執筆:2016年6月
自己紹介
学部生の時は国際政治などに関心がありましたが、大学時代フィリピンやカンボジアでのボランティア及び教育調査を行った際に途上国における教育格差に関心を持つようになりました。その後、フィリピンへの文房具支援プロジェクトなどを立ち上げたりしましたが、その過程でより専門的に開発学について学びたいと考え、大学院への進学を決めました。IOEの「教育と国際開発」のコースを第一志望とした理由は、IOEは世界1位を誇る教育分野の専門機関であり、国際開発に関わる課題を「教育」という観点で見つめることができるため、より専門性を深められると考えたからです。
【所属コースの概要】
<教育と国際開発に関連する4つのコース>
IOEの開発学に関連するコースには次の4つがあります。
Education and International Development (EID)
Education, Gender and International Development (EGID)
Education, Health Promotion and International Development (EHID)
Educational Planning, Economics and International Development (EPEID)
これら4つを総称してEIDクラスターと呼ぶことがあります。
私が所属していたのはEducation and International Development(EID)と呼ばれるコースで上記4つのコースのうち最も学生数が多いコースとなります。ジェンダーや保健など、特に特化して学びたい分野がない場合は基本的にはこのEIDに属することが多いようです。EIDではEducation and Development: Concepts Theories and Issuesという授業が必須となり、あとは選択科目から選択するという形になります。
<必要な単位と成績評価>
IOEの開発学のコースは秋・春・夏の3学期制度で進行されます。私の所属するMAEIDで卒業に必要な単位は必修科目(30 Credits)+選択科目( 30 Credits x3)+修士論文(60 Credits=20,000字)の合計180 Credit または必修科目(30 Credits)+選択科目( 30 Credits x5)+レポート(30 Credits=10,000字)の合計180 Creditのいずれかで卒業できます。
IOEはどちらかというと研究者を育てる雰囲気が強いせいか、成績評価における筆記試験みたいなのはありません。すべてが期末エッセイ1本で評価されます。また、出席率も80%以上ないと落第です。このエッセイが曲者で1つの授業で5,000字のエッセイが課されます。つまり5,000 x4つの授業で合計2,0000字のエッセイを修士論文とは別に書くわけですから、筆記試験がないとはいえ決して楽とは言えません。
<1年間の流れ>
基本的には1年間のフルタイムの学生は秋期学期に2つ、春期に2つの授業を取って修士論文に取り掛かる学生が多いようです。しかし5日間だけの集中講義などで30 Credits取れる授業などもあるため、学生が自らのスケジュールに合わせて授業を選択するようになります。
参考までに私の1年間の大まかな流れを下記に示します。
2015年10月―12月 (秋期学期)
・Gender, Education and Development(GED)
・Planning for Education and Development(PED)
二つの授業のエッセイの〆切は2月中旬ぐらいですが、その前に草稿の提出を行ってフィードバックをもらい、それを参考に最終エッセイを仕上げていきます。1月に入ると春期学期が始まるため、計画的にエッセイを書かないと死にます。秋期学期中に課題エッセイを少しずつ書き始めていくことが良いと思います。
2016年1月―3月(春期学期)
・Education and Development: Concepts Theories and Issues(CTI)
・Understanding Educational Research (UER)
エッセイの提出期限はEIDが5月下旬、UERが6月上旬でした。
2016年5中旬月―6月下旬(3週間)フィールドワーク
自分の研究テーマによっては現地調査を行う学生も多いです。私の場合テーマがインドでしたので実際に3週間ほどインドに行きました。このフィールドワークは必須ではないですし、基本的には自費なので自分の研究に必要であれば行く、という形になります。時期としては概ね3月から5月の間に行く人が多いようです。期間は2~3週間が平均でしょうか。もちろん、それぞれ自分の研究計画に依ります。
2016年9月1日 修士論文〆切
全ての授業を終えるとあとは修士論文を本格的に書いていくようになります。1年間という短い期間ですので、計画的に進めていくことが本当に大事だと思います。
<特徴>
EIDはとてもダイバーシティに富んだコースだと思います。アドミッションの条件の一つに「途上国での半年以上の経験」というものがあるので、途上国での豊富な経験を持っている学生が多いです。国籍も英国・アメリカやその他のヨーロッパ、さらにはアフリカや中南米からの学生も来ており非常にグローバルな教室です。大学院大学の色が強いので社会人経験者も多いです。特にヨーロッパからの人は教師の経験など職務経験がある人が多く、逆に中国人は大学を卒業しそのまま大学院へ進学した若い世代が多い印象です。
授業名:Gender, Education and Development(GED)
内容・感想:途上国における教育課題を、ジェンダーというフィルターを通して学んでいきます。前半はジェンダーの理論を中心に学び、後半は教育現場でのジェンダーイシューについてディスカッションする時間が多くなります。ジェンダー理論に先立って開発学の基本理論が前提として授業が進行していくことも多いため、開発学初学者にとってはGEDをいきなり受講するのはハードルが高いです。なので先にCTIなど開発の基礎理論を学ぶモジュールを受講することを推奨します。また、このGEDモジュールでは1グループ6~8人でのグループワークが毎回授業の最後に行われます。毎回担当者が担当テーマに関する文献を読み、それについての要約とレビューを書いて事前にメンバーにシェアし、授業後にそれをプレゼンします。そしてメンバーからフィードバックと質問を受ける、という流れです。これ自体は評価には入らず、エッセイを書くことに慣れるという意味合いが強いです。
授業名:Planning for Education and Development(PED)
内容・感想:ほとんどの学生が受講するこのPEDモジュールは実践型の授業であり、具体的に計画立案からモニタリング、評価までの開発プロジェクトのいろはを学んでいくことになります。講師は現場でプロジェクトに携わるNGO職員や国連職員などがプレゼンを行うため現場目線の非常に貴重な話が聞けます。さらに後半になるとグループディスカッションの時間も増え、受講生も自分が経験してきたプロジェクトでの学びをシェアする機会が多く与えられます。授業の評価には入りませんが、このモジュールではテーマ別に分けられたグループ(7~9人)でそれぞれ課題設定し、その課題解決のための具体的な開発プランまたは開発政策を立案していきます。モジュールの最終日に各グループでそのプランを発表します。
授業名:Education and Development: Concepts Theories and Issues(CTI)
内容・感想:必修科目で理論中心の授業となります。秋・春・夏にそれぞれ授業が開かれますが、①開発学の基礎知識を学べる②同じコースの人と友人ができやすくなるという2点の理由から最初のセメスターに受講しておいた方が無難です。これまでの国際教育開発の歴史と潮流を人的資本論やRight-based Theoryなどの理論の強みと弱みと併せて学んでいきます。5,000字エッセイ1本で評価されますが、その他にも成績には入らない1,000字エッセイが2本課されます。開発学の背景知識がない人にとってはこのモジュールは目から鱗となる内容が多く、ここでしっかりと吸収しておけばその他の授業での理解度が格段に上がります。
授業名: Understanding Educational Research (UER)
EIDクラスターの授業ではありませんが、EIDの学生が多く受講します。その理由の一つにチューターが「とりあえず取っておけ」と言って勧めるからです。内容は研究手法の「理論」を学んでいくことになります。実践ではなく理論であるため、授業自体は退屈を感じることもしばしばありました。研究者の倫理から始まってインタビュー方法や定性・定量研究の違いなどを学んでいきます。メリットとしては課される課題が修士論文のProposal(研究計画書)3,000字と文献レビュー2,000字なのでここで書いた内容が自分の修士論文に応用でき、時短になります。デメリットとしてはやはり授業では退屈を感じてしまうことが多く、学ぶ内容も和書にあるような研究方法論を自力で読むことでカバーできてしまうかもしれないということです。
<大学情報>
Institute of Educationは2015年2月にUniversity College Londonに統合され、学生の所属としてはUCLの一員という位置づけになります。2015/2016ではUCLの学生はIOEの授業を選択できた一方で、IOEの学生はUCLの授業が取れませんでした。しかし2016/2017入学の学生は双方に授業の選択が可能となるようです(詳しくは各コースHPを参照にしてください)。UCLと合併した恩恵としてUCLの学生証が配布され、UCLの施設などを自由に使えるようになります(図書館など)。
学校全体の雰囲気は、専門大学院なので落ち着いた雰囲気で年齢層も他の大学院に比べて若干高めという印象です。教師や教育現場経験者が多いためか、他者を尊重し、お互いから学び合う文化が強く、とても刺激的です。