にレジストレーションが可能であることが明らかになりました.本研究成果は,歩道のような幅員が狭い道路や,ターゲットの設置が困難な場所および人通りが多く短時間で計測の実施が必要な空間における面的な路面調査の効率化に寄与するものと期待できます.

2019年度

 2019年度は,歩行空間の維持管理上重要となる路面特性について明らかにするため,電動車いすによる走行試験を実施し,路面凹凸に対する電動車いすの振動応答にについて検討を行いました.その結果,サスペンション付き電動車いすに生じる上下振動は,車体側ではメガテクスチャ(路面波長50〜500 mm)の,車軸側ではマクロテクスチャ(路面波長0.5〜50 mm)の影響を受けることが明らかとなりました.特に,車体側の固有振動数は,人の着座時における上下振動の高感度域(4〜8 Hz)の振動であり,路面のメガテクスチャが電動車いすの乗り心地に影響するものと示唆されました.また,様々な試験路面の路面特性指標と電動車いすの上下振動との相関関係を確認したところ,路面テクスチャの代表的な指標である平均プロファイル深さ(MPD:Mean Profile Depth)と電動車いすの振動の間に高い相関関係がみられた一方で,代表的な路面のラフネス指標である国際ラフネス指数(IRI:International Roughness Index)との相関はみられませんでした.以上のことから,電動車いすは,車道を走行する自動車と異なり路面のラフネス成分に対する感度が低く,歩行空間の路面評価にはテクスチャの評価が必要であることを明らかにしました.

 本走行試験の実施にご協力頂いた,大林道路株式会社関係各位に厚く御礼申し上げます.


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生体疲労計測に基づく時間依存性を考慮した合理的な走行路面評価手法の開発 

独立行政法人日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究(B),代表,2015年4月〜2018年3月.

研究成果の概要

道路と人との接点となる路面の管理には,車両走行時の安全性や快適性など,質的満足度の向上を目的とした対策が求められています.しかし,既存の管理手法は,時間とともに変化する路面由来の潜在疲労へ未配慮であることから,利用者評価との間に乖離が生じていました.本研究は,道路管理と利用者評価の間に生じた乖離を埋めるための研究であり,「受動疲労」と定義した路面由来の精神疲労計測に基づき,時間依存性を考慮した合理的な走行路面評価手法の開発を目指しています.これまでの研究状況は以下の通りです:


平成27年度

平成28年度

平成29年度

路面のラフネス(縦断方向における凹凸)の評価は,路面の物理特性と人の生理や心理に関する情報の定量的な把握が必要であるため,ラフネスデータの解釈は非常に複雑です.平成29年度は,路面凹凸の物理的な特性と,人の認知処理に関わる心理反応および精神的ストレスに関わる生理反応との関係について,ドライビングシミュレータを用いた走行試験を実施し検討しました.平成29年度に得られた研究成果は以下の通りです.

研究期間(平成27年度~平成29年度)を通じて得られた成果を要約すると以下の通りです.


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非拘束脈波モニタリングに基づく生体疲労に着目した走行路面管理手法の開発

独立行政法人日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究(B),代表,2013年4月〜2015年3月(完了).

研究成果の概要

車両の乗員は,常に路面由来の車両振動にさらされています.その結果として,乗車時の疲労が蓄積していくと考えられます.しかし,これまでの研究では,路面が車両乗員の生体疲労に及ぼす影響は明らかにされていませんでした.そこで,本研究では,路面由来の生体疲労を「受動疲労」と定義し,受動疲労に基づく路面平坦性(凹凸)評価について検討しました.その結果,脈波加速度より得られた心拍変動の低周波成分(LF)と高周波成分(HF)の比であるLF/HFをモニタリングすることで,長期的なストレスを把握でき,受動疲労の評価につながることを明らかにしました.また,HFは,短期的なストレスと関係し,乗り心地などの快適性評価に有効であることがわかりました.


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