インタビュアー:KIM Minsu (University of Manchester)
瀬山 奏 様
今回キャリアインタビューを実施したのは、 世界銀行やアジア開発銀行にてガバナンスの専門家として数多のプロジェクトに携わられている 瀬山 奏 (せやま そう) 様です。国際航業株式会社にて公共セクターのプロジェクトに従事され、University of Sussex にて「ガバナンスと開発」の修士号を取得された後、現在のキャリアに進まれました。「グッド・ガバナンス」を通じて開発途上国の貧困問題を解決するため、国際協力・開発に携わる理由及び原動力に迫ります。
KIM:本日はインタビューを引き受けて下さり、誠にありがとうございます。今回のインタビューでは、瀬山さまのこれまでのご経歴や実務経験、サセックス大学院へご進学を決意された背景及び役立った点などを中心にお伺いできればと考えております。まず、これまでのご経歴について教えていただけますでしょうか。
瀬山:はじめまして。瀬山 奏(せやま そう)と申します。国際航業という開発コンサルタントからキャリアをスタートし、約5年間勤務した後に、イギリスのサセックス大学院にて「ガバナンスと開発」の修士号を取得しました。その後、開発コンサルに復職し、数年働いた後、世界銀行にてガバナンスの専門家として約6年間勤務し、今年の3月からアジア開発銀行 (以後、ADB) で勤務しております。本日はどうぞよろしくお願いします。
KIM:ご紹介いただき、ありがとうございます。まず、前職の国際航業について教えていただけますでしょうか。
瀬山:国際航業株式会社(以後、国際航業) は防災・減災、行政・インフラマネジメント、脱炭素・環境等の分野でコンサルティング事業を展開する開発コンサルティング企業です。その中で、私は公共セクターの専門家として業務に従事していました。
KIM:ありがとうございます。先ほどの自己紹介で数ある開発問題の中でも特に「ガバナンス」に興味・関心をお持ちだとお伺いしましたが、そう思うようになったきっかけはありますか?
瀬山:そうですね。特に「パレスチナの地方財政改善プロジェクト」に携わった時の経験が印象に残っています。具体的には、パレスチナの地方自治体において、土地や建物といった固定資産から税金を回収するシステムの構築に従事しました。当たり前のことではありますが、自国の資産から得た歳入で自発的に社会インフラを構築することで、持続的な財政システムも構築できるようになります。そうなれば、最終的にはJICAや世界銀行、ADBといった援助機関のプレゼンスが低くなっていくと思っています。私は元々は教育や保健分野に興味を持っていましたが、この経験から自分たちで持続的な公共財政システムを構築するために必要不可欠な要素であるガバナンスという分野に興味を持ちました。
KIM:ご説明していただきありがとうございます。従事されていたプロジェクトの事も詳細にご紹介下さり、イメージが深まりました。ちなみに、国際協力に携われるアクターは他にもあったと思うのですが、ファーストキャリアとして開発コンサルタントを選択された理由は何でしょうか?
瀬山:皆さんご存じの通り、学部卒の時点で国際協力に携わるとなると、当時の私は①JICAを始めとした国の援助機関、②NPO、③民間企業のCSR部門、④開発コンサルタント企業に限られていると思っていました。そのなかで、若手の内から途上国の開発問題に関わることができ、なるべく早く海外に行けるのは何処かと考えると①か④だと思いました。就職活動ではJICAにはご縁が無かったため、いくつか内定をいただいた開発コンサルの中から国際航業をファーストキャリアとして選択しました。新卒で大学院に進むという選択肢もあったのですが、当時はお金が無かったのと、自分が学びたいことは自分で稼いで学ぶべきという家庭の方針があったため、考えていませんでした。ただ、自費留学であったため、一つ一つの授業や大学院での生活を大事に過ごすことが出来たので、逆に良かったと考えています。もしこれから開発学系の海外大学院を志す人には是非とも一度働いてから進学することをおすすめしたいですね (笑)。
KIM:次に、イギリス大学院への進学を決意した背景およびサセックス大学院にご進学を決意した理由などについて教えて下さい。
瀬山:2013年〜2014年の一年間、前述した開発コンサルを休職し、サセックス大学院 IDS (Institute of Development Studies) の “Governance and Development” 専攻に在籍しておりました。具体的には、途上国の政府・地方自治体が実施する開発分野の政策及び貧困削減への有効性について主に勉強しておりました。
数多くある国の中からイギリスの大学院を選んだ理由は主に2点あります。1点目は、 1年で修士号を獲得できる点です。2点目は、開発学という学問に対する歴史がある点です。少し尖った見方かもしれませんが、パレスチナ・イスラエル問題をはじめとして、多くの開発途上国に関連した問題はイギリスの過去の外国・植民地政策が大きく関係しています。せっかく開発学を学ぶなら、イギリスの方が得られることが多いのではないかと考え、進学を決意しました。
その中でもサセックス大学が非常に良かった点としては、教育・研究の質が非常に高いだけでなく、自分で考えさせる風潮があることです。これはどの大学院でもそうだと思うのですが、授業でのディスカッションに関連する文献を非常に沢山読まないといけないため、インプットする量も非常に増えました。また、教授やチューターもすぐ答えを教えてくれるというよりは、なぜそう思ったのかを常に考えさせ、より多くの疑問が生じるように手助けしてくれます。そのため、常に問題意識を持ち、考え・発表する癖がつきました。
KIM:所属されていたコースについて説明くださり、ありがとうございます。その中でも特に「ガバナンス」に焦点を絞った理由は何ですか?
瀬山:理由としては、ガバナンスが途上国の開発問題に大きく影響すると考えたからです。個人的に、途上国の貧困問題の主な原因は政府の失策、いわゆる「バッド・ガバナンス」にあると思います。前述した開発コンサルに事例にお話すると、開発コンサルは案件を主に政府から受注して実施するため、受注先の政府の政策は切っても切り離すことができません。例えば、日本政府はアフリカにODAとしてインフラ整備などを実施していますが、その背景には政治的な目的や思惑が存在しています。開発に携わる者として、政府の意図がどのようなことがあるのか、政策次第でどれほど異なる効果が生じるのかを一度アカデミックな視点からしっかりと学ぶことが必要だと思い、「ガバナンス×開発」を軸に研究を行いました。
KIM:次に、どのような経緯で世銀およびADBに興味を持たれ、勤務するに至ったのかを教えていただけますでしょうか。
瀬山:上述したサセックス大学院に在籍している間は開発コンサルは休職し、修了後に復職しました。その際には世銀やADBの案件を担当し、発注者としての国際機関に興味を持ちました。同じような援助機関としてJICAがありますが、JICAはバイラテラル(二国間援助)な機関であり、「日本の経験・ベストプラクティスを途上国に活かす」ことを重要視するため、一方通行な援助になってしまう可能性があると感じていました。その反面、世銀やADBといったマルチラテラル (多国間援助) な機関では世界中のドナーの成功例・失敗例が蓄積されているため、より良い提案ができると思い、応募を決意しました。それ以来、これらの機関の募集ポストを見ていたのですが、ちょうどガバナンスの専門家のポストが世銀で出ていたため、応募して合格し勤務に至りました。
KIM:世界銀行にはどうやって応募したのでしょうか?
瀬山:私の場合、リクルートミッションと呼ばれる日本人用の採用枠から応募しました。日本は世銀に対する世界第2位の出資国であるにも関わらず、勤務している日本人は全体の1%くらいしかいません。あまり大きな声では言えませんが、出資国の中には自国の人材を世銀に入れるために裏で根回しすることも多々あります。言ってしまえば人事戦略の一環なのですが、日本も日本人スタッフの獲得のためにもう少し躍起になってもいいのでは無いかなと思います (笑)。
KIM:世銀においてもガバナンスに関連した業務に携わっていたのですか?
瀬山:そうですね。ガバナンス、特にどうすれば政府の歳入を増やし、その予算を通じて自国の社会サービスを充実させていけるかといったプロジェクトに従事していました。例えば、パキスタンやナイジェリアの中央政府を対象とした消費税導入プロジェクトや、地方政府向けの固定資産税の徴税能力改善プロジェクト、カンボジアの政府官僚を対象とした財務状況に関するハンドブック作成といったプロジェクトに従事しました。
KIM:ガバナンスや財務といった観点から様々なプロジェクトに従事されてきたのが分かりました。先ほど二国間援助と多国間援助の違いについて言及されていましたが、業務の中で違いを感じたことはありますでしょうか。
瀬山:単刀直入に申し上げますと、国際機関という立場で話した方が途上国政府が話を聞いてくれる傾向があると思います。いくら援助機関であるとはいえ、JICAはあくまで日本の政府機関であるため、『開発協力大綱』に代表されるように日本政府の意向に沿って方針を進めることになります。そうなると、日本企業が海外で活動しやすくするための開発援助である側面が透けてしまうこともあります。一方、国際機関だとより純粋に途上国政府の開発問題にアプローチできるだけでなく、解決するための手法を世界中の成功事例から引っ張ってくることができるため、より納得できる解決法を提供できる点が違いにあると思います。日本一国だけの成功事例と世界各国の成功事例を比較するともちろん後者の方がいいですし、手札は多い方がいいですよね。また、世界銀行という世界中で影響力がある機関からだと、相手も納得してくれるように感じます。
KIM:詳細にご紹介くださり、ありがとうございました。世界銀行で数年ご勤務された後、現在までADBで勤務されているとのことですが、移動された理由などはあるのでしょうか。
瀬山:理由としては、地域開発金融機関であるADBの方がよりクライアントに近い距離で仕事ができると感じたからです。世界銀行にもカントリーオフィスも多々存在しますが、アメリカ、ワシントンDCの本部で働く人の方が多い傾向にあります。世銀で勤務している際に少しクライアントと距離を感じていたこともあり、ADBの方が今後のキャリアも考えるとより良いかなと考え、応募しました。
また、カントリーオフィスに行くには他のUN機関も選択肢としては存在しますが、例えばUN自身で資金を生み出す仕組みが無く、政治情勢に左右される拠出金に依存している点がネックであったため、選択肢から外しました。その反面、世銀やADBといった国際開発金融機関 (MDBs)は例えば債券を発行することが可能であり、金融市場から資金調達をしているので財務的持続性が高い点が魅力的です。実際、組織のバランスシートも非常に安定しています。
KIM:両機関において風土やアプローチに違いはありましたでしょうか?個人的な質問で恐縮ですが、世銀はかつてIMFと協働して構造調整や市場の安定をコンディショナリティとした融資が多かった半面、ADBはより援助国の状況を重要視する融資アプローチが多いように感じます。実際に両機関でのご勤務経験がある瀬山様の観点でお話できる範囲でお願いします。
瀬山:非常に良い質問ですね。ご指摘いただいた違いに関しては働きながらひしひしと感じておりました。違いについて申し上げますと、世銀はよりリサーチの側面が強く、世界各国の「ベスト・プラクティス」や「バッド・プラクティス」を集めてプロダクト化する傾向が多いです。つまり、ソリューションをたくさん持っている機関といえます。例えば、ある開発課題について相談があった場合、この課題に対しては○○というリサーチが進んでいるため、ソリューションA・B・Cを提供するというような、いわゆる “Solution-Orient”のアプローチを取ることが多いように感じます。
一方、ADBは規模感は小さい反面 (世銀の⅓)、途上国のクライアントからのご相談があった時に、より問題に対してオーダーメイドで一つ一つの事例に対応していく“Problem-Driven”の側面が強いと思います。このような違いが生じる理由として、もちろん組織構造の違いもあると思います。ただ、両者にそれぞれ利点と欠点があるため、どちらが良いかは一概にはいえないと思います。世銀はリサーチ機能が非常に強い反面、ADBはそこまでではありません。両機関の強みを掛け合わせていくことが必要になると思います。
KIM:違いについてよくわかりました!今後のキャリアプランとしてはいかがでしょうか?
瀬山:これまで世銀やADBなど、複数の国際機関で運よく働くことが出来ましたが、国際機関で定年まで勤めあげる気はありません。長期的には、幸い会計・財務の知識もあるため、自分で日本の社会課題と途上国の貧困問題を同時に解決できるビジネスを今後10年で創りたいと考えています。今は国際機関に心地よさは感じていますが、そうなると自身の成長は止まってしまいます。自身の問題意識が日々変わっていくように、私自身もコンフォートゾーンから抜け出し、今後も挑戦を続けていきたいですね。
KIM: 本日は貴重なお話をありがとうございました!最後に、この記事を見てくださっている方々、イギリス大学院進学に興味を持っている方々、開発学や国際協力に従事している方々に向けてメッセ―ジをお願いします!
瀬山:主に3点お伝えでれきばと考えております。
一点目は一度社会を知ることの重要性です。もちろん学生時代から持っている問題意識を持ち続けることは非常に重要ですが、社会を知ることで問題意識がより鮮明かつ具体的になります。問題意識は常に変わっていくため、自分の根本の気持ちは絶やさずに持ち続け、視野を広く持って日々を過ごして欲しいですね。また、個人的に「テーマ別の専門性」と「地域別の専門性」を持つこともおすすめです。私の場合は「ガバナンス」×「東南アジア・南アジア」を軸にこれまでキャリアを構築してきました。軸を持ったキャリア構築を意識することで、プロフェッショナルとしての専門性を深めることができると思います。
二点目は常にネットワークを増やす重要性です。国際機関というフィールドにおいては、もちろん自身の実務経験や専門性も非常に大事ですが、それ以上に誰を知っていて、どんな人と関りがあるかが非常に大事になります。現在はSNSが発達していて誰とでも直ぐに繋がれます。そのため、忙しくても機会があるなら30分でもお話しする時間を作って、自分の夢を具体的にどんどん語ってほしいです。そうすれば、自然と周りから夢の実現に向けてサポートしてくれる仲間や先輩が現れるはずですし、私もその一人になりたいと思っています。
三点目は、どんな経験も決して無駄にならないということです。留学中や目標に向けて頑張っている際にはしんどいことも多々あると思いますが、しょげずに100%努力するしかないです。時には成功体験よりも失敗体験の方が自分をより成長させる助けになってくれます。繰り返しになりますが、それでも苦しいときや、迷った時は先にキャリアを歩まれている先人に話を聞き、一つ一つ進んでいってください。何よりも、周りから可愛がられる人になりましょう!私でよければ力になりますのでご連絡をお待ちしています。