語義・語源

Semântica e Etmologia


ポルトガル語の【capoeira】は《格闘技》の意味で使われる以前、古くから《鳥籠(とりかご)》や《再生林》などを指しました。カタカナではカポエイラカポエラカポエィラと表記されますが、庶民的な発音に近い表記は「カプエーラ=capuêra」です。本サイトでは一般的な表記【カポエイラ】を使います。

語義 Semântica

ブラジル・ポルトガル語の大辞典『Grande Dicionário Houaissによると、カポエイラは1562年に《鳥籠》、1577年に《再生林》、そして約3世紀後の1873年に《格闘技》の意味合いで辞書に登場しま。なお、ブラジルの公文書でカポエイラは《ならず者》の意味で19世紀前半から使われていました。

オンライン辞書『Michaelis』では、以前、カポエイラは「サバットより暴力的なブラジル伝統の格闘術で、時折ナイフや剃刀が使われる」と定義されていましたが、時代の変化に合わせて現在は「ゲーム、格闘技またなダンスの一種、あるいはダンスに似せた格闘技。ビリンバウの響きの下で参加者二人が儀礼的に体を回転させたり、低く身を伏せたりする。アンゴラから連れ去られた黒人奴隷によってブラジルに持ち込まれたが再体系化され、当初はレシフェ市・サルヴァバドール市・リオデジャネイロ市で普及した。[1]と内容が改訂されました。

また、カポエイラが犯罪として定められた1890年の刑法では【capoeiragem】(カポエイラジェン)の名称が使われて、「capoeira」(カポエイラ)はその《使い手》、すなわち「capoeirista」(カポエイリスタ)の意味で使われていました。ちなみに刑法でカポエイラジェンは「ストリートや広場などの公の場で素早くて機敏な運動」と定義されていました。[2]

語源 Etmologia

ブラジル・ポルトガル語の多くの辞書でカポエイラ[格闘技]の語源は《不明》または《諸説あり》とされていますが、広く受け入れられている3つの語源説を紹介します。

トゥピ語 Tupi

通説として最も浸透している語源(俗解)は、その昔、カポエイラが行われていたとされる《野原》、あるいは逃亡した奴隷が身を潜めた《茂み》を表すトゥピ語の「kaá-pûera」、すなわち【森だった場】を由来としています。

Carvalho , Moacyr Ribeiro. Dicionário tupi (antigo)-português. Salvador - Bahia, 1987.

しかし、1968年に初版が出版された民俗学者ヘゴ(Waldeloir Rego, 1930-2001)の著書『Capoeira Angola - ensaio socioetnográfico』(仮訳:カポエイラ・アンゴラ 社会民俗学的エッセイ)では、カポエイラ[再生林]の正しい語源はトゥピ語の「kó-pûera」、すなわち【畑だった場所】であると半世紀も前に指摘されており[3]、(旧)トゥピ語・ポルトガル語辞典『Dicionário tupi (antigo) - português』(Carvalho, 1987)でも《森(kaá)》を由来とするのは間違いであるとはっきり書かれています。

旧トゥピ語tupi antigoを指す(トゥピ大語族[macro-tupi]に属するトゥピ・グアラニー語族[tupi-guarani])。なお、「トゥピ・グアラニー」はひとつの部族ではなく、南アメリカ大陸の《トゥピ・グアラニー語族》に属る言語(100以上)の総称です。

ポルトガル語 Português

語義として一番古い【鳥籠】をカポエイラの語源とする説は、家禽売りが使っていた《籠》の名称を由来としています。フランス人風俗画家デブレJean-Baptiste Debret, 1768-1848)の1830年代の作品『Nègres vendeurs de volaille』(仮訳:家禽売りの黒人)では、頭にカポエイラ[鳥籠]を乗せた黒人奴隷の姿が画かれています。

Jean-Baptiste Debret, Marchand de cestes, paniers qui portent sur la tête & Nègres vendeurs de volaille, 1834-1839.[4]

籠は家禽を入れる用途以外にも、船荷の積み下ろしなどの荷物運搬のために欠かさなかった道具で、同じくデブレの作品『Marchand de cestes, paniers qui portent sur la tête』(仮訳:頭に乗せる籠の売り手)では籠売りそのものがモデルになりました。

バントゥー諸語 Banto

ブラジル・ポルトガル語のアフリカ起源借用語辞典『Dictionary of African Borrowings in Brazilian Portuguese』(Schneider,1991)では、カポエイラの語源として【突っ込む・転倒させる】を意味するムブンドゥ語の「kupwila」と【手をたたく】を意味するキンブンド語の「kapwela」が挙げられ、カポエイラの起源はプランテーションの奴隷小屋(senzala)であったとの解説もあります。[5]

バントゥー語辞典『Novo Dicionário Banto do Brasil』(Lopes, 2003)によるとカポエイラの語源は【強打平手打ち殴打】を意味するムブンドゥ語の「kapwilaで、リオデジャネイロ市の家禽市場で暇つぶしに黒人奴隷がカポエイラをしていたのが由来との発祥説も紹介されています。[6]

また、バントゥー諸語の言葉とポルトガル語のカポエイラ鳥籠]の発音が偶然にも似ていたことで、奴隷主の前でカポエイラ[格闘技]の話しをしても何事か気付かれず、暗語として黒人奴隷にとって好都合だったのではないかという考察もあります。[7]

その他 Outros

カポエイラ(別名 uru、学名 Odontophorus capueira、和名 ジャネイロイウズラ)の名で知られている【】を語源とする説もあります。縄張り意識の強い雄が喧嘩する姿にカポエイラ[格闘技]が似ていると言われていますが、実際にはそのような生態は確認されていないようです。[8]

カポエイラ(ジャネイロウズラ )[9]

また、逃亡した奴隷が盗賊と化して、郊外のカポエイラ[再生林]を隠れ家にしていたことから盗賊もカポエイラ、すなわち【ならず者】と呼ばれるようになり、それらの盗賊が使っていた格闘術も《カポエイラ》として知られるようになったとの語源説もあります。

参考料 Referências

脚注 Notas

  1. Michaelis On-line, Diconário Brasileiro da Língua Portuguesa. Editora Melhoramentos Ltda. https://michaelis.uol.com.br/palavra/7xmD/capoeira/ (Retrived 2022-4-13)

  2. Decreto n.847, de 11 de outubro de 1890. Cap. XIII, dos vadios e capoeiras. Art. 402.

  3. Capoeira Viva, Volume 5. Rego, Waldeloir. Capoeira Angola: ensaio sócio-etnográfico. Salvador, 2015, p. 31-36. ISBN: 978-85-67589-38-1

  4. The New York Public Library Digital Collections. https://digitalcollections.nypl.org/items/510d47df-797b-a3d9-e040-e00a18064a99

  5. Schneider, John T. Dictionary of African Borrowings in Brazilian Portuguese. Hamburg: Helmut Buske Verlag, 1991, p.104. ISBN: 3-87118-979-0

  6. Lopes, Nei. Novo Dicionário Banto do Brasil. Rio de Janeiro: Pallas, 2003, p.68. ISBN: 85-347-0348-5

  7. Kubik, Gerhard. Angolan traits in black music, games and dances of Brazil. Junta de Investigações Científicas do Ultramar, 1979, p. 29.

  8. Lussac, Ricardo Martins Porto. Análise das hipóteses sobre a origem da Capoeira por meio da etimologia ou de especulações sobre o vocábulo capoeira. Arquivo Geral da Cidade do Rio de Janeiro, v. 7, pp. 65-66.

  9. グールドと鳥類図譜 玉川大学教育博物館 http://j-gould.tamagawa.jp/db/default/categorypage/1327