『週刊東洋経済』2020年1月25日号に寄稿した「世論が過激化する論理 「ポピュリズム」の正体」に関して、 バックグラウンドにある研究を紹介します。
『週刊東洋経済』2020年1月25日号に寄稿した「世論が過激化する論理 「ポピュリズム」の正体」に関して、 バックグラウンドにある研究を紹介します。
1. ポピュリズムの定義について
ポピュリズムに関する日本語の概説書としては、次の新書があげられます。
水島治郎(2016)『ポピュリズムとは何か:民主主義の敵か、改革の希望か』中公新書
カス・ミュデ氏によるポピュリズムの定義は、今日学界において広く受け入れられています。詳細については彼自身による入門書をご覧ください。
カス・ミュデ、クリストバル・ロビラ・カルトワッセル(2018)『ポピュリズム:デモクラシーの友と敵』白水社
有権者のポピュリスト態度とポピュリスト政党への支持の相関関係は、次の論文が明らかにしています。
Akkerman, A., Mudde, C., & Zaslove, A. (2014). How populist are the people? Measuring populist attitudes in voters. Comparative Political Studies, 47(9), 1324-1353.
ただし、この相関関係は日本におけるポピュリスト政党への支持に関しては見られない点に留保が必要です。この点については、下記の2つの研究をご参照ください。
Hieda, T., Zenkyo, M., & Nishikawa, M. Do populists support populism? An examination through an online survey following the 2017 Tokyo Metropolitan Assembly election. Party Politics, forthcoming.
善教将大(2018)『維新支持の分析:ポピュリズムか、有権者の合理性か』有斐閣
2. ポピュリズムと政策の過激化について
ここで紹介したアセモグル教授らの研究は、次の論文です。
Acemoglu, D., Egorov, G., & Sonin, K. (2013). A political theory of populism. The Quarterly Journal of Economics, 128(2), 771-805.
ゲーム理論を用いて政治現象を分析する研究は、政治学・経済学双方で活発に行われています。次の本は、この分野の優れた入門書になっています。
浅古泰史(2018)『ゲーム理論で考える政治学:フォーマルモデル入門』有斐閣
異なるモデルを用いた研究ですが、有権者の合理性が大衆迎合(pandering)を生み出すことを示した研究として、次の論文があります。
Binswanger, J., & Prüfer, J. (2012). Democracy, populism, and (un) bounded rationality. European Journal of Political Economy, 28(3), 358-372.
有権者が政治家との戦略的駆け引きを考慮に入れて投票行動を行っているかについては, 例えば次の実験研究があります。
Woon, J. (2012). Democratic Accountability and Retrospective Voting: A Laboratory Experiment. American Journal of Political Science, 56(4), 913–930.
トランプ氏の大統領選挙における戦略的行動は下記の論文で実証されています。
Gennaro, G., Lecce, G., & Morelli, M. (2019). Intertemporal Evidence on the Strategy of Populism, mimeo.
3. ポピュリズムの伝播について
ヨーロッパにおける世論の急進化と極右政党支持の各国間の伝播を扱った実証研究として次の論文があります。
Ezrow, L., Böhmelt, T., & Lehrer, R. (2019). Migration Attitude Diffusion: The Influence of Election Outcomes, mimeo.
ここで紹介した筆者の理論研究は次の論文です。
Kishishita, D. & Yamagishi, A. (2019). Contagion of Populist Extremism, mimeo.