インタビュアー:鈴木麻由 (University of Sussex, IDS)
英国大学院にてグローバルメンタルヘルスを専攻された後、平和構築人材育成事業にてIOMにUNVとして派遣された服部さん。現在はJPOとしてUNICEFヨルダン国事務所で精神保健・心理社会的支援担当官として働かれている中で、大学院での学びや国際機関での勤務経験やポストの獲得についてお話しいただきました。
服部 紗代 様プロフィール
日本の大学を卒業後、London School of Hygiene and Tropical MedicineとKing’s College Londonの2大学共同での修士プログラムでMSc Global Mental Healthを学ぶ。大学院修了後は財団法人や国際NGOで公益事業や人道支援に約8年間携わる。広島平和人材構築センター(HPC)の平和構築人材育成事業に参加し、IOMガンビア事務所に精神保健・心理社会的支援及び平和構築担当官として派遣。2024年から現職。
鈴木:現在、UNICEFヨルダンで青年や子供たちのメンタルヘルスを向上するためのプログラムの実施や運営に携わっていらっしゃいますが、国際協力やメンタルヘルス支援に関心を持ったきっかけについて教えてください。
服部(敬称略):中学生の頃、英語の授業でマザーテレサに関する章を暗唱する機会がありました。彼女がインドのコルカタで恵まれない人々の中で活動していることを知り、自分の利益よりも他人のために奮闘できる人がいることに興味を持ったのが国際協力の入口です。ただ、国際協力と一口に言っても幅広いので、専門家として貢献できる軸となる専門分野が必要だと漠然と感じていました。父が臨床心理士なので自然と精神保健分野が気になっていたものの、当時は国際協力分野においてメジャーではなく、自分の中で国際協力と精神保健が結びついていませんでした。そんな中、偶然Vikram Patel先生のTED Talksを観る機会がありました。途上国では精神疾患があっても9割以上が適切な治療を受けられていないという現状があり、だからこそメンタルヘルスケアの方法をより多くの人に広めるべきだという先生のメッセージに感銘を受け、精神保健分野を学ぶことに決めました。
鈴木:TED Talksで感銘を受けた、Vikram Patel先生のいらっしゃる大学院に進学されたのですね。
服部:はい。London School of Hygiene and Tropical MedicineとKing’s College Londonの2大学共同プログラムで、Global Mental Healthを学びました。公衆衛生の中でも、中低所得国での精神保健について学ぶコースです。初めてVikram Patel先生の授業を受けた時、ご自身の立場にかかわらずメンタルヘルスの専門職ではない人たちも巻き込んで、困っている人たちに寄り添いながら精神保健分野を発展させていこうとする姿勢が忘れられず、現在の自分の指針になっています。
ヨルダン人とシリア人の子どもたちのワークショップをモニタリングする様子
鈴木:大学院修了後、さまざまな仕事を経験されていますが、現職にどう繋がっていますか?
服部:現職はジェネラリスト、スペシャリスト両方のスキルが求められますが、これまでさまざまな仕事を経験してきた中で、点と点になっていたものが線で繋がった感覚があります。大学院修了後は日本で約4年半、公益事業や人道支援事業のプログラムの企画・実施・評価、日本のドナーや実施パートナーとの調整業務等を担当していました。その後は約3年半、国際NGOでプロジェクト・マネージャーとしてヨルダンに駐在し、シリア難民支援事業のマネジメントを担当しました。合計で8年ほど、いわゆるジェネラリストとして幅広くスキルを身につけることができたと思います。これらの経験を通じて、専門分野に特化した業務を行うスペシャリストよりの仕事に興味を持ち、平和構築支援事業を通じてUNVでIOMのガンビア事務所に派遣されました。
鈴木:IOMガンビアでは具体的にどのようなお仕事をされていたのですか?
服部:精神保健・心理社会的支援及び平和構築担当官として、自主帰国した移民への精神保健スクリーニングや心理教育セッション、ケースマネジメントの実施・サポートなどを担当しました。たとえばヨーロッパを目指して地中海を渡ろうとしてボートの転覆現場を目撃してしまったガンビア人など困難な移住の旅の結果、精神的ストレスが高くなっている人を特定して、サポートを実施していました。
鈴木:現在のポストを獲得するにあたって、工夫したポイントはありますか?
服部:自分の積んできた経験をもっていかに応募ポストに貢献できるか、自分のパッションと絡めながら、ストーリーとして明確に説明できる状態まで準備していたのは大きかったと思います。そのためにまずは応募ポストで求められていることを、ToRを読み込んだり、知り合いから情報収集したりして多角的に理解することがとても重要です。その時は関連性が明確に見えなくても、ご縁があるポジションのひとつひとつに丁寧に向き合うことで、次の応募ポストに繋げられる色々な知識や経験の引き出しが増えていきます。また、目の前の仕事に取り組んでいると「辛い、大変」という感情が出てくることもありますが、応募時に「このポストで得られそうなスキルや経験」をノートにリスト化しておくと、定期的に「自分は何を得たくてこのポジションに就いたか」を振り返ることができ、当初の目的に意識を戻して業務に励むことができます。
ガンビアで地域団体の若者に帰還者へのメンタルヘルスサポートについて講習する様子
鈴木:最後に、国際協力でのキャリアを考えている方へのメッセージをお願いします。
服部:私は「メンタルヘルス」という明確な軸を持ってキャリアを積んできたように聞こえるかもしれませんが、今振り返ってみるとその時々の自分の関心や機会にオープンに選択をしてきており、それは国際協力の業界にいる限り続くと思います。したがって、自分を一つの分野で縛りすぎず、色々な仕事にトライしてみて、得意なこと、好きなこと、パッションを持てることを集めながら挑戦を続けていけばいいのではと思います。紛争やコロナなど、世の中の先行きが読めず、自分ではコントロールできないことが増えてきています。キャリアにも、うまくいく時といかない時のアップダウンがつきものなので、しなやかに波に乗っていくスキルも大事です。一緒に頑張りましょう!
ヨルダンの難民キャンプに住む猫