最近取り組んでいる研究

A. 代表民主制の機能不全

代表民主制の下では、有権者が政策決定を政治家に委任することになります。しがって、政治家が有権者にとって望ましい政策決定を行い、その結果として政治家が有権者にとって信頼できるアクターとなることが代表民主制を機能させる上で欠かせません。しかし、現実を見てみると、政治への不信の高まり、ポピュリズムの台頭、政治家による誤情報の拡散など機能不全を示唆する現象が観察されます。どのようなメカニズムでそうした機能不全が生じているか、どのような場合にそれを防ぐことができるかといった問題に関して、ゲーム理論を用いて分析することに関心を持っています。

キーワード:政治的エージェンシー問題・情報の非対称性・政治不信・ポピュリズム・誤情報・利益団体政治・再選動機

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B. 権力への監視機能

代表民主制が機能するには、有権者が政治家を選挙を通じて統制する必要があります。そのために有権者は政治家の行動を有権者が適切に評価せねばならず、評価のために必要な情報を得る必要があります。そうした情報を得る上で、メディアや野党といったアクターの存在が重要です。すなわち、政権を監視する機能をメディアや野党が果たす必要があるわけです。しかしながら、メディアや野党もそれぞれ自身の目的を持っているため、評価のために必要な情報が有権者に正確に伝達されるとは限りません。どのような下で、政権を監視する機能が実現するかについて、戦略的情報伝達の理論を用いて分析することに関心を持っています。

キーワード:政治的エージェンシー問題・野党による反対・議会の立法ルール・メディアバイアス・情報源・メディア競争

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C. 行動政治経済学

これまで政治の経済学の多くの研究は「合理的」な個人像を基に分析を行ってきました。しかしながら、現実の人々、とりわけ実際の有権者の振る舞いは標準的な経済学が想定する個人像のそれとは乖離があります。そこで、行動経済学の発展を踏まえて、政治の経済学の研究に行動経済理論を取り組む研究が近年発展しており、この分野をbehavioral political economyと呼びます。この研究動向を踏まえつつ、様々なアノマリーを持つ有権者の行動とそれが政治にもたらす影響を理論に分析することに興味を持っています。また、サーベイ実験に基づく実証研究も行っています。

キーワード:ナイトの不確実性・自信過剰・確証バイアス・信念に基づく効用・スティグマ・社会規範

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D. ナイトの不確実性下の行動

経済理論では情報の不完全性ないし不完備性がしばしば導入されますが、その際人々は確率分布について正確に知っていると仮定されてきました。しかし現実には、確率分布すら不確実である「ナイトの不確実性/曖昧さ」(Knightian uncertainty/ambiguity)に人々が直面していると考えることの方が自然です。ナイトの不確実性を経済理論に明示的に導入することで,、深刻な不確実性に直面した場合の人々の行動について解明を目指してきました。理論研究に加え、サーベイ実験に基づく実証研究も行っています。

キーワード:曖昧さ回避・マキシミン効用・α-マキシミン効用・ショケ期待効用・最適停止問題・事故防止

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E. 再分配と課税の政治経済学

再分配や課税の程度が政治過程の中でどのように決定されるかに関する理論研究、及び、再分配や課税への人々の政策選好がどのような要因によって規定されているかに関するサーベイ実験をってきました。特に、グローバル化が課税に与える影響、および、格差の拡大が再分配の拡大に結び付かないという再分配パラドクスに関心をもって研究を行っています。

キーワード:租税競争・右派ポピュリズム・再分配・社会の応能性に関する認識・公共財供給に関する認識・健康保険・富裕層の政治的影響力・陰謀論

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