インタビュアー:KIM Minsu (The University of Manchester修了)
今回キャリアインタビューにご協力いただいたのは、現在サステナビリティの専門家としてご活躍されているY.S様です。国内の大学院を修了後、環境系団体にてキャリアをスタートされ、その後複数の民間コンサルティング会社にて国際協力・サステナビリティ領域の経験を積まれました。その後、The University of Edinburgh Business Schoolに進学され、MSc Climate Change Finance and Investment の修士号を取得されています。現在は日系金融機関にてカーボン・クレジット関連の業務に従事されています。本インタビューでは、「サステナビリティ」を軸にキャリアを積まれてきた中でのモチベーション維持や意識してきた点などを伺いました。
※本インタビューはY.S様がキャリアチェンジを検討されている入社前のタイミングで実施させていただいた内容に一部補足して記事化したものとなります。
主に二つの出来事が印象に残っています。
まず、「沈黙の春」での著者として知られるレイチェル・カーソンの伝記に強く影響を受けたのがきっかけです。20年程前に読んだのですが、当時は女性の伝記自体が珍しく、「こんな生き方もあるんだ」と感じたことが印象に残っています。彼女の著作は難しい科学の内容をわかりやすく伝えており、この経験から「科学というベースがあってこそ、社会を動かすことができる」という考えを持つようになりました。また、身の回りの環境に科学がどう役立っているのかを知ることも楽しかったですね。
また、幼少期に両親に連れられてよく山登りに出かけ、自然と触れ合う時間が多かったのも一因です。自然の中で過ごすことが好きだった一方で、発展途上国では森林が失われていく現状に疑問を持ちました。最初は法制度が原因ではないかと思いましたが、実はガバナンスの問題も関係しているのではないかと考えるようになりました。次第に、人間と自然の二項対立ではなく、共に共存していく方法を模索するようになりました。
学部では農学部の森林科学科に所属し、主にバングラデシュの林業を対象にフィールドワークを実施していました。充実した環境ではありましたが、より専門性を高めるために大学院では他大学の研究室に移り、主にブラジルのアマゾン地域における森林問題に取り組みました。具体的には、森林破壊問題やアグロフォレストリーに関する調査を中心に、現地で計4回、合計半年にわたってフィールドワークを実施しました。時には虫に刺されて体調を崩しつつも、現地に入り込んで調査を続けました。
研究は社会科学寄りのアプローチで、農家がなぜ単一作物ではなく、林業と組み合わせた混合栽培を選択するのか、その意図をインタビューやアンケートで丁寧に聞き取りました。例えば、「なぜモノカルチャー(単一栽培)よりも手間のかかる混合栽培をしているのか?」「それぞれの作付け面積はどのくらいか?」など、現地の実態を詳しく掘り下げています。GISなどのデータ活用も検討したものの、当時は十分なデータがないため、主に聞き取り調査に重点を置いていました。
研究のアプローチ方法としては、仮説をあらかじめ立てて検証する「仮説ベース型」ではなく、何度も現地を訪れて現状を観察し、自分なりの仮説を見出す「仮説発見型」の研究手法を教授から勧められ、実施していました。
調査の中で、集落の中心から遠い場所ではアブラヤシ栽培が多く見られましたが、「なぜそうなるのか?」といった疑問を持ち、現地の人々の声に耳を傾けながらその背景を探った経験が印象に残っています。
最初は環境系団体の研究者としてキャリアを開始しました。「自然保護や環境問題に関わる仕事がしたい」と思っていたため、本団体をファーストキャリアに選択しました。
最初はリサーチやレポート作成がメインで、主に論文というよりは中央省庁やJICA向けの報告書を執筆したりしていました。入社後の主な業務は砂漠化対処業務が中心でした。例えばモンゴルに行ったり、環境省のプロジェクトに携わったりしていました。最初のうちはサポート業務が中心でしたが、徐々に自分の興味・関心であるアグロフォレストリーに関連する案件にも携わるようになり、貴重な経験を得ることができました。
仕事内容としては自分の関心とも一定の親和性はあったのですが、次のステップとして、より自己成長ができるチャレンジングな環境に身を置きたいと考え、コンサル業界への転職を決定しました。
大阪にある大手監査法人のアドバイザリー事業部へ転職し、主に官公庁をクライアントとした官民連携(PPP)やPFI案件を担当しました。当初は「サステナビリティや環境分野とは直接関係がないのではないか」と感じていたのですが、結果的に後になって現在取り組んでいる業務にも役立つ知識を得ることができたと思います。
その後は、ODAや途上国支援に携わりたいという思いから東京オフィスへ異動し、インドの眼科器具の導入支援やネパールの小水力発電案件をはじめ、ベトナムでの感染症キットの導入支援、アフリカ地域の調査業務など、SDGsに関連した国際案件を多数担当しました。途上国の課題とそれを解決する日本の技術をマッチングし、プロジェクトを推進できたことがやりがいでした。また、これらの公共系のプロジェクトは業務成果がレポートとして残り、多くの人に読んでいただけたことも嬉しかったですね。
約5年ほど当領域で経験を重ねた後、外資系戦略コンサルティングファームへ転職しました。グローバルな環境での業務や、大企業向けのコンサルティングに挑戦してみたいという気持ちがあったためです。実際に脱炭素関連のプロジェクトに関わることもありましたが、全般的には環境分野以外の幅広いテーマの案件に携わることが多かったです。「やりたいことをやる」というのは簡単ではありませんが、その中でも「森林」という軸との繋がりを完全に切らさないよう、意識的にキャリアを築いてきたと思います。
カーボンクレジットについて改めて体系的に学び直したいと思ったのがもう一度大学院に進学することを決意したきっかけです。元々アメリカとイギリスの大学院を検討したのですが、前者は2年間であるためキャリア中断などの懸念もあり、一年間で修士号を獲得できるイギリスを選びました。
そのような経緯でイギリス大学院に絞ったのですが、カーボンクレジット等を専攻できる大学はあまり多くありませんでした。エディンバラ大学は名称は違えど、日本国内でカーボンクレジットがトレンドになる10年以上前から類似したコースを提供しており(例:サステナブルファイナンス)、該当分野で歴史があるように感じました。また、研究よりは実務寄りのコース設計となっており、実務に活かせることを学びたいと思い、進学を決意しました。
大学院ではカーボンクレジットに関する授業を受講し、「責任ある投資」やエネルギー・ファイナンス、カーボン会計等を学びました。その中でも特に印象に残っているのは、Climate Change Consulting Projectという授業です。本授業ではGoogleやNestleといった大企業や環境系VC (ベンチャーキャピタル) などをクライアントとして選択し、実際に気候変動関連プロジェクトのコンサルティングを行いました。
コースメイトの出身国の分布に関しては、約半数がアジア出身、残り半数がヨーロッパやアフリカなど、かなり多様性が担保されている印象を受けました。大学側がコース内の多様性を維持するために一カ国の学生の割合が全体の10%を超えないように調整していたようです。コース人数は約50名程度でしたが、アジア系は中国やインドネシア出身の方が比較的多く、日本人は私を含め3人でした。
住環境に関しては、最初の3ヶ月は学生寮で暮らしていました。その後は他の女性の方と2人でシェアハウス生活を始めたのですが、スコットランドの現地の暮らしを楽しむことができ、裏庭の緑や紅葉がとても綺麗だったのが印象に残っています。
裏庭からの風景とよく部屋の窓に遊びに来るカモメ
修了後は、イギリスと日本の双方でカーボンクレジットや森林関連の仕事を中心に就職活動を進めていました。イギリスでの就職も視野に入れていたのですが、仕事の選択肢が限られていたことに加え、円安やインフレの影響で生活コストが大きくなると感じたため、日本へ戻る決断をしました。
帰国後に日本での就職活動を開始し、現在は日系金融機関のカーボンクレジット関連部署に所属しています。カーボンクレジットは特に最近日本においても関心が高まっている領域で、カーボンクレジットの仲介やプロジェクト開発など、さまざまな新規ビジネスに関わっています。
カーボンクレジット自体がまだ新しい分野ということもあり、未経験からの挑戦となりましたが、イギリス大学院で学んだ知識や経験が十分に活かされていると感じており、日本のカーボンクレジットへの関心が高まっているこのタイミングで留学を決断して本当に良かったと思っています。ただ語学面ではもっと若い頃に留学していてもよかったかなと感じていますし、もう少しイギリスにいたかった気持ちもあります。
大きく二つあります。
まず一つ目は、「自分の興味や関心を言語化し、周囲に発信し続けること」です。会社でも大学院でも共通して言えることですが、自分のやりたいことを周囲に伝え続けることで、その想いに共感してくれる人が現れたり、思わぬご縁に繋がることがあります。ただ、そのためには日々の業務や学業に真摯に向き合い、信頼関係を築くことが大切だと思います。
二つ目は、「キャリアの軸を持ち続けること」です。私はこれまで、「森林」というテーマを軸に、環境系団体・民間コンサル・金融機関という様々な環境で経験を積んできました。時には「今やっている仕事は自分の興味に直接関係していないのでは」と感じることもありましたが、数年後に点と点が繋がり、当時の経験が活きる場面が何度もありました。
キャリアは一直線に積み上がっていくものではないと思います。迷ったり、立ち止まることもあると思いますが、ぜひ「自分は何に関心があり、何を大切にしたいのか」という軸を持ち続けながら、目の前のことに丁寧に取り組んでみてください。その積み重ねの先で、きっと点が線になって繋がっていくはずです。応援しています!