執筆:2024年11月
担当:伴場森一 (London School of Economics修了)
はじめまして。2021年9月より1年間 University College London(UCL) の MSc Social Development Practice に在籍しておりました、三輪勇斗といいます。
学部では、大阪大学人間科学部に在籍しており、国際協力を中心に学んでいました。所属したゼミの教授も実際に国際協力の現場で実務にも携わられていた経験がある方々で、学んでいた内容も現場での実践寄りの内容が多かったように思います。学部でもアメリカのUniversity of California Los Angeles (UCLA)に交換留学で行っていました。アメリカではお国柄ということもあるかもしれませんが、よりマクロな視点で国際政治や経済などに重点を置きつつ、ここでも国際協力・開発についての授業を中心に履修していました。
大学院進学を考えたきっかけは、大学入学後の比較的早い段階でした。元々開発学に興味があり、将来的には国際機関で働くことも視野に入れていたため、資格として必要となる修士号の取得のため大学院へは遅かれ早かれ進学したいと思っていました。結果的に交換留学の経験なども自信になり、学部卒業後にそのまま大学院に進学する流れとなりました。
現在(2024年11月現在)は、大学院を卒業し、2年ほど経っていますが、某日本の国際協力機関で総合職の職員として開発業界に関わっています。
私の通っていたUCLは、規模が大きな大学だったこともあり、ロンドンの大学の中では、大学らしい施設・敷地がまとまってあった方で、大学で学んでいるという雰囲気を感じやすかったのではないかと思います。図書館や自習スペースも比較的充実していて(と言っても学生の数も多いので、人気な場所はなかなか席が取れなかったりしますが)、スチューデントセンターという一棟丸々学習スペースとなっている建物では、膨大な課題をこなすために一人で自習したり、友達と集まって教えあったり、テスト対策の勉強をしたりなどしていました。
また、大学内の部活やサークル活動も盛んに行われており、私はアルティメットフリスビーや写真サークルにちょこちょこ顔を出していました。私の性格的に暇を持て余すことがあまり好きではなかったので、こうした活動に参加しつつ、同じコース以外の知り合い・友達を増やしていくようにしていました。
<コース概要>
私が所属していたMSc Social Development Practice は、建築や都市計画などをメインとするThe Burtlett, Faculty of Built Environment 内にある、開発や都市課題などを扱うDevelopment Planning Unit (DPU) の中のコースでした。このDPUの中には建設・都市開発にフォーカスしたもの、保健・衛生にフォーカスしたもの、経済にフォーカスしたものなど様々な都市課題へのアプローチの視点があり、その中の一つとして私の社会開発のアプローチがあったような位置付けです。元々開発学を学ぶ上でも、政治経済のマクロなセオリーよりも、現場での実践に興味があったことや、スラムなどの都市課題に興味があったことがこのコースを選んだ理由です。併願先として、London School of Economics (LSE) のMSc Development Studies からも合格をもらっていましたが、上述のような観点で、UCLを最終的に選ぶことになりました。
私の所属していたコースは、他のイギリスのマスターコースと同じく世界中から学生が集まっており、全員で40名ほどいました。構成としては、中国人学生が多いのは言わずもがなですが、特徴として中南米地域の学生が多くいました。一方で、欧米の学生は少数派でした。ざっくりと分けると、中国、中南米、ヨーロッパ・北米、他アジアがそれぞれ1/4ずつくらいいたようなイメージです。また中国人学生を除き、大半が社会人経験のある学生たちでした。バックグラウンドとしては様々ではありましたが、政府系機関、国際NGO、ジャーナリストなど国際的な文脈に関わりの多い人が多かったです。コースの必修の授業は基本的にこのメンバーと一緒になるので、学校は言わずもがな、プライベートでも多くの時間を共に過ごし非常に仲も深まりました。
<授業について>
授業はコースごとに必修の2科目を履修しつつ、DPU内で開講されている他のコースも組み合わせていくようなスタイルでした。通常の科目に加えて、DPUの場合は、実習(ワークショップなどが多め)の科目もありました。私は必修科目で、”Social Policy and Citizenship”と “Social Diversity, Inequality and Poverty”を履修し、オプショナルのコースには経済を軸として、 “An Introduction to Public Economics and Public Policy”と “The Slum in Urban Economic Development”を履修していました。いずれも講義パートとセミナー(ディスカッション)パートからなるものとなっていました。なお、私が留学していた2021年はまだコロナの影響もあったことから講義パートはオンライン、セミナーは対面というような形となっていました。逆にこれが勉強のペースを自分で立てていくにはちょうど良かったのかもしれません。比較的対面授業が分散していたので、結局ほぼ毎日学校に通い、空いた時間は自習、友達と一緒に勉強をするなどしていました。
課題、授業の中身としては、他の大学と同様、大量リーディング課題を事前にこなし、授業にでて質問、セミナーで議論に参加というような流れでした。講義前のリーディングは、そのトピックを扱う上で軸となるようなセオリーなどに触れ、セミナー前などはケーススタディなどが中心となることが多かったです。セミナー内でも、実際の住民移転のケースや、都市開発に関する障害者のインクルージョンに関するトピックなど、比較的具体的なトピックを扱いながら、セオリーを実践に落とし込んでいくような考え方、具体的な手法をセオリーで補強していくような流れをとるパターンが多かったように思います。セミナー内では、ディスカッションも然りですが、課題としてグループプレゼンも時折あり、これらも一部評価の対象に入っていました。 試験は従来大きな会場に一斉に集まり、決められた時間でエッセイを書くというパターンだったようですが、コロナの影響で、会場での一斉実施というスタイルではなく、決められた時間に課題が投下され、定められた期間内(1日〜1週間などそれぞれ)にエッセイを完成させるというものが多かったです。一部経済関係の科目では、いわゆる数学が必要となるような「テスト」もありました。評価対象となるエッセイやテストの頻度や時期は、科目ごとに異なってました。中間エッセイ、最終テストがコースの履修期間中の学期ごとにあるものもあれば、1学期で完結した科目のテストが、2学期末の大学一斉のテスト期間に実施されることもあり、3ヶ月前の内容を記憶を辿って復習する必要があるケースなどもありました。
<コースの特色>
DPUの特徴として、 Overseas Practice Engagementという、いわゆる海外での実地研修があります。行き先は中南米、アフリカ、東南アジアなどコースによって様々ですが、基本的に途上国が行き先で、現地NGOなどと共同でフィールドワーク、リサーチを実施するようなものでした。この実地研修の準備も含めて、前述のPracticeの実習の授業内で、グループワークを行い進めていきました。本来であれば私のコースはインドネシアに研修にいくことになっていたのですが、渡航先の規制の影響で、私の年は国内での研修に切り替えられました。元々ワークショップを行う予定だったNGOスタッフを逆にイギリスに招き、インドネシアの現地協力先の学生と遠隔で繋げながら、国内研修が行われましたが、コースによってはガラッと中身を変えたところもありました。国内での行き先もコースによって様々で、基本的にロンドンを離れて地方都市や、田舎に1週間ほどリトリートのような形で滞在していました。私のコースは広大な敷地を持つ研修施設(と言っても昔の城)に滞在し、インドネシアの現地スタッフや学生らと期間中密に連絡を取りながら、フィールドサーベイを遠隔で行いつつ、データをまとめながら、グループごとにテーマリサーチを進めていきました。1週間という短い期間ですが、グループで集中して議論し、課題に取り組んでいき、リサーチの発表を行った経験は、いいトレーニングになったと思います。
<修士論文について>
修士論文に関しては、年が明けた頃から少しずつアイデアを考え、構成を練り、骨子を組み立て、授業などが全て終わった5月を過ぎた段階からは、9月の提出までひたすら書くことに集中するようなスケジュール感でした。テーマについては自分の好きなものを設定することもできれば、各教授が行なっている外部の研究機関や他大学との共同研究などに資するテーマについて修論を執筆する「フェローシップ」などもありました。フェローシップのメリットとしては、限られた修論執筆期間でなかなか十分なデータ収集やインタビューの実施が難しい中、すでに進行している研究に参加させてもらうことで、そうした一次情報の収集が可能になる(容易になる)点があったと思います。私はフェローシップに参加し、ガーナの首都であるアクラのスラムにおける歩行環境と経済活動に関する修論を執筆したのですが、現地の研究機関の助けを借り、スラム内のマッピングデータや実際の様子を記録してもらったりリモートリサーチのような形態をとることができました。
<全体を通して>
全体を通しての感想としては、正直なところ、ここで学んだものや考え方がそのまま実践につながるということはなかなか言いづらいものではあるかもしれません。また、修論も現場で収集したデータなどを活用しながらのものを書き上げたとはいえ、日本の修士論文のようにみっちりと研究を行ってというものではないため、修士にいく目的が「研究」であったり、この先アカデミックな分野に進んでいきたいという人にとっては、思っていたものと違ったと感じるかもしれません。一方で、私のように、キャリアのため、自身の選択肢を広げるための資格を得たいという人にとっては有意義なものになるのではないかなと思います。1年間を通して大量の開発分野のリーディングをこなし、優秀なコースメイトと議論を交わし、修論を完成に持っていけたことは、タフではありましたが、いいトレーニングになったと思っています。また、コースメイトの多くが様々なバックグラウンドや社会人経験を持っていたため、そうした人たちと深く関わることができたことは、自身のキャリアを考える上でも大きなプラスになったと思っています。
<資金面>
正直ロンドンで学生生活を送る上で、資金面が一番のネックになることも少なくないと思います。私の場合は、返済不要の奨学金を入手することができ、学費全額と生活費を支給してもらっていました。奨学金についてはしっかりと調べて情報を集め、計画的に準備を進めることができれば、受給できる可能性は高いように思います。海外大学進学者を対象とする奨学金は多くあり、返済不要の給付型のものも比較的多いように思います。一方で、応募時期が比較的早かったり、その時点で一定の英語要件はクリアしていないといけないという条件もあるので、早めの準備は必須となるかなという印象でした。
<就職活動>
就職活動については、現地就職という選択肢も持ちつつ、幾つかのフェーズで考えていました。最終的に日本国内の機関を選択しましたが、その背景としては、学部からそのまま大学院へ進学し、職歴がないまま現地就職した際にとれる可能性のあるポジションでの仕事と、日本で新卒という扱いでつくことができるポジションでは、得られる経験、裁量、給与などの点で日本での新卒就職の方がファーストステップとしては良いのではないかと考えたからです。もちろん分野によって多少の違いはあるかもしれませんが、私が目指していた国際開発の業界において、新卒でしっかりとしたポジション(仕事内容的にも、条件的にも)に着くことはなかなか現地就職では困難だなと感じました。日本国内の開発関連の機関や企業の面接については、2022年3月ごろ全てオンラインで行い、大きな不便もなく最終的に行きたかった機関からも内定をいただくことができました。
開発業界への就職と並行して、それ以外の業界については、留学生が一度は聞いたことがあるボストンキャリアフォーラムにも参加していました。2021年はコロナの影響でボストンでの対面開催ではなく、オンライン開催だったため、ロンドンにいる私にとっては好都合でした。期間自体は、日本国内の通常の選考よりも早くかつ、コンパクトで、全体を見ると2021年10月〜12月くらい(メイン会期は11月あたりの2週間)で説明会から最終面接までがあった記憶があります。長々と就活をするよりも一旦ここである程度の目処を立てていたことで、その後の就職活動にも余裕ができ、大学院の学習によりフォーカスすることができた気もします。こうした良い点もありますが、時差の都合から深夜2時に面接をしたりと、体力的にも苦しい場面は多くありました。このように不規則な生活をしながらではありましたが、なんとかこちらも計画的にこなし、最終的には幾つかの企業から内定を得ることができました(最終的にそちらの道には進みませんでしたが)。私は参加しませんでしたが、ボスキャリ以外にもロンドンキャリアフォーラムなども行われているので、イギリス留学の方にとってはチェックする対象となるかもしれません。
以上、つらつらと駄文を並べてきましたが、ここまでお読みいただきありがとうございます。少しでもこれからイギリス留学を考える方、留学中の方にとって有益なものになっていれば幸いです。