執筆:2024年7月18日
インタビュアー:KIM Minsu (University of Manchester)
小原瑠夏 (こはら るか)
現在のお勤め先: JICA協力隊 Uzbek-Japan Innovation Center of Youth
・KIM:こんにちは!本日はインタビューを引き受けて下さり、誠にありがとうございます。まず、これまでのご経歴や、前職の仕事の内容について教えていただけますでしょうか。
・小原:はじめまして!現在は青年海外協力隊 (JOCV) の一員としてウズベキスタンでコミュニティ開発に従事している 小原瑠夏 (こはら るか)と申します。まず、大学での学びやこれまでのキャリアについて軽くご紹介いたします。
大学時代は日本の大学で主に国際政治について専攻し、国際開発のゼミに所属して「国際○○協力」の○○の部分を探し、自分なりの国際協力の形を模索していました。大学3年生の時に一年間イギリスのThe University of Leeds に交換留学し、「遺産・文化関連」×「地域・開発・経済」という視点で、地域研究や博物館学を学んでいました。国際協力に携わりたいと思ったきっかけは大学二年生の時にゼミで訪問したインドでの経験があります。ちょうどデリーメトロが建設中で、日本の企業が関与していることを知り、日本の技術力を目の当たりにしました。その体験から、主に民間(企業)サイドから国際協力に関わりたいと思うようになりました。当時は民間の世界に行きたかったので、正直に言うと協力隊は無しかな~と思っていました(笑)。
就職活動はイギリス留学中に実施し、日本のモノづくりの技術力を活かして、民間企業という観点から社会にインパクトを与えられる仕事を探していました。
・KIM:ありがとうございます!民間の立場から国際協力に携わる方法を模索されていたんですね。それでは、次に大学卒業後のファーストキャリアについて教えてください。
・小原:大学卒業後は「積水化学工業株式会社」という化学素材メーカーに入社しました。インフラや中間素材、住宅部門などを持つ、モノ作りや技術力の分野で世界的に有名な会社です。合計8年間勤務していたのですが、時系列順にご紹介いたします。
2015~2020年:海外営業を担当し、トヨタやホンダといった自動車メーカーと協力して自動車の内装材 (例えば、工業用の両面テープ) を中国向けに販売していました。自分でこんなことをいってなんですが、この時期はぶっちゃけ暗黒期だったように感じます (笑)。というのも、社会にインパクトを与えたいと思って入社したものの、最初からそのような仕事はあまり無いと感じ、目標を見失っていたからです。また、国境を越えた長いサプライチェーンを取りまとめる大変さも痛感していました。2019年からは他の工業製品に携わり、まだ世の中に出ていない開発品の企画やマーケティングにも関与していました。
今思い返すと、現地の方々のお困り事やニーズなどを実際に現地に赴いて把握し、日本に戻って技術者に展開し、会社が持つシーズでソリューションを考えるという一連の流れに楽しさを感じていました。実際に、後ほど触れる協力隊を志した理由も、「現地の人が持つ困りごと、ニーズを丁寧に紐解きたい」という想いからであり、キャリアを構築するにおいて色んな視点を持つ重要性を実感しました。つまり、今は目標に繋がっていると感じられなくても、間接的に繋がっていて、どんな経験も無駄にはならない!ということです。
2021年~2023年:新しく設立されたノベーション推進部に立候補し、新規事業・企画に携わっていました。主に、社員なら誰もがアイデアを応募することのできる社内起業プログラムの制度立案から運営まで関わっていました。具体的には、どうすれば新製品や新技術が社会に出にくい中でアイデアを形にすることができるのか、どうすれば「イノベーション」を加速させることができるのかを考えていました。この部署は「社会のニーズ」と「会社のシーズ」の間を担い、また営業職や技術職といった職種を越えながら社員を巻き込んでいったので、様々なものの「間をつなぐ」ことが得意という自分の強みを活かすことができ、一番ワクワクとやりがいを感じていました。
会社の仕事だけでなく社会にも目を向け始めたことが、新しいチームに自ら手を挙げたり、新しい企画に挑戦するきっかけになりました。その大きなきっかけになったのが、JICAが2019年に主催した、新しい国際協力のアイデアを生み出すオープンイノベーションプログラムであるJICA Innovation Questに参加したことです。このプログラムは、JICAの職員と民間企業の参加者と一緒に、開発途上国の課題(当時はSDGsゴール2に関する課題)を、解決をするアイデアを創出するものでした。私はタジキスタンのチームに参画して最優秀賞優勝し、実際に現地に渡航してフィールドワークも行うことができました。タジキスタンで多くの方々と接した経験から、もっとその国の人々の考え方や価値観、文化について深く知りたいと感じました。もちろん売り上げや利益等を考える民間セクターのアプローチも重要ではあるのですが、一度、社会課題解決に集中してみたいと思うようになりました。ちょうど青年海外協力隊に、同じ中央アジアに位置するウズベキスタンのイノベーションセンターで活動できる要請を見つけ、タジクから帰国した一週間後に応募し、合格してウズベキスタンに派遣が決まりました。
・KIM:詳細にご紹介下さり、誠にありがとうございます!民間企業からの青年海外協力隊へのキャリアのシフトチェンジは大きな転換のようにも思いますが、根本にある「ニーズとシーズを繋げる」という軸があってこそのご決断であるということを知れて、非常に勉強になりました。
・KIM:次に、現在の業務についてお話いただける範囲で教えてください。
・小原:現在、ウズベキスタンの首都であるタシュケントでコミュニティ開発隊員として活動しています。青年海外協力隊というと開発途上国の農村部に行って生活するイメージがあるかもしれませんが、首都で働くキャリアも実はあるんですよ(笑)。ちなみに、積水化学は休職制度を利用しており、協力隊の任期が終わったら復帰する予定です。協力隊には私のように「現職参加」で参加することもできます。
具体的な活動内容としては、ウズベキスタン政府と日本政府間の共同声明によって設立されたUzbek-Japan Innovation Center of Youthで、企画や広報、大学との連携を担当しています。このイノベーションセンターには、4つの研究室があり日本の大学や、現地企業と共同で先進的な研究を行っています。また日本に大学に技術者を派遣したり、シンポジウムやレクチャーを通じてイノベーションの社会に還元をする活動もしています。正直まだウズベク内では「イノベーション」と聞くと、IT分野といった画期的な技術革新であるとイメージする方が多のが現状です。
私はこのセンターに初めての派遣となり、同じ業務内容をしている人がセンターにおらず、自由度はかなり高いです。その反面、自発的に動きながら、センターの研究者達をどう巻き込んで行くかが求められているように感じています。
・KIM:ウズベキスタンの生活についてはどうですか?
・小原:暮らしに関しては首都ということもあり、ほとんど東京での暮らしと変わらないように感じます。一方、やはり海外で生活しているので、日本では当たり前だったことは当たり前ではないと痛感しますね (日本は便利すぎます笑)。日常起こる断水や停電、交通公共機関に時刻表がない、イスラムの文化、時間の感覚、、、など最初は戸惑うことはありましたが、ウズベクの人々は本当に優しくて、いつも助けられています。あと、ウズベキスタンの料理は非常に美味しく、大好きです!
日本にいるときは、自身のアイデア力・行動力を活かしながら、チームで協力して仕事を進めてきましたが、現在は一人でなかなか周囲を巻き込めていないので、その点も大変ではあります。 。
・KIM:ありがとうございます!お蔭様で業務のことだけでなく、青年海外協力隊の仕事の多様さを知ることができました!
・KIM:次に、今後のキャリアについてお伺いします。今後のJOCVで挑戦したいこと、終了後のキャリアについてはどのようにお考えですか?話せる範囲で教えていただけますと幸いです。
・小原:これからウズベキスタンで挑戦したいのは二点あります。一点目はウズベキスタンにおけるイノベーションの活性化の土台づくりです。イノベーションとはNew conbination(新結合)つまり、モノとモノ、人と人、アイデアとアイデアといった今までなかった組み合わせることによって新しい価値を生み出すことだと考えています。例えば、イノベーションセンター内外でアイデアや課題感を持つ人が集い、ディスカッションできる場を作ったり、定期的にイノベーションが身近に感じられるような事例やコンテンツをセンターから発信していきたいです。「モノとモノ・人と人・アイデアとアイデアを繋げる」ようにカタリストとなり、ウズベキスタンという国に少しでも貢献できたらと考えています。言ってしまえばこれが私なりの「国際協力・国際開発」ですね。
二点目はウズベキスタン国内の大学院で修士号を取得することです。実はタシケントにはイギリスやアメリカ等、海外に本校がある大学の拠点がいくつかあり、英語で学べる機会があります。私は「Education and Innovation」のコースを専攻する予定なのですが、イノベーションの現場での実践だけでなく、同時に理論のインプットもしていき、「イノベーション」について考えを深めていきたいと思っています。協力隊×大学院の両立を頑張ります!
・KIM:是非とも目標に向けて頑張って頂きたいです!最後にこの記事を見てくださっている方々、開発学や国際協力に従事する人々に向けたメッセ―ジをお願いします!
・小原:ありがとうございます!今後の進路やキャリアを考えている方々に足して、僭越ながら以下の点をメッセージとしてお伝えできればと思います。
【民間セクターを通じた国際協力の可能性】
民間企業の活動を通じて、地域社会に貢献することもできます。特に製造業だと、長いサプライチェーンを管理したり、現場と工場の架け橋なったり、ダイナミックに結構泥臭い経験を積むチャンスもあります。国際協力に関わりたいと考えている方に、ぜひ民間セクターでのキャリアも考えてみていただけたらと思います。
【いつか繋がるキャリアの道】
冒頭に申し上げた通り、最初は「協力隊なんて!民間企業で生きる!」と思っていたのに、今まさに協力隊の道に進んでいるので、人生どうなるかなんてわかりません(笑)広くアンテナを張りながら、目の前にある物事から逃げずに歩みを進めていけば、点と点が線に繋がり、それがキャリアの道になると思います。
【二足のわらじが未来を拓く?】
振り返って見ると、二足のわらじ、つまり活動の両立をしていました。例えば、仕事×社外活動、民間企業×協力隊、協力隊×大学院です。二足のわらじをは履くことで、常に気づきや刺激があり、それらを活動に活かすことで道を切り拓いてこれたように思います。時に両立がしんどくなると時もあると思いますが、これからも意識していきたいです。
・KIM:素敵なメッセージありがとうございます!本日はありがとうございました!!
補足:ウズベキスタン・日本青年フォーラム時の写真。右から2番目が小原様。