大阪大学大学院基礎工学研究科・2012年度開講集中講義「数理特論」
- 講師: 一場知之(University of California, Santa Barbara)
- 題目: 「確率的ポートフォリオの理論と応用」
- 開講日時: 2012年9月10日(月)--14日(金) (初日は13:00--15:00開講, 2日目以降は受講者の都合と照らし合わせながら時間を調整・変更する可能性があります。)
- 開講場所: 大阪大学豊中キャンパス・基礎工学部J棟706
- 講義概要: 確率的ポートフォリオ理論では株式市場のさまざまな特徴を叙述的に捉えます。その特徴をもった確率的モデルのもとで想定される市場の振る舞いを分析し、そこで得られた知見を短期ならびに長期のポートフォリオ管理に応用します。関連する確率微分方程式の強い解、局所マルチンゲール性や局所時間、時間反転性、反射壁のあるブラウン運動、輸送-情報不等式との関係についても議論します。
- 1. 概論
- 伊藤過程で表現される株式市場モデルでのポートフォリオとその値の変動を定義し、ポートフォリオの最適化問題を考えます。長期収益を決める対数成長率から、各々の株式成長率の加重和を差し引いて得られる超過成長率が株式市場のボラティティ構造に深く依存することを見ます。
- 2. ポートフォリオ生成関数と比較裁定
- 市場の多様性に着目してポートフォリオを組むことを考えます。十分に滑らかな関数から生成されるポートフォリオについてその成長率と市場平均の成長率の比較します。特に、市場のエントロピーに応じて組まれたポートフォリオが市場平均の成長率を長期的に上回る状況を議論します。
- 3. ボラティリティ安定化モデル - 短期の強比較裁定
- 市場のボラティティ構造に一つの仮定を置いたボラティリティ安定化モデルにおいて、短期的にも市場平均を上回る成長率をとるポートフォリオがあることを示し、より一般の滑らかなボラティリティ構造と最適なポートフォリオの関係について、ベッセル過程、局所マルチンゲール性や偏微分方程式の理論から議論します。
- 4. 対数資本曲線の安定性 - 順位依存モデル
- 長期に渡って安定している対数資本曲線を説明するモデルの一つとして順位依存モデルを考えます。関連して不連続な係数を持つ確率微分方程式の解の性質を調べ、局所時間過程や反射壁のあるブラウン運動のエルゴード理論を応用します。時間反転性や輸送-情報不等式を用いて、順位依存モデルにおける長期的なポートフォリオの振る舞いを分析します。
- 5. 確率的ポートフォリオ理論の広がりと諸問題 - 規定的なアプローチとの関わり
- 確率的ボートフォリオ理論に関連する最近の文献や未解決問題のいくつかを紹介します。最適戦略や市場均衡問題への規定的なアプローチと、確率的ポートフォリオ理論のとる叙述的なアプローチの関係について興味を持って議論します。