地球温暖化に代表される気候変動を予測するために、数値気候モデルが用いられています。気候モデル内の雲・降水過程の扱いには、依然として不確定要素が多いことが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書において指摘されています。気候モデルの雲・降水過程の検証と改良が重要課題になっている現在において、全球規模でエアロゾルや雲、降水の情報を得られる人工衛星観測は、非常に重要な役割を担っています。
人工衛星を用いた気候モデルの検証方法として、
エアロゾル、雲、降水に関する物理量(質量や数密度)を比較する方法
大気放射に関する物理量を比較する方法
があります。前者において、衛星観測する放射量から雲などの物理量を得る必要があり、その手法をリトリーバルと呼びます。後者においては、気候モデルのエアロゾル、雲、降水などを含む大気情報から、衛星が観測する放射量を計算する必要があり、衛星シミュレータを用います。近年、前者の方法だけでなく、後者の衛星シミュレータを用いた検証方法が利用されるようになっています。リトリーバルには、エアロゾルや雲の物理特性をある程度仮定する必要があり、前者の方法で気候モデルと比較した際に、この仮定が適切でないのか、それとも気候モデルの再現性が良くないのか、判断が難しい場合があります。後者の方法では、衛星シミュレータが、気候モデルの出力に対応する放射量を正確に、忠実に計算できる必要があります。両者ともに、リトリーバルと衛星シミュレータというモデルが必要ですが、衛星シミュレータは、より基本的な物理法則に基づいており、気候モデルの出力に直接対応しているので、気候モデルの問題点をより明確にすることができます。IPCC報告書に向けたCoupled Model Intercomparison Project(CMIP)おいても、衛星シミュレータによる気候モデルの検証が、重要な検証方法として提言されています。
Joint-Simulator(Joint Simulator for Satellite Sensors, Hashino et al. 2013)は、共同で開発する衛星シミュレータです。Joint-SimulatorはSatellite Data Simulator Unit (SDSU) (Masunaga et al. 2010)をもとに、JAXA/EarthCAREミッション(Illingworth et al. 2015, Wehr et al. 2023) で開発が進められています。Joint-Simulatorを用いてEarthCAREの模擬観測データも開発しています(Roh et al. 2023)。Joint-Simulatorは、特に、雲解像数値気象モデルや、全球雲解像モデルのデータを入力として計算を行います。検証により得られた知見は、現行気候モデルの改良や次世代気候モデルの開発に役立ちます。また、日々の天気や降水を予報する気象モデルの改良にも役立ちます。
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