インタビュアー:加藤晴奈(開発コンサルタント)
後藤正太郎さんは、日本の大学院にて修士課程を修め、開発コンサルティング会社に入社し、University College London(UCL)の修士課程に進学されました。その後、UNICEF(国際連合児童基金)のガンビア事務所で勤務されたのち、帰国後は再び開発コンサルタントとして日本で勤務を続けつつ、博士課程にも在籍されています。今までのキャリアと大学での研究の結びつきや、専門性を高めていくことへのモチベーションについて伺いました。
加藤:後藤さんの簡単なご経歴を教えていただけますか。
後藤:はい。私は日本の大学院を卒業後、新卒で建設コンサルタント、いわゆる開発コンサルタントの業界に入社しました。その後、ビジネス系のコンサルタント会社に転職し、イギリスの大学院に進学しました。留学中はイギリスでリサーチインターンのような業務も経験しました。その後、UNICEFのガンビア事務所で働き、昨年、日本に帰国して再び開発コンサルタントの仕事をしています。
また、働きながら博士課程にも在籍しており、一昨年の4月に入学しました。
加藤:イギリスの大学院の在学中も、お仕事をされていたのですね。
後藤:はい。初めは、日本から仕事を業務委託契約で受けました。その後、留学中に開発分野の業務経験をさらに積みたかったので、ロンドンにある機関で低中所得国の都市衛生に関するリサーチ業務に従事しました。契約はインターンでしたが、報酬を受け取っていました。
加藤:日本の大学院で修士号を取得後に働かれて、イギリスで2つ目の修士号を取られたということですが、それぞれのどんな学位を取得されましたか?
後藤:1つ目は環境系の学位で、2つ目は工学系の学位です。
加藤:それぞれ多少異なる分野での修士に進まれたのですね。修士号から修士号というのは珍しいと感じましたが、なぜあえてイギリスで再度、UCLの修士課程に進もうと思われたのでしょうか。
後藤:大きく2つ理由があります。1つは、海外で働きたかったということです。日本の学位だけだと、海外でのインパクトが弱いと感じたので、それが1つ目の理由です。
もう1つの理由は、イギリス留学前にビジネス分野での業務経験を積んだことで、、工学的な視点から衛生の専門家になりたいと考え、その分野で実績のある教授の元で学びたいと思ったからです。今後のキャリアを考えて、大学院で学びたかったというのが理由です。
加えてイギリスの大学院は1年で終わるので、短期間で修了させたかったというのもあります。
加藤:では、後藤さんの場合は、日本で働いてみて、海外の大学院で学ぶことが必要だと感じてイギリス大学院進学を決められたということですね。
教員の専門分野で選んだということもおっしゃっていましたが、国際協力系ではUCLよりもサセックスなども候補としてあると思います。その中で、あえてUCLを選んだ理由は、先ほどおっしゃった実績のある教授が在籍していたという要素が大きいのでしょうか。
後藤:その通りです。私は環境系で修士号を日本で取得していたため、サセックスのような社会学系に強い大学だと、私の目指す専門とは違うと感じました。サセックスは開発学で進む方が多いと思いますが、私は理系学部で学びたかったので、UCLが選択肢となりました。
加藤:衛生ということで、UNICEFではガンビア事務所でWASH(水と衛生事業)を担当されていたとのことですが、こちらはどんなお仕事だったのでしょうか。
後藤:大きく2つあります。まず赴任した時期は、洪水によってトイレが壊れた時期だったため、トイレの復旧や洪水に強いトイレの普及に関するプロジェクトに従事していました。
その後、引き続き洪水に強いトイレの普及に取り組んでいましたが、都市部では人口が増加していたため、都市を対象とした新しい衛生プロジェクトの立ち上げにも従事しました。
UNICEFの水衛生部門は、飲み水、手洗い、衛生(トイレ)に関するプロジェクトを主に実施していますが、私は衛生の専門性が強いため、主に衛生関連の仕事をしていました。
加藤:水と衛生の分野は、私にとってはあまり馴染みがないのですが、国際機関の中ではメジャーな分野なのでしょうか。
後藤:メジャーではないと思います。例えば、UNICEFでは、教育や保健の分野の方が、一般に予算規模も大きいと認識しています。ただ、UNICEFだけではなく、難民キャンプを支援するUNHCRなど、他の国連機関でも水衛生のプログラムを実施しているところはあります。
加藤:水と衛生の分野のプロジェクトを実施している国際協力関係の仕事はたくさんあるかと思うのですが、UNICEFで働こうと思った理由は何かありますか。
後藤:イギリス留学後に日本に直接帰国するつもりはなかったので、他にもいくつか応募先は検討していました。その中で、私の関心に近く、ご縁があったのがUNICEFガンビア事務所だったことが理由です。
最初はガンビアについては全く知らなかったですが、西アフリカには学生時代に行ったことがあったので、雰囲気は少しわかっていました。
加藤:国際機関で働いている方々はどういったキャリアを持っているのか、またどんな雰囲気なのか気になります。ガンビアの事務所ではどんな方々が働いていたのでしょうか。
後藤:事務所によって異なりますが、インターナショナルとローカルスタッフ、合わせて大体40人ほどが働いていました。規模としては小さい方だと思います。特にインターナショナルスタッフは、様々な組織や任地での転職を繰り返す方が多いように感じます。
加藤:今、働きながら博士課程ということで、非常にお忙しいのではと思うのですが、どのようなモチベーションから博士課程の進学を決められたのでしょうか。
後藤:確かに忙しい日々ではあります。博士課程は元々関心がありましたが、本当にやりたいという強い思いになったのは、イギリスに留学していて、現地のリサーチ機関で少し働かせてもらった時です。その時に、理系の専門機関だったので、博士課程の人がたくさんいて、海外では博士号がすごく身近ということをまず感じました。これが理由の一つです。その後、国際機関で働いていた時に、自分が今後も海外で働いたり、日本の機関で海外に関わる仕事をしたりする場合、自分の強みを作りたいと思いました。海外の人と競争するには、語学やプレゼンが得意、豊富な人脈があるなど、強みが必要と考えました。でも、私にはそのような強みがなかったので、専門性については、「博士号」を持って博士号を持っている海外の専門家とも同じ土俵に立ちたいと考えました。
加藤:海外での経験や、海外の方からの刺激が博士課程へのモチベーションになったということですね。UCLの修士課程からUCLの博士課程に進学しなかった理由は何かありますか。
後藤:現在の日本の指導教官が、元々日本の修士課程の時の指導教官で、声をかけてくれたというのが一番の理由です。私は仕事が好きなので、仕事をしながら博士課程を続けることが可能であればいいなと思っていました。そのような環境を提供してくれるのが、現在の指導教官だったので、日本の博士課程を選びました。
加藤:国際協力関係の仕事をしている方だと、普通の会社員よりも博士号取得を視野に入れている方が多い印象があります。国際協力関係の仕事をしながら博士号まで頑張りたいという方へのアドバイスはありますか。
後藤:博士号を取りたいと思っているのであれば、早い段階で取ってしまった方がいいのではないかということです。理由は2つあります。まず、体力が落ちるということです。私も30代になって、20代の頃に比べて体力が明らかに落ちているので、無理が効かなくなっています。もう1つの理由として、30代でキャリアを本格的に引き上げていく時に、博士号が大きく効いてくると思います。
ただ、1点付け加えると、私は社会人経験をしてから博士号を取ってよかったと思っています。なぜなら、自分がこの分野で専門家になりたいという気持ちは、社会人経験がないと明確にはわからなかったからです。そのため、数年の社会人経験を積んでから博士課程に進むのが一番良いのではないかと思います。
加藤:後藤さんの場合は、学部生の頃に、大まかではあったとしても、すでにこの分野かなというのを見つけて、その方向をだんだん絞り込んでキャリアを築いていっているような印象があります。それに対して、国際機関で働きたいけれども、何を専門性にすればいいのかが見つからないという方も多いのではないかと思います。そういう方に、自分の専門性を見つけるコツを教えるとしたら、どんなことを伝えますか。
後藤:そうですね。私も実際に途上国に行って、自分がこれでやりたいというきっかけを見つけたので、現場に行ってみることをお勧めしたいですね。
ボランティアでも、どんな活動でもいいので、現地に足を運ぶことが大切だと思います。
加藤:国際協力系のキャリアを切り開きたいと考えている、学生の方と社会人の方に向けてそれぞれに何かアドバイスがあれば伺えたら幸いです。
後藤:そうですね、学生の方には、現地に興味があるなら、実際に行ってみることをお勧めしたいですね。社会人の方については、実際に社会人になると、どうしても足が重くなります。私も重かった時期がありましたが、なんとかなると思います。もし留学したいとか、国際協力の業界に憧れがあるのであれば、転職やチャレンジをしてみることも一つの方法だと思います。その際に大切にしているのは、何かあったときに自分に助言をくれるような方々との繋がりを大切にし、感謝の気持ちを忘れないことです。
加藤:最後に、後藤さん自身、10年後はどうありたいか教えていただいてもよろしいでしょうか。
後藤:そうですね、10年後には、途上国の衛生分野の専門家としてもっとキャリアを築いていたいと思います。世界のどこかで、自分の専門分野で活躍していたいと思います。
加藤:後藤さんのより一層のご活躍をお祈りしています。本日は本当にありがとうございました。