第6回勉強会

第6回勉強会 「アフリカの天然資源と開発―ガバナンス向上に向けた取り組み」

講師:小林 隼人 氏 (University College London, Development Planning Unit, 博士課程)

日時・場所: 2009年4月25日(土) 午後2時30分~4時30分

/ロンドン大学SOAS

配布資料: プレゼンテーション資料

「アフリカの天然資源と開発」 [閲覧]

議事録: 勉強会議事録 [閲覧]


■ プレゼンテーション要旨

• 環境破壊は古代から存在する。歴史や地理を知ることは、現在のアフリカの自然環境や天然資源の状況を把握する助けになる。

• アフリカの多くの国では、莫大な天然資源(石油、ダイヤモンド、銅、コバルト等)が存在するにも関わらず、それらをうまく開発につなげることができなかった。そればかりか、天然資源の存在が各国における紛争、環境破壊、健康被害、社会問題を引き起こし、また長引かせる原因となった。

• 天然資源のガバナンスの向上に向けて、透明性や公平性向上の試みが進められている。また、アフリカ域内統合、ハード・ソフト両面でのインフラ整備の動きも活性化している。

• 中国のアフリカ進出の動きに対応して、先進国はパリ宣言・援助協調といったドナーコミュニティの枠組に中国を取り込もうとしている。

• 日本の対アフリカ支援の戦略として、日本の高い環境技術を生かすこと、住民主体の「下」からの開発に対しての支援が考えられる。


■ プレゼンテーション議事録

第6回 「アフリカの天然資源と開発」資料1/1

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1.歴史と環境、環境と人間

<古代からある環境破壊>

• 環境破壊は、産業革命後に始まったと思われがちであるが、実際には古代から存在する。例えば、古代のレバノン杉は舟や建物の梁を用途として大量に伐採された。また、古代ローマでは、貨幣に使用する銀を精製する際に煙突から排出される煙で空気が汚染された。その結果、住民から苦情が出たために煙突を高くしたという記録が残っている。


<環境が人間に与える影響>

• 『銃・病原菌・鉄』:環境や地理といった要因が人間に与える影響を描いた著作。次作、『文明崩壊』でも同様のテーマを扱っている。

• 『地中海』:ブローデルによる3 部作。第1 部を環境・地理の分析に費やすなど、環境にも着目して人間の歴史を考えるアプローチが注目される=アナール派

• 新しい歴史学:支配する側から描く歴史ではなくて、支配される側から描く歴史。声なき声を拾う試み。


<4 月25 日 ― 過去に何があったか>

• 1859 年4 月25 日:スエズ運河着工

• 1185 年4 月25 日(旧暦3 月24 日):壇ノ浦の戦い


2.環境から見るアフリカ

<自然環境に大きく依存した経済>

• 農業・漁業に依存している人口の割合が高く、温暖化や乱獲によって生計が脅かされている。


<世界一標高が高い大陸>

• 大きな高原地帯が存在し、滝などのによる段差が多いため、ライン川・ドナウ川を有するヨーロッパのように川をインフラとして使用できない。

• 一方、標高の高さ(=水力発電ポテンシャル)を生かし、ダムを建設することでCDM のカーボン・クレジットを取得する可能性が注目を集めている。

• サハラ砂漠の北側にソーラーパネルを設置して太陽光発電を行い、ヨーロッパへ売電する可能性もある。


<East Side Story>

• アフリカは人類発祥の地。人間とチンパンジーが分かれたのは東部アフリカであるが、その背景にも地理的要因があった。その一帯で地面が盛り上がった結果、西側から吹く風がその壁に当たり雨として降り、壁の東側は乾燥して森が消滅したため、チンパンジーは仕方なく森から出てきて二本の足で立って歩き出した。

• その後、アフリカの東側から移動を始めた人間は、アフリカ大陸、ヨーロッパ大陸、アメリカ大陸において、大型哺乳類の大規模な減少を引き起こしつつ発展してきた。


<プレートから見える資源大陸>

• 大昔、地球がひとつの大陸であった頃の地図を見ることで、現在資源が存在するエリアを把握できる。例として、南米ベネズエラ辺りからアフリカのナイジェリア、アンゴラに抜ける線には石油が、チリからザンビアに抜ける線には銅が存在する。

• アフリカの天然資源の生産量は、現在のみならず将来(見込)においても世界一位である。また、アフリカ大陸には、まだきちんとした地質調査が行われていない土地が存在するため、今後新しい資源が発見される可能性もある。


3.資源価格の高騰

<資源価格の高騰>

• 金や銅価格の高騰の理由として、アジアの需要増、投機マネーの流入、輸出国のインフラ整備不足(需要増に対して、生産が追いつかないため)が挙げられる。貴金属については、ドルの信用不安という理由もある。


<莫大な資源がありながらなぜアフリカは貧しいのか?>

• サブサハラ・アフリカ諸国では、GDP、HDI(人間開発指標)ともに低い数値である。


• ザンビア

- 莫大な資源(銅、コバルト)があり、援助資金も多く流入したにも関わら

ず、開発につなげることができなかった。

- 1964 年(独立)から5 年後に銅鉱山を国有化したが、資本集約型産業にもかかわらず、コネ採用などで不必要な雇用を進めるなどの経営失敗により、無駄なコストが発生していた。その結果、1974 年の銅価格の下落に対応する体力がなく、大きな経済ショックを受けた。

• コンゴ民主共和国

- タンタル(パソコンや携帯電話のコンデンサに使用される金属)、ダイヤ、金、コバルトなどを産出するが、資源が紛争を引き起こし、また長引かせる原因となっている。

- コンゴは歴史的にヨーロッパ人にとって興味深い未知の国であった。

- Joseph Conrad (1902) “Heart of Darkness”「闇の奥」:ここでの「闇」はいろいろな解釈が可能。


4.天然資源のガバナンス

<天然資源のガバナンス>

• 不透明な収益と資金の流れ:誰がいくら支払い、儲けているか見えにくい。

• 不公平な契約

- アフリカ国家政府-企業間:弁護士の質と数、資源の埋蔵量等に関する知識に大きな差があり、利益の殆どが外国企業に行ってしまうような不公平契約の原因となることがある。

- 中央政府-地方政府-(先)住民間:地方で天然資源が採れるにも関わらず、中央政府が利益を吸い上げる一方で地方へ還元をしない。最近の採鉱では機械化が進んでいるため、(先)住民が雇用や教育の恩恵を受けられない。

• 環境破壊、健康被害:鉱石の輸送のため、鉄道やトラックが使用されるが、HIV/AIDS のリスク・グループであるトラック・ドライバーを通じてHIV 感染が進む。

• 紛争・社会問題:ダイヤモンドが武装勢力の資金源となる。ダイヤモンドを採掘する際にダイナマイトを使用するため、採掘現場近くで騒音の発生や住民の立ち退きや一時避難が必要となるが、ダイヤモンドによる利益は地元に

は落ちないため、企業と地域住民との衝突が起こる。

• Gold rush の問題:ある地域で金やダイヤモンドが出たというニュースが広がると多数の人が押し寄せる結果、治安・衛生問題が発生する。


<透明性向上の試み>

• EITI (Extractive Industries Transparency Initiative:採取産業透明性イニシアティブ)

- 2002 年、ヨハネスブルグにてブレア前英首相が提案

- 企業からの支払いと政府の受取額の帳簿合わせ・整合性確認

- 委員会設置等を通じてレビュー及び公開

- 加盟国は多いが、実際には、本プロセス「署名→ステークホルダー委員会設立→プロセス整備(資金確保)→公開→議論→レビュー」を通過した国は少ない

• EITI++

- 一昨年辺りから提唱。国家による資源収入の使途(例えば、教育、保健セクター)にも踏み込んでいるが、まだ未整備である部分が多い。

- ドナー(例えば世界銀行)としては、相手国政府に資金を渡す前にいかに

使途に対してコミットメントをとれるかがポイント。ただし、条件を付けすぎると問題となるので、バランスが大切。

- 政府のガバナンスに大きな問題がある国は、コンディショナリティ付与は必ずしも悪いものではないと思われる。


<紛争ダイヤモンド>

• 紛争ダイヤに対する懸念が高まり、国連による制裁=ダイヤ禁輸措置につながる(アンゴラ、シエラレオネ、リベリア、コンゴ共和国、コートジボワール)

• デビアスにとっても、自分達の流通ネットワークに乗っていないダイヤが出現することは望ましくない。民間企業と国際機関との利害が一致。


<キンバリープロセス(Kimberley Process Certification Scheme: KPCS)>

• ダイヤモンドの認証制度に係る本プロセスには 48 の国・機関が参加(日本も参加)

• 本プロセスには一定の効果があるが、実効性に疑問の声も多い。特に、産出国の一部では国境のコントロールが緩いため、禁輸されていない国を迂回した輸出が行われている可能性が高い。

• Madison Dialogue:ジュエリーのイメージを改善するため、2006 年以降ニューヨークのMadison Avenue に店舗を構えるTiffany などの小売側から始まった試み。小売企業とNGO とのパートナーシップを通じて、ダイヤモンド採掘現場の労働環境を改善するなど。


<資源ガバナンス:EITI、KPCS の先へ>

• 紛争以外にも問題は山積みである。例えば、劣悪な労働環境、緩い環境規制等。また、規制があっても機能していない場合も多い。

• 児童労働の問題も挙げられているが、シエラレオネ等の紛争を行っていた国では母子家庭が多く、子どもが稼いだお金が家族の生活費となっている場合もあるので、児童労働を一律に禁止することもできない。現地の状況、ニーズに合った細かい対応が求められる。

• 金の精製に使用される水銀による被害の初期症状はマラリアに似ているため、水銀被害が見逃されがち。


5.資源を軸にした地域インフラ

<地域統合の試み>

• ECOWAS (西アフリカ諸国経済共同体)、Mano River Union (シエラレオネ、ギニア、リベリアの3 カ国で構成する連合):域内の便益最大化が目的

• 言葉の壁や地域紛争の問題が存在する。

• 旧宗主国の違いや、ドナーの連携不足で、各国のインフラの整備状況や鉄道の線路幅が違うなど規格の違いも問題となっている。


<ソフトのインフラ整備>

• Regional Mining school を設立して、西アフリカの人材を育成しようという動き(一ヶ国だけで行うとすると人材需要が足りない。また、対企業競争力に欠ける)

• 地域における採鉱ファシリティの導入:企業との契約の際の公的業務を支援し、産出国にフェアな取り分が落ちるようにする。例えば、金の場合、現在ではGross value(金の価格×量)と比べた場合、産出国の取り分が明らかに少ないため、ロイヤリティの配分の見直しや市場価格との連動など、契約内容、金価格、税金の割合を変える試みがある(例えばボリビア等、南米の一部の国では、金の価格によって税率が変動する仕組みを採用している)。

• マーケットの多角化→原石を売るのではなく、より付加価値の高い加工品を輸出した方がアフリカにより多くの利益が落ちる。富裕層ではなく、質が高くなくても低価格であればニーズがあるインドなどの中所得層を対象としたマーケットを狙う。


6.中国及び日本の援助政策、そして今後

<中国のアフリカ進出>

• 中国とアフリカとの関係は「互恵」であり、パリ援助宣言のおける「援助」とは違うというのが中国側の言い分。

• スーダンやジンバブエといった国に対する独裁者支援という中国批判もあるが、それ以外の産油国は国有化されているか、既に西側諸国に押さえられていたため、中国の選択肢が他になかったという一面もある。


<日本とアフリカ>

• 日本の強みは環境技術の使用方法にある。

• ギニアの森林伐採の事例が示すもの:従来の理解は、ギニア住民が焼畑農業を行うため森林が破壊されており、政府が住民を追い出して森林を保護しなければならないというもの。しかし、近年の衛星データを用いた調査によると、住民は植林や定期的な手入れなどを通じて森林育成に寄与していたという結果が得られた。日本がアフリカに対して支援を行う際には、政府対政府ではなく、現地住民側からの協力が得られる「下」からの支援の可能性がある(その際には、日本の大学やNGO とのネットワークを通じて支援を実施)。


<金融危機、その後>

• 鉄や銅など、実態経済に依存する資源の価格は特に大きな打撃を受けている。

• 天然資源があるうちに掘り終えた後の経済をどうイメージするか、そして、天然資源のガバナンスが重要


【質疑応答】

[質問1]企業がダイヤモンドを発掘する地域はどう決まるのか?

[回答]ダイヤモンドを発見する仕事は、大会社の下請け会社が実施することが多い。そこから企業と政府との交渉が開始されるが、その土地に(先)住民が存在する場合、政府による住民の追い出しといった問題が起こる。アフリカ諸国の憲法には「地面の下に存在するものは全て国の所有物である」旨が明記されていることが多く、憲法が制定される独立前から住んでいる先住民と、政府・企業とが衝突する原因となっている。


[質問2]「問題国家」の何が問題なのか?

[回答]西アフリカでは、近代国家の成立以前は部族国家であった国が多く、元々ローカル・ルールが存在していた。そうした土地では、近代国家の行政官は、昔ながらの地方のボスと協調をしないと選挙で当選できず、天然資源の利権が政治的な駆け引きに用いられる。このように、天然資源を誰が所有・分配するかのルールが不透明である状況がガバナンス上の問題となる。また、資源ガバナンスという観点から見た問題点以外にも、様々な「問題」があるだろう。


[質問3]ダイヤモンドなどの天然資源を有するボツワナは、資源管理がうまくいっており、高い経済成長率を達成しているが、その成功要因は何か?

[回答]ボツワナの事例は、天然資源があると必ず汚職や紛争につながるのではなく、誰が資源の所有権を持ち、どのように管理するかが肝要であることを示す良い事例。ただ、現在の不況でダイヤモンドの売れ行きが激減し、同国のジュワネン鉱山が操業停止に追い込まれるなど、先行きは不安定。外貨収入の8 割がダイヤモンドというのは大きなリスク要因であり、天然資源のみに依存するのではなく、資源収入がある間に経済の多角化を目指すのが望ましい。


[質問4]Ethical (jewelry) trade にはどういった問題があるのか?また、市場に

入っていくことができるのか?

[回答]いくら原石よりも加工品を輸出した方がアフリカにとってよいとはいっても、質が良いものでなければ売れない。現在は、ethical jewelry はニッチであり、そのマーケットの規模が小さいため、うまくいっている側面が強い。

今後、購買層の拡大を図るには、加工品の質を上げる努力が必要。


[質問5]中国のアフリカ進出は、日本の援助政策にどういった影響を与えてい

るか?

[回答]日本政府も商社出身者をアフリカの大使に起用するなど、資源外交に力を入れつつあるが、現地で中国と同じことができるわけではないし、またする必要もない。援助については、中国をいかにドナー・コミュニティで他ドナーと同じ土俵に乗せるかが重要。先日中国が、最貧国向け機関である世銀IDAに対して初めて資金を拠出したように、中国も援助国となりつつある。アフリカで競争するよりも、ワシントンで他ドナーとともに中国を取り込んでいく方が得策ではないか。


[質問6]ポール・コリアーが著書「The Bottom Billion」(『最底辺の10 億人』)で述べていたlandlocked countries(海に面していないために自国資源を輸出できない。自国の発展が近隣国のインフラ状況に依存する)の問題はあるか?

[回答]自国の発展が周辺国のインフラにある程度依存するというのは大きな問題であるが、スイスのように輸出のためのインフラが整っている内陸国もあり、地域インフラを共同コストで改善してゆくことが重要。


[質問7]日本が石油獲得のために積極的にアフリカ進出しないのは何故か?

[回答]もう日本が進出する場所がない、あるいは政治的な理由もあるだろう。原油の質という側面からみると、石油の特徴として、1) 重い/軽い、2) sweet(硫黄分が少ない)/sour (硫黄分が多い)という分類がある。日本の精製業界は、sour な石油を公害を引き起こさずに処理する能力に長けており、中東の硫黄分の多い石油を上手く精製することができる。中国では、石油需要がより切羽詰っており、なりふり構わずアフリカにも積極的に進出しているが、市場価格よりもだいぶ高値で買っているという報告もある。


[質問8]外国からのアフリカへのインフラ投資はどういった理由で行うのか?

[回答]理由はまちまちであるが、採取産業について言えば、鉄鉱石を輸送するために貨物用鉄道を敷設するなどの投資が行われるのが一般的。こうしたインフラ投資計画に、例えば世界銀行が追加的に出資することで、ルートを変更するなど、資源の輸送だけでなく、より地域のニーズ、公共性に即したインフラとなるように提案することもある。


[質問9]アフリカ連合(AU)としての取り組みは?

[回答]AU の取り組みとしては、例えばアフリカ域内のハブとなる空港、港を中心としたネットワークを今後どうやって整備していくかが考えられる。


[質問10]近代国家の行政官と伝統的なリーダーとの関係について、ドナーにできることはあると思うか?アフリカで問題がある地域では、行政機関が上から押さえる方がうまくいくということはないのか?

[回答]上から押さえる方がうまくいく、つまり、植民地時代のほうがうまくいっていたのではという意見もあれば、植民地時代の遺産が現在の汚職の種になったという主張もある。ただ、上から押さえつける場合は、どうしても目が行き届かなくなる。ギニアの住民による森林保護の例のように、地域に存在するノウハウをいかに活用してゆくのか今のトレンド。日本が進めようとする人間の安全保障の観点もこれに近い。