2015年度の講義録

第9回(今期最終回)講義

講演者:河田 聡 (科学者維新塾塾長、大阪大学教授)

日時:2016年2月20日(土) 14:00-17:00

場所:日本大学 理工学部 駿河台キャンパス 5号館2階524教室

講演題目:「塾生自身」

科新塾御茶ノ水第9回講義は、科新塾塾長の河田聡先生にご講演いただきました。12名が参加し、会場は大いに盛り上がりました。最終回となる本講義では、河田塾長自らが理系博士のもつ可能性についてお話くださいました。

16年前に人気だった職業は現在の主流ではなく、ほとんどの人が今存在していない職業に就くということをiphoneやアマゾンを例に挙げて説明し、会社にも学問にも寿命があると述べました。そして、15年後に社会がどうなっているかなど想像できないのだから、(科学、産業、社会、会社、製品、技術などは)自分で創るしかないと説きました。PCや携帯電話の普及、日本の電機メーカーの苦境、大津波やそれに伴う原発事故の発生等、技術の進歩や社会の変化は予想できないものだと今回考えてみて改めて実感しました。会場は大いに盛り上がりました。最終回となる本講義では、河田塾長自らが理系博士のもつ可能性についてお話くださいました。

さらに、先生は金を稼がずに生きて行けると思わずに起業・自立・独立するべきで、そこでは手に職(=資格)を持つ博士が有利であると述べました。塾生たちは学生や職についている研究者が多いため、研究生活を通じて奨学金・学振・研究助成金など(予算を取ってきてはいるが)実際に稼がずにお金をもらっている多くの塾生への敢えてのメッセージだったように思います。

最後に、「異なる明確な夢を少なくとも3つ持とう」という言葉で講義を締めくくり、本年度の講義が全て終了しました。

後半のグループワークは今年1年間の科新塾を振り返って、気に入った先生とその理由について話し合い発表しました。「落合先生は本当に天才だと思う」「岡島先生はきっと5年後には別のことをしていると思う」「上司にするならみどりかわ先生」など、いろいろな意見が寄せられました。先生の人気が偏らず上手く分散していたのが印象的で、運営としては安堵するとともに、来年度も様々な分野のスペシャリストを呼んで一人一人の塾生にとって有意義な塾にしたいと思いました。

懇親会では科新塾に来て変わったこと、よかったことなどを話し合い、最後まで楽しい時間となりました。

(御茶ノ水第5期塾頭補佐 鯉沼)

第8回講義

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講演者:落合陽一(筑波大助教 落合研主宰, メディアアーティスト)

日時:2016年1月23日(土) 14:00-17:00

場所:日本大学 理工学部 駿河台キャンパス 5号館2階523教室

講演題目:「Pixels toward pixies」

科新塾御茶ノ水第8回講義は、筑波大助教として落合研を主宰し、メディアアーティストとしてもご活躍の落合陽一先生にご講演いただきました。17名が参加し、会場は大いに盛り上がりました。落合先生は筑波大でメディア芸術を学び、東京大学を飛び級して博士号を取得し、現在は筑波大学助教授として落合研を主宰されています。応用物理・計算科学・アートを組み合わせた研究と作品作りを行われていて、物質とデジタルの融合を打ち出したメディアアーティストで別名「現代の魔法使い」と呼ばれています。

前半の講義では、時代に伴うメディアの変遷や18−20世紀における人々の求めるコンテンツの変化について説明しながら、ご自身の研究の位置づけやリアルとバーチャルの境界がなくなる「魔法の世紀」についてご講義いただきました。加えて、研究のみならず起業もされている落合先生の研究に対する考え方もお話いただき、非常に刺激的な内容でした。講義自体は物理用語が飛び出す難しい内容でしたが、先生のメディアや社会、研究に対する捉え方は新鮮で興味深く、先生のお話に塾生たちは聞き入っていました。個人的には、落合先生が物理だけでなく生物のゲノム改変技術にまで興味をもたれていたことが驚きで、幅広く興味関心を持って面白いことにつなげようとするところに、先生の溢れ出るアイディアの源泉があるような気がしました。

講義後は「どのようにしたら2年で8報も論文が書けるのか」や「新しいことをする際に、社会のニーズを満たすことと自分がやりたいことのどちらを考えるか」など活発な質疑応答が行われました。どんな質問に対しても当意即妙に回答する姿に先生のすごさを感じずにはいられませんでした。

後半は「5年後、10年後の自分の研究分野はどう変化するか」という内容で、塾生たちが自分自身の考えを述べました。「プラズマ」や「ウイルス/がん」など自分の研究分野について説明しながら将来の変化を予想する内容に、先生からたくさんの質問を受けていました。

落合先生は懇親会にもご参加くださり、最後まで会話に花が咲く楽しい時間となりました。

(御茶ノ水第5期塾頭補佐 鯉沼)

第7回講義

講演者:みどりかわけんじ(株式会社ミナロ 代表取締役,全日本製造業コマ大戦協会会長)

日時:2015年12月19日(土) 14:00-17:00

場所:日本大学 理工学部 駿河台キャンパス 5号館2階524教室

講演題目:「from vision to reality」

科新塾御茶ノ水第7回講義は、株式会社ミナロ代表取締役兼全日本製造業コマ大戦協会会長のみどりかわけんじ先生にご講演いただきました。11名が参加し、会場は大いに盛り上がりました。みどりかわ先生は15年間職人として勤務した町工場が廃業し、リストラに遭いました。その後、仲間とともに株式会社ミナロを起業され、現在はミナロの経営と並行して中小企業活性化のための全日本製造業コマ大戦を開催されています。

前半の講義ではみどりかわ先生が起業に至った経緯や顧客獲得までの戦略、またコマ大戦の目的やビジョンについてご講義いただきました。中小企業の社長さん、とだけ事前に伺っていたのでどんな方か全く想像もつかなかったのですが、会ってみるとその人柄と強い情熱に塾生一同魅了されてしまったように思います。会社が「目立つ」ために徹底的にインターネットを利用した情報発信をしたことや、「モノづくり好き」な社員の士気を高めるために、仕事以外の時間では工場の材料と機械を使って好きなものを作らせてしまう(そしてその作品を自社の宣伝に使ってしまう!)という気前のよさなど、経営者としての手腕と人間的魅力を兼ね備えている方だなと感じました。コマ大戦の話では、ビジョンを持てば実現するということを実体験に基づいてお話しくださり、塾生一人一人の心に強く問いかけるような内容でした。

講義後は会社経営やコマ大戦に関する質問だけでなく、現在みどりかわ先生が行っている俳優活動にも話が及びました。なぜ俳優になろうと思ったか、という質問に対する「頼まれ事は試され事で、頼まれたという事は相手から期待されているという証拠」という回答には、みどりかわ先生の常に前向きな姿勢がよく表れているなと感じ、先生のような前向きな姿勢を自分にも取り入れていきたいと強く思いました。

後半は質問の続きを引き続き行いました。また、質問の後には、数年後の自分・社会はどうなっているか想像してみるというテーマで話し合いました。最後にはみどりかわ先生自身が考える「10年後の自分と社会」について作文を朗読され、塾生一同感心するとともに普段とは違う講義全体の締めくくりに会場は深い余韻に包まれました。

みどりかわ先生は懇親会にもご参加くださり、コマ同士を実際に回して戦わせるなど、最後まで楽しい懇親会となりました。

(御茶ノ水第5期塾頭補佐 鯉沼)

第6回講義

株式会社ミナロ 代表取締役。全日本製造業コマ大戦協会会長。

講演者:横山広美(東京大学大学院理学系研究科 准教授(広報室副室長))

東京大学大学院理学系研究科・理学部 准教授 / 広報室副室長。専門分野は、現代科学論、科学技術政策、科学コミュニケーション分野。

日時:2015年11月7日(土) 14:00-17:00

場所:日本大学 理工学部 駿河台キャンパス 5号館2階523教室

講演題目:「科学と政治、科学者の信頼」

科新塾御茶ノ水第6回講義は、東京大学大学院理学系研究科准教授兼広報室副室長の横山広美先生にご講演いただきました。14名が参加し、会場は大いに盛り上がりました。横山先生は科学コミュニケーション分野の研究者として教育と研究を行いながら、広報室の副室長として科学を伝える活動もされています。

前半の講義では横山先生が「科学を伝え、そのあり方を考える」仕事に就くに至った経緯をお話しになり、実際にスーパーカミオカンデ在籍時に経験した事故対応の教訓や「STAP問題」や「震災」により失墜した科学者の信頼についてお話しになりました。加えて、科学政策の変遷や科学コミュニケーションの活発化、ヨーロッパ・アメリカ・日本の科学コミュニケーションの違いなど、多様な側面から「科学者としてどうあるべきか」についてご講義いただきました。私自身は科学コミュニケーションという研究分野の存在を今回の講義で初めて知ったので、とても新鮮な内容で、研究室で閉じこもっているだけでは一般の方から信頼される科学者にはなれないのだなと強く感じました。

講義後は「等身大の科学と言うが、科研費などではどれくらい誇張が許されるのか」や「地震が実際に予知できるようになったら国民はパニックになるのでは」など、科学や科学行政に関する多様な質問があり、活発に質疑応答が行われました。塾生自身も実際に研究を行っている人が多いため、先生の言葉に熱心に耳を傾けて、ふとした疑問や自分なりの意見をぶつけていました。

後半のグループワークでは「科学者は社会や政府に何を目的としてどうアクセスしていくべきか」と「社会や政府は科学者に何を求め、何を知りたいか。それはどうアクセスすべきか」という2つのテーマ(科学者側/社会側のアクセス)でブレインストーミングを行いました。難しい内容でしたが、塾生たちはアイディアを出し合ってグループごとに発表しました。科学者は科学者としての立場と1市民としての立場があり、後者としての視点を失わないことが社会に科学を伝えて行く上で重要であるように個人的には感じました。

残念ながら、懇親会に横山先生は参加されなかったのですが、最後まで会話に花が咲く楽しい時間となりました。

(御茶ノ水第5期塾頭補佐 鯉沼)

第5回講義

講演者:宮内諭(株式会社ニュートンプレス 編集部)

株式会社ニュートンプレス編集部1984年,香川県生まれ。2007年京都大学薬学部総合薬学科卒業。2011年,京都大学大学院薬学研究科ゲノム創薬科学専攻博士後期課程中退。研究室では,脂肪細胞に発現する受容体の機能解析を行う。また在学時,約2年にわたり株式会社リバネスでインターンを行い,実験教室などのプロジェクトを数多く手がける。2011年4月より,株式会社ニュートンプレス編集部に入社。一般向け科学雑誌『Newton』本誌,別冊およびiPad版Newtonの編集を担当している。

日時:2015年10月10日(土) 14:00-17:00

場所:東京外語大本郷サテライト セミナールーム3F

講演題目:「職業としてのサイエンスライター」

科新塾御茶ノ水第5回講義は、株式会社ニュートンプレス編集部の宮内諭先生にご講演いただきました。12名が参加し、会場は大いに盛り上がりました。宮内先生は京都大学薬学部を卒業された後、同博士後期課程を中退され、株式会社ニュートンプレスに入社されました。宮内先生は科新塾(2期)のOBです。

前半の講義では宮内先生が薬学研究を行ったきっかけや、なぜ博士課程を中退して「科学を伝える仕事」をしようと思ったのか、さらにはニュートンプレスでの実際のお仕事内容をお話しいただき、「科学を伝える」楽しさをご講義いただきました。講義の前まではニュートンプレスは1000人くらいの会社だろうと勝手に思っていたのですが、社員全員で40名程度だと聞いてすごく驚きました。主な仕事内容である記事の作成に関しては、企画立案→取材→構成→執筆という流れで作成する中で、最初の企画立案が全てと言っても過言ではないと仰っていました。また、その企画内容は、独りよがりにならずに科学の初心者が本当に楽しめるよう常に意識することが大切で、「熱中する自分とそれを冷静に見る自分を併せ持つ」ように心がけているというお言葉は印象的でした。

講義後は「Ph. Dを取ったほうがよかったと思える瞬間はあるか」や「読者がわかりやすいテーマでマンネリ化しないようにどうしている?」など博士号の意義や仕事内容に関する質問で会場は盛り上がりました。ニュートンは科学に興味のある人なら1度は読んだことのある雑誌なので、塾生たちは雑誌そのものにも興味を持っている人が多く「実際どんな企画だとよく売れるのか?」という質問には一同興味津々でした。

後半のグループワークでは「Newtonの記事を書いてみよう!」ということで、サイエンスライターになったつもりで、400字程度の短い科学記事とイラストの作成を行いました。テーマは「火星の水」「超伝導」「ノーベル賞(イベルメクチン)」の3つでした。一目で分かるようなわかりやすいイラストと、専門用語を最低限にして中学生でもわかるような文章を作成するのに塾生たちは苦労していました。普段何となくわかっていることを改めて文章にすることや、専門用語で知識として覚えてしまった事柄をわかりやすく噛み砕いて説明することは、他人にわかりやすく伝えること以外に自分にとっても有意義なことだと感じました。また、知的好奇心旺盛な読者のために「敢えて少し疑問を持たせるような書き方にする」といったワンポイントアドバイスには一同感心していました。

宮内先生は懇親会にもご参加くださり、最後まで楽しい議論が交わされました。

(御茶ノ水第5期塾頭補佐 鯉沼)

サマースクール2015

日時:2015年9月26-27日

1日目:グループワーク

2日目:バーベキュー・青空サイエンス@万博記念公園

第4回講義

講演者:岡島礼奈(株式会社ALE代表取締役社長)

エルエスパートナー 取締役。2003年東京大学理学部天文学科卒業、05年東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修士課程修了、08年同博士課程修了、同年ゴールドマン・サックス証券入社、09年エルエス・パートナーズ株式会社設立。

日時:2015年8月8日(土) 14:00-17:00

場所:日本大学 理工学部 駿河台キャンパス 5号館2階524教室

講演題目:「オリンピックの開会式の演出、新国立競技場のデザイン」

科新塾御茶ノ水第4回講義は、株式会社ALEの代表取締役社長(CEO)である岡島礼奈先生にご講演いただきました。14名が参加し、会場は大いに盛り上がりました。岡島先生は東京大学の学生時代に有限会社リヴィールラボラトリを創業し、東京大学博士課程(天文学)を卒業後修了後、ゴールドマンサックスに入社されました。1年で退職した後、新興国のビジネスコンサルを行うLS Partners株式会社を創業され、結婚・出産を経た後に人工流れ星事業を手がける株式会社ALEを立ち上げられました。

講義の前半では岡島先生が人工流れ星を作る事業を立ち上げるに至った経緯と実際の事業内容についてお話いただきました。学生時代に思いついた「人工流れ星」ビジネスを実現させるために、研究の傍らで起業やNPOでの活動を経験したことや、経済感覚や語学を学ぶためにゴールドマンサックスに入社し、新興国向けのコンサル会社を創業したというお話はあまりのパワフルさに圧倒されました。自分の夢の実現のために必要な知識やノウハウは何かと考え、それらを身に着けようと行動に移す積極的な行動力と強い情熱を感じずにはいられませんでした。

具体的な事業内容に関しては、人工流れ星の仕組みや流れ星の明るさを改善するために行っている取り組みをお話いただき、将来像まで語ってくださいました。河田塾長の「自分だったら何をするのか?という当事者意識を持って欲しい」というお言葉は胸に刺さるもので、自分は何がしたいのか?何ができるのか?と自問自答せずにはいられませんでした。

後半のグループワークでは「開催!2020年東京オリンピックビジネスコンペ!~白紙に戻った新国立競技場と開会式演出を考えよ~」という題目で行われました。「日本の科学技術をアピールできるような内容にする」という制限がついたもので、塾生たちの頭を大いに悩ませました。しかし最終的には、開会式の入場が長くて飽きるので、回転寿司ならぬ「回転選手」というアイディアや、審判目線で試合を観戦できるゴーグル、観客の興奮度合いを測定して「いつ興奮したか」をデータにしてくれる機械の導入など、ユニークなアイディアに会場は大いに盛り上がりました。漫然とオリンピックのニュースを眺めていた自分にとって、オリンピックを自分の問題として捉えること経験はニュースの見方が変わる刺激的なものでした。自分ならどうするか?何ができるか?ということ講義全体を通して考えさせられた第4回講義でした。

懇親会にも岡島先生はご参加くださり、会話に花が咲く楽しい時間となりました。

(御茶ノ水第5期塾頭補佐 鯉沼)

第3回講義

講演者:瀬尾 拡史(株式会社サイアメント代表取締役)

医師・サイエンスCGクリエーター・株式会社サイアメント代表取締役社長。1985年生まれ。2011年東京大学医学部医学科卒業、医師国家試験合格。2012年株式会社サイアメント設立。2013年東京大学医学部附属病院にて初期臨床研修修了。医師の資格を持ち、臨床医と して現場で働く傍ら、学生時代に3DCGの専門スクールであるデジタルハリウッドとダブルスクールし、サイエンスCGクリエーターとしても活躍。「サイエ ンスを、正しく、楽しく。」をテーマに正確性とエンターテイメント性を兼ね備えたサイエンスCGコンテンツを制作。

日時:2015年7月11日(土) 14:00-17:00

場所:日本大学 理工学部 駿河台キャンパス 5号館2階524教室

講演題目:「理系脳がサイエンスCGクリエイターになる」

科新塾御茶ノ水・第五期は7月11日に株式会社サイアメントCEOの瀬尾拡史先生を講師に迎え、第三回講義を行いました。塾生11名が参加し、大いに盛り上がりました。

瀬尾先生には「理系脳がCGクリエイターになる!?」というタイトルでご講演いただきました。ご講演内容は大きく分けて、サイアメントを立ち上げるまでのお話と実際に瀬尾先生が制作されたCGを用いての映像制作技術に関するお話の二つで、特に後者を中心にお話いただきました。

幼少時代は数学に没頭したという瀬尾先生。しかし、中学に入って同じクラスに国際数学オリンピック常連者がいたために数学者の道は早々に諦めてしまいます。中学の部活はパソコン部で、ここでCGと出会い、のめり込んでいきます。しかし、ここでも偶然同じ部活に入った国際数学オリンピック常連の「彼」の異次元ぶり(モンテカルロ法を用いた円周率の計算を行うプログラムを作っていたとか…)を見て、プログラマーの道は諦めてしまいます。高校生になり、モーショングラフィックスの映像制作にはまった瀬尾先生は「1分間で学校紹介をする」というお題で高校紹介の映像を制作しました。実際に当時の映像が映し出されると、そのレベルの高さに塾生一同ビックリしていました。先生曰く、高校時代までに「大体の基礎の基礎は身につけた」そうです。大学生になり、医学を学ぶ傍ら、ダブルスクールで大学から近いデジタルハリウッド大学でCG制作を学ばれ、その後サイアメントを起業することになります。起業の理由は、既存の医学とCGを結びつけるということは大学(アカデミック=新規性を追求)ではできないから、だそうです。先生は「医者もCG技術もどちらも一流ではないけれど出来ることはあり、新規性がなくても誰もやっていないことがある」と述べられ、瀬尾先生の先見性を感じずにはいられませんでした。

講義の後半では、実際にUT-Heartの紹介CGを流しながら、具体的なCGの見せ方についてお話しいただきました。「一般人にワクワクしてもらいつつ、専門家にも納得してもらえるような研究内容の紹介」をCGで作らねばならず、その際に重要なのが「一筆書き」の様に一連の流れで話を作ることと、「順番を逆にして」分かりやすくすることだとおっしゃっていました。後者について少し説明します。例えば「アクチンとミオシンの動きの研究を臨床に応用する」ことを伝えるのが目的だとすると、アクチン・ミオシンの動き→筋肉の動き→筋肉の動きで生まれる心臓の収縮→血液の流れ→心臓の各部の名称と動き→心臓全体の動き(→臨床応用)、のように次第に話を大きくしていくと、導入部分が難しくて一般の方には理解しづらいかもしれません。そこで、これらの順番を全て逆にして「心臓全体の大きな動き」を導入部分、ゴールを「アクチンとミオシンの動き」にして話を進めていくことで、マクロからミクロへと見る人の視点が移動していき、ストーリーを理解しやすくなるというわけです。この「逆にする」という考え方は簡単なようでなかなかできないもので、プレゼン等、人に何かを伝えたい時にすごく重要な考え方だと感じました。

講義の最後には未発表の最新CGを見せていただきました。息を呑む美しさに塾生たちは圧倒され、「頭の中で思い描いていた映像とピッタリだ!」と感激する塾生もいました。「いずれ映像は時代遅れになるから、これからは患者さん一人一人の心臓の動きがわかるような、リアルタイムで見られるものにしたい」という先駆者らしいお言葉で講演は終わりました。

質問タイムでは塾生から「5分の映像を作るのにかかる制作時間と制作費は?」という質問があり、「約五ヶ月で○○万」というお答えに塾生たちはウンウンと頷いていました(たしかウン千万だったような…)。

グループワークでは「2分間動画で科学を伝えよ!」というタイトルで、いくつかのグループに分かれて模擬CG作成を行いました。これは10枚程度の画用紙を使って自分たちで決めたテーマ(自由)を分かりやすく伝えるというもので、描いた絵を見せながらナレーションをつけて発表する、CG映像を模した様式です。テーマがなかなか決まらない、ストーリーに関して班員の意見が上手くまとまらないなど、グループで1つの作品を作り上げる難しさを感じながらも、結果的に洗練された内容になっていったように思います。発表では太陽光発電について紹介する班や、薬剤耐性ウイルスが生じる仕組みについて紹介する班などユニークな発表に会場は盛り上がりました。また、グループワークの最初に瀬尾先生から「ナレーションが重要なポイントなので、そこもちゃんと念頭に置いてみてください」というアドバイスを頂いたのですが、まさにその通りでした。実際のナレーションでは約5分のCGでA4の原稿1枚いくかどうかということで、かなり「ゆっくり、簡潔に」話しているのですが、今回も2分(=120秒)で画用紙約10枚、つまり1枚あたり12秒という短さで話さねばならず、簡潔に伝えることの難しさを感じました。それでも中には「プレゼン」ではなく「ナレーション」になっている塾生もいて、先生は非常に感心していました。

懇親会にも先生はご出席くださり、アットホームな雰囲気の中で最後まで議論が交わされていました。

(御茶ノ水第5期塾頭補佐 鯉沼)

第2回講義

講演者:丸幸弘 (株式会社リバネス代表取締役CEO)

株式会社リバネス 代表取締役CEO。1978年神奈川県横浜市生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。博士(農学)。リバネスを理工系大学生・大学院生のみで2002年に設立。日本初の民間企業による科学実験教室を開始する。中高生に最先端科学を伝える取組みとしての「出前実験教室」を中心に200以上のプロジェクトを同時進行させる。2011年、店産店消の植物工場で「グッドデザイン賞2011ビジネスソリューション部門」を受賞。2012年12月に東証マザーズに上場した株式会社ユーグレナの技術顧問や、小学生が創業したケミストリー・クエスト株式会社、孤独を解消するロボットをつくる株式会社オリィ研究所、日本初の大規模遺伝子検査ビジネスを行なう株式会社ジーンクエストなど、15社以上のベンチャーの立ち上げに携わるイノベーター。

日時:2015年6月13日(土) 14:00-17:00 (第2部17:00-19:00)

場所:日本大学 理工学部1号館 171教室

講演題目:「僕が40社以上の起業に関わった話」

科新塾御茶ノ水・第五期は6月13日に株式会社リバネスCEOの丸幸弘先生を講師に迎え、第2回講義を行いました。塾生約20名が参加し、双方向の濃密な議論が行われました。 丸先生には「僕が40社以上の企業に関わった話」と題してご講演いただきました。ご講演内容は大きく分けて、リバネスを立ち上げるに至った経緯と現在の事業内容についての2つで、特に前者に重点を置いて話されました。 高校時代に解明されていない仕組みが多い生物に興味を持ち、大学では藻類の光合成、大学院では窒素固定細菌についての研究に没頭していた丸先生。そんな中、世間ではポスドク問題が取り沙汰されていました。就職口に困る理系学生を見て、ずっと研究を続けていくためにどうすればいいか考えて到達した答えが会社を立ち上げることだったそうです。丸先生にとって、会社とは「研究するためのハコ」にすぎず、会社というハコを資金調達の起点として研究を行うというお考えでした。とは言うものの、実際には簡単に上手くは行かず、「今までに少なくとも20社以上潰して、3億円以上借金した」というお話には塾生から驚きの声が上がっていました。丸先生は大学・大学院時代に学生団体の運営や知的財産に関するアルバイト、ITベンチャーでのアルバイトを経験し、また教授に直接お願いして経済学の授業に参加するなど、様々な分野を学ばれています。それゆえ、いろいろな人との関わりや学問分野の枠を超えた学びがいかに重要であるかを述べ、特に悩んでいる人に対して「自分が『こうしたい』と思う意志・ビジョンを持つべきで、そのためには外でいろいろな人と話さなければならない」というお話には説得力があり、また科新塾の意義を感じさせるものでした。

リバネスは教育と研究という2つの軸を持って事業を展開しており、教育では次世代の育成、研究では即戦力の育成を念頭に置いているそうです。すなわち、教育によって理科離れを防ぐとともに、研究開発により雇用を創出し、社会に貢献するという一石二鳥のシステムです。これはビジネスという形にするからこそ持続可能な形にできるとのことで、丸先生は「144年続く会社にしたい」とおしゃっていました(144年は12年を1つのスパンとして12×12年)。リバネスが最初に立ち上げたプロジェクトは「出前実験教室」です。理系学生が最先端のサイエンスとテクノロジーをわかりやすく伝えることは必ずニーズがあるはずだ、という考えのもと始めたそうです。今では約200のプロジェクトに50人の社員と2000人の研究者が関わり、事業展開を行っているリバネス。そこで重視されるのが「QPMIサイクル」という概念です。丸先生による説明の後、実際にこの概念を使って起業してみよう!ということで、後半のグループワークでは「研究者なら普段から自然と行っているはず」だというQPMIサイクルを用いたグループワークを行いました。 QPMIサイクルとはQuestion→Passion→Mission→Innovation(新たな価値の創造)→Questionというサイクルの略で具体的にはQ:様々な事象から課題を見出す、P:課題解決に対して情熱を抱く、M:課題をミッションと捉え、チームを作り取り込む、I:チームの推進力により新たな価値の創出を目指す、というものです。グループワークは、事前に支出を把握し必ず黒字にする、新しいか?面白いか?やり続けられるか?といったいくつかの制約を設けて「課題を掲げるCEO(Q)」と「技術を提供するCTO(P)」に分かれ、20分の議論の後、両者の意見をマッチングさせて新たな事業を考える(M,I)という内容でした。マッチングでは仕事のパートナーを探す初めての経験に塾生は大苦戦。自身の技術を生かす難しさを漏らす塾生もいました。しかし、グループワークの終わりには「コメでうつ病予防」を目指す企業など、無事6社が誕生。自分たちの企業名、課題と解決のための技術、黒字化の目処や課題解決で起こるInnovationをプレゼンし、塾生間、塾生―講師間の夢のある議論に大いに盛り上がりました。

懇親会にも丸先生はご参加くださり、グループワークで生まれたアイディアで実際に動き始めることになった班も現れるなど、最後まで熱い議論が交わされました。

(御茶ノ水第5期塾頭補佐 鯉沼)

第1回講義

講演者:河田 聡 (科学者維新塾塾長、大阪大学教授)

理化学研究所主任研究員、大阪大学教授、阪大フォトニクスセンター長。専門は応用物理(ナノフォトニクス)。 1974年大阪大学卒業、79年同博士課程修了、カリフォルニア大学ポスドクなどを経て1993年より阪大教授。2003年ラマン顕微鏡メーカー、ナノ フォトン(株)を創業。光(フォトン)とナノ構造の相互作用の研究である「ナノフォトニクス」の世界的パイオニア。ギネスブックに世界で最小のレーザー造 形物が写真入りで掲載。紫綬褒章、文部科学大臣表彰、島津賞、市村学術賞等。 著書:「論文・プレゼンの科学」「科学計測のためのデータ処理入門」

日時:2015年5月9日(土) 14:00-17:00 (第2部17:00-19:00)

場所:日本大学 理工学部5号館 524会議室

講演題目:「私が科新塾を始めた理由」

科新塾第一回講義録 講師 河田聡 大阪大学特別教授 5月9日に科新塾御茶ノ水・第五期の第一回講義が行われました。初回から約25名が参加し、大盛況の中終了しました。

第一回講義は、塾長の河田聡先生より「私が科新塾を始めた理由」というテーマでご講演いただきました。河田先生は現代の若者たちが社会に対して抱いているのは「期待感」よりも「不安感」の方が大きく、成功や立身出世を望んでたくさんの経験をすることを得だと思うのではなく、むしろ失敗を恐れ、どの選択肢が一番得かわからないという状況に陥っていると感じていました。そこで、「脱藩浪士」である坂本龍馬が日本の改革に邁進したように、時間をかけて多くの経験を積み、何にも縛られない「理系博士」にこそ窮地の日本を救う可能性があると考え、緒方洪庵が立ち上げた適塾をモデルとして科学者維新塾を立ち上げることにしました。科新塾の目的は博士が活躍する場を広げることであり、河田先生からの将来を悩む塾生に対する「科学者という職業に縛られずにあらゆる分野で活躍してほしい」というエールは塾生の心に強く響いたように思われました。 また、社会にイノベーションを起こす方法として、河田先生はイノベーションとは創造的破壊のことで、組織に依存せず、他人と同じことをしないこと(Think Different)が大事である、と述べられました。さらに、適塾の卒業生である福沢諭吉の言葉を借りて「異端妄説の譏り(そしり)を恐るゝことなく」(文明論之概略)という精神を持つべきだとおっしゃっていました。そして、若い人たちは実現可能かどうかに関わらずたくさんの夢、とりわけ他者との関係で生まれる感謝=「ありがとう」の気持ちを生み出す夢を持って欲しいというお言葉は印象的で、もっと人のために自分の可能性を役立てたいと感じられるものでした。最後に、ピーター・ドラッカーの“Planning is the kiss of death to entrepreneurship.”という示唆に富んだ一節を引用して講義は終わりました。

グループワークは「夢と博士」というテーマで行われました。年齢層の近い4人1組のグループに分かれ、自己紹介の後、現在の自分の研究や夢(最低3つ)、博士号の意義などを語り合い、最後に話し合った各項目について各グループの代表者が全体に発表する、というものでした。中には「自分のワイナリーを持ちたい」といったユニークな夢を持つ人もいて、河田先生には「もう少し個人的ではない夢を…」と突っ込まれるも、会場は大いに盛り上がりました。

懇親会は、初回ということもあって塾生たちが話をしながら徐々に打ち解けていく、温かみのあるものでした。

(御茶ノ水第5期塾頭補佐 鯉沼)