インタビュアー:柳井 香魚 (University of Kent)
今回キャリアインタビューを行ったのは、現在、武蔵野大学法学部政治学科で准教授を務めておられる中村宏毅先生です。中村先生は、フランスのパリ第一大学で修士号を取得後、博士課程に在籍しつつ、外務省のアフリカ専門調査員として在フランス日本国大使館に勤務されました。帰国後は、国内のさまざまな大学で教鞭を執られたのち、南アフリカ共和国にある日本大使館にて、任期付き職員として5年間勤務されました。外交の現場での豊富な経験を活かし、現在は再び大学教育に携わっておられます。
日本の大学のフランス文学科を卒業後、留学しようと思いフランスのパリ政治学院に行き、そこで2年半国際機構論を勉強しました。留学中にはOECDのパリ本部と米州開発銀行(IDB)のパリ支部の2つでインターンを行っていました。修士号をとった後は就職を考えましたが、就職先が簡単に見つからなかったこともあり博士課程に進もうと考えました。その際に論文が必要になったので、パリ第一大学研究修士(DEAに相当。※現在はない)という研究に特化した修士課程に入り直し、その一年後、同大学の博士課程に進みました。
博士課程の2年目に外務省で専門調査員の公募を見つけて、在フランス日本大使館のアフリカ担当のポストで合格しました。3年間の任期を終え、日本に帰国し、様々な大学で非常勤講師として勤務しながら博士論文を書き終えました。したがって、結局博士課程には7年ほど在籍したことになります。非常勤講師としては武蔵野大学、早稲田大学、明治大学、成蹊大学などでの授業を掛け持ちし、国際関係学やフランス語などを教えていました。また、教鞭を取りつつ、大学の定職を探していました。
その際に再び外務省の公募があったので応募し、在南アフリカ日本国大使館で勤務を開始しました。当初は2年の契約でしたがとても良いところだったので、任期を延長し計5年滞在しました(笑)。
帰国後は再び成蹊大学で非常勤講師を務め、その後武蔵野大学の准教授に就き今に至ります。また同大学の国際センターの次長も務めています。
選んだというより自分の研究内容に一致していたという感じです。大学の頃から外務省で働くという考えはあったのですが、パリで修士号を得た後また公務員試験の勉強をするのは厳しいと思いました(笑)。そこで、研究の道を志して博士課程に進みました。その課程でアフリカのことを勉強している際に、ちょうど在フランス日本国大使館でのアフリカ担当のポストがあったので応募に至りました。
一般的に専門調査員の仕事内容はその時の大使館の体制や上司の方針によって変わりますが、私の場合は一つの地域を受け持つ担当官としての仕事を主にやっていました。所属していたのは「外政班」というフランスの外交を扱う部署で、フランスのアフリカ政策の調査を担当していました。主には自分の調査内容をまとめ、レポートを書いていました。フランスは日本に対して非常に協力的な人が多いので、話を聞きに行った際にも、快く面会を受け入れてもらい、レポートにも多くの内容を書くことができました。
南アフリカの時は更にもう少し一人の外交官としての仕事が多く、国際選挙の支持要請などの仕事が多かったです。日本に対する姿勢もフランスとも違う部分が多く、自然も美しく大好きな国ですが外交官としては難しいところはありました。
ステレンボッシュにて
主にアフリカ政治の授業を受け持っていますが、その他にも外交政策論や平和学も教えています。外交政策論の授業で外務省時代の話を生徒にすることもあります。その方が学生にとっても面白いかなと思うからです。
フランス文学の中でもサルトルの「実存主義」などの政治に関わりのある文学を学んだので、大学院に進む段階になった時にも政治をやろうと思いました。国際機構論では、パリ政治学院では実務家の人を多く呼んでいて、当時自分の授業ではUNESCOで働いている方が教員として来ていたので、国際援助寄りのことを学んでいました。他にはWTO(世界貿易機関)の働きや、南北問題、あとはMDGs(ミレニアム開発目標)が採択された時だったのでそれについて学んだりしました。
パリ政治学院にいた時はアフリカに限らず様々な地域について学んでいたのですが、博士課程に行くためには研究地域を絞る必要がありました。それを考えた時にやはりフランスで南北問題のようなテーマを取り扱うにはアフリカなんじゃないかなと思いアフリカを選びました。そのような理由からなので、当時はアフリカに行ったこともなく、非常に関心があるという訳でもなかったです。パリ第一大学の研究修士では「African Studies」という学部に在籍していました。そこにはアフリカからの留学生も相当数いました。
そうですね。大学時代にフランス語ばかりやっていたので、逆に英語ができなかったです。英語はフランスから帰ってきてから勉強し直しました。
人によって色々な意見があるので参考程度に聞いてもらいたいのですが、私はやはり幅広い教養が必要なのではないかなと思います。もちろん専門分野のことを学ぶのも必要だと思いますが、それだけではなく美術・歴史・文化などを学ぶことも重要だと思います。
大学で何を学んだか聞かれた時に、自分は特にこのことを勉強したと言えた方が就職の時などはもちろん有利ですが、それに加えて、他の分野の広い教養もあった方がいいと思います。特に歴史については、外交官になってその知識の必要性に気づきました。フランスの外交官はかなり歴史を勉強していて、様々な文化や芸術についても教養がありました。概して、日本の外交官は事務的なやり取りはできても、その国の歴史や文化を踏まえた深い交流においては難しいところがあるなと感じました。
もう一つは、今はネットで世界中のことが一瞬でわかる世の中ではありますが、百聞は一見にしかずというように、やはりネットでみるのと現地に自ら行って体験することでは全く違います。留学なども含めて、現地に行って自分の目で実際見て、心を動かされるという経験は大切だと思います。
先ほどと少し内容が被りますが、豊かな教養と良い趣味を持った総合的な人間力が大切だということです。教養という意味では専門書でもいいですし、古典文学なども読んでみてほしいと思います。直接キャリアに結びつかないとしても、人生様々な出来事が起きる中で、それと向き合う精神的なタフさ・人間力を養うことに役立つと思います。良い趣味は何でもいいですが、美術でも音楽でも、感動する経験をすることが大事だと思います。そういった経験が人格を作ります。
加えて、興味のあることを勉強した方がいいです。私は当初国際機関に行きたくてそれに関連した授業を中心にとっていましたが、あまり身にならず、興味を持ったのは国際関係の授業やその歴史的アプローチに関する授業でした。結局はそういったことが後に外交官のような仕事に役立った気がするので、目先の利益だけで決めず、それよりも自分の興味のある分野を突き詰めた方が実りが多いと思います。
ナミブ砂漠にて