執筆:2016年6月
頼田 優女
London School of Economics and Political Science / MSc in Urbanisation and Development (2013-2014)
大学を卒業後、日本の民間企業に4年半勤めてから英国留学をしました。この時点でいわゆる「国際協力」系の経験はなく、今もこの業界では新米だと思っています。国際協力の業界で働きたいという思いは子どもの頃から持っていましたが、新卒の時は社会人経験を得ることと留学費用を貯めることを優先しました。個人的には日本での民間勤務経験は体力・気力・経験値と、いわゆる「おカネの大切さ」を叩き込むことができるので、強くお勧めしています。
英国在学中に複数のインターンに応募し、日本ユニセフ協会とJICAが募集しているインターンに受かり、それぞれタンザニアとスーダンに派遣されました。その後国際NGO(World Vision Japan)で1年間東ティモールの水・衛生事業のプロジェクト・マネージャーを務め、現在は外務省のJPO制度で再びスーダンに来ています。JPOで奇特にも(?)スーダンを第一希望に書いたのはJICAインターンがあったからこそなので、今回はそのお話について書きたいと思います。
JICAによる大学生・大学院生のインターンシップは、毎年5月に募集が締め切られ、6月が選考期間で、7月以降に派遣という流れになっています。2015年度から学部生でも応募ができるようになり、また新たに「コンサルタント型」というインターンの募集も始まりました。私が応募したのは2014年度ですが、たまたま応募したポジションが所謂「コンサルタント型」に近いものでした。書類の締め切りが5月の10日頃、その後6月上旬に通過連絡を頂いて、面接はJICAスーダン事務所と直接スカイプで行いました。
私は水・衛生分野の経験を積みたいと考えていましたが、2014年度募集の海外インターンのうち地域の希望(アフリカ)と分野の希望(水・衛生)が満たせるのは一ポジションだけだったため、それだけを希望先として記載しました。リスクは高くなってしまいますが、せっかく時間を割いてインターンに行くのであれば自分の希望を最大限伝えることは必要だと思います。特にJICAのインターンは最大3ヶ月程度という縛りがあるので、行ってからが短期決戦となります。また、インターン期間中は航空運賃の補助を受けることができるのと(※2014年度は10万円までは自己負担)、赴任地に応じた滞在費の補助が出るので、全額自己負担となってしまう国際機関のインターンなどに比べると学生には有難いなと思います。
業務内容は、当時行われていた技術協力プロジェクト(技プロ)を担当する開発コンサルタント会社のプロジェクト活動業務補助というものでした。プロジェクト名は「スーダン国水供給人材育成プロジェクト・フェーズ2」といい、私がスーダン入りした2015年1月時点で4年間のプロジェクトの最終年次に入っていました。事業のパイロット州が白ナイル州とセンナール州であったため、インターン期間約2ヶ月半のうち2ヶ月近くを首都のハルツームから4時間ほど離れた白ナイル州のコスティで過ごしていました。
このプロジェクトではスーダンの給水施設を建設するわけではなく、既存設備の適切な運営維持管理(O&M)に重点を置いていました。日本の支援を通じて水道事業の人材育成をスーダン国内で行い、水道管理者である連邦政府の飲料水・衛生局(DWSU)及び各州政府の水公社(SWC)の能力強化を図ることが目的です。活動のメインとなるのは、連邦レベル(フェーズ1)、そして州レベル(フェーズ2)それぞれで水公社職員への研修体制を整えることで、プロジェクトのカウンターパートは連邦政府の飲料水・衛生局研修センター(DWST)と、パイロット州の水公社にある研修センターでした。研修センターでは、例えば井戸の改修や管網維持管理、水質管理など13種類の研修を行っていました。プロジェクト開始当初は日本人の専門家が各研修を行っていましたが、私が行った頃には既にスーダン人の教官が育っており、連邦レベルで研修を受けた人が州に戻って、州レベルで他の研修参加者をリードするという流れができあがっていました。
一方、プロジェクト活動の中には「モニタリング体制構築」も含まれていました。モニタリングの対象は、一つが上述した研修内容をきちんと記録するというもので、いつ、どこで、誰が参加して、どのような研修が行われたかという記録をデータベース化し、各州の水公社にどのようなスキルを持った人材がいるのかを管理するのが目的です。もう一つのモニタリング対象は地方給水施設(Water Yard)で、こちらは研修事業ではなく、各地の農村にある給水施設の維持管理状況(=すべての設備がきちんと動いているか、壊れているならばどういった部品が必要か)を水公社がどのように情報収集し、必要な修繕をしていくかという仕組みづくりが目的です。具体的な活動として、パイロット州で給水施設モニタリングのワークショップを行い、参加者と共に現場を見ながら手順や必要なフォームの改訂をしていきました。私がインターンを行った時期はちょうどこのモニタリングの仕組みづくりが加速していた時だったので、モニタリング体制構築の業務補助がインターン中の主な活動になりました。
モニタリングの「体制構築」と言っても想像しにくいかと思いますが、大きく分けて2つの活動がありました。
① 活動指針書類の作成
政府と一緒に行う事業で何か新しいことを始める場合、まずは「こうあるべき」という活動指針を示した書類を策定し、相手国政府内で正式なプロセスを経て承認してもらうことが重要になります。このプロジェクトでも、モニタリング活動(研修と給水設備)それぞれの手順や必要な書類を示した『モニタリングマニュアル』というものを中央の飲料水・衛生局と共に作成し、また、各パイロット州では『モニタリング計画書』を作成しました。
② モニタリング実施フローの整備
活動指針書類を作るだけなら机上でも可能ですが、水公社の人的リソースや彼らの能力に見合った作業量でなければ意味がありません。より実態に即した書類とするため、このプロジェクトでは活動の①と②を交互に行いました。つまり、モニタリングワークショップを2つのパイロット州で行う中で、ここまでの作業はできる、できない、誰がこの作業をやるべきだ、といった内容を参加者と合意し、①の計画書やマニュアルに反映していきました。ワークショップではいくつかの村へ行き、給水設備を管理している村人(オペレーター)用に作った日々の設備チェックフォームが使えるかどうかの確認を行いました。実際に村へ行ってみると、文字が書けないオペレーターのために記入方式ではなくチェックマーク方式を増やすなど、現場を見ないと分からない気づきが多くありました。
こうしたプロジェクトの活動の中で私が何をしていたかというと、カウンターパートを指導し、手助けする日本人専門家の皆さんの更にアシスタントをしていました。たとえば、活動指針書類の英語版の編集や、カウンターパートが作成した英文資料の文法の修正、図や表を見やすく作る手助けなどです。滞在期間中にこのプロジェクトの終了時評価が行われたため、評価団来訪にむけた資料などの準備に割く時間が多かったように思います。また、合間にはパイロット州の水公社で行われている研修のいくつかを見学させて頂き、3つの村での実地研修にも同行しました。私が訪問した頃には、パイロット州の研修センターが(プロジェクトが支援してきた13のコースに加えて)独自のコースを計画・実施するところまで自主性が育っていましたが、プロジェクト(フェーズ2)の最初は研修センターの建屋すら機能していなかったそうです。プロジェクト側とカウンターパート側が少しずつ信頼関係を築きながら活動してきたことがよく理解できました。
このインターンを通して、開発業界で仕事をするために大切なことを複合的に学べたと思っています。私のポジションはプロジェクト付きのインターンだったため、JICAの仕事と言うよりは技プロを実施する開発コンサルによるプロジェクト事業を間近で見ることができました。終了時評価があったため、JICAの技プロがどのように評価されるのか、といった評価方法についても学ぶことができました。
インターン終了時の報告書では以下の5点を学びとして書きました。これらは、その後NGOでのプロマネ業務に従事した時も、そして今の仕事でも本当に大切なことばかりです。
1) 一つの決定を行う場合には事前に関係者と合意を取ること。「話をしたから理解しているはずだ」と思い込まず、手間がかかっても関係者一人ひとりとしっかり確認を取ること。
2) キーマンが誰かを見極めること。誰に絶対に話を通さないといけないか、組織構成、人間関係を把握してから行動すること。
3) プロジェクトの達成目標を常に意識すること。何を目的として個々の活動が発生しているのか、必要性を常に吟味すること。
4) 限られた時間で実行可能な作業を特定すること。活動の幅を広げすぎず着実に達成可能な目標を設定し、目標達成までのスケジュール感を持つこと。その際、日本と同じ速度では物事が進まないと念頭におくこと。
5) 総務・会計業務の大切さと煩雑さ。現地職員の雇用管理、車両管理、資金管理には想像以上に時間がかかるが、スムーズなプロジェクト活動のために不可欠な作業である。
そして何より、現地の人たち(現地スタッフおよびカウンターパート)と毎日顔を合わせ、拙いアラビア語で挨拶をし、一緒のお皿でご飯を食べ(スーダンのご飯は基本的に大皿で出てきます)、短期間だけれどとても濃い時間を過ごすことができました。国内旅行などはできませんでしたが、結婚式に呼んでもらったり、ヘナを腕にしたりとスーダンならではの経験もできました。正直、スーダンというと経済制裁を受けていて、内戦があって物騒な国というイメージしか持っていなかった私にとって、ここで出会った人たちの温かさといい意味での素朴さは新鮮な驚きでした。2ヶ月半というのは、国を好きになるには充分ですが仕事をするには充分な長さではありません。もう少しこの国のことを知って、役に立ちたいなという思いを持ったことが、現在の仕事でスーダン赴任を希望したきっかけになっています。
いわゆる開発途上国の多くでは、色々な面で時間がかかることが多いため、変化を起こそうと思ったら本当ならば2~3年は継続して活動に専念したいところです。残念ながら私はこれまで2年の滞在経験というものがありませんが、3ヶ月なら3ヶ月の、半年なら半年の関わり方があって、短いから無駄だということはないし、行ける時に行くに越したことはありません。また、たとえ短期間であっても、フィールドワークでのご縁がその後のキャリアに大きく関わってくるかもしれません。イギリスで大学院に行く場合、一年間のコースなので夏休みにフィールドワークという手が使えず、困っている方も多いと思います。大学院生の資格が必要なインターンの場合、修士論文提出後と学位取得の間も在籍期間として認めてくれるところは多いはずなので、論文が落ち着いた後にも是非フィールドワークを考えてみてください。