執筆:2007年9月
1. 自己紹介
英国サセックス大学大学院農村開発学修士コース(MA in Rural Development)在籍(07年9月現在、修士論文の結果待ち中)の小川滋です。以前より気候変動・生物多様性などの国際環境問題に興味を持っておりましたが、某国連機関で働いていた際から「環境と開発」という分野に興味を抱き、今は途上国農村部における参加型資源管理を専攻しています。
正確には05年度の10月にMA in Environment, Development, and Policy (EDP)よりオファーをもらったが、EDPは思った以上に環境色が強かったという事(実際は天然資源に依存する途上国農村民と資源管理の関係性を開発学ベース学びたかった)から農村開発学コースに移動し、また実際の途上国の経験なしに大学院に来たことへの限界及び後悔を感じたので、同じ学ぶなら有意義に学びたいと思い入学と同時に1年の休学届けを出し、某国際環境機関ラオスオフィス(アッタプ県事務所)にて参加型手法による水資源と漁業管理プログラムで働き、その後06年10月より正式に農村開発学コースを正式にスタートさせ今に至ります。(休学にお金がかからないというのも休学に踏み切った大きな要因の一つです。)
1年という限られた時間の中で、ただ机上の事だけを吸収する事ではもったいない、また頭でっかちになっても危険と思い、修士コース在籍中も余裕があるときは開発コンサルタントの方でインターンとして仕事に携わり、アカデミックな世界にいても実務という目を忘れないように心がけました。また同時に、様々なネットワーキングも増やしたかったゆえ、こちらのIDDPの運営スタッフとしても携わられて頂きました。
2. 学校全体の紹介(歴史、組織、特色など簡単に)
1945年以降の国際社会の中で、他国や国連などの国際機関が国際問題や途上国問題に力を入れ始めるなか、英国としても何かしようと思い、立てられたのがサセックス大学(及びIDS(開発学研究所))だと聞いています。ゆえに新しい学問を嫌う伝統的なオックスフォードやケンブリッジを対極に位置し、世界でも国際関係や開発学に非常に強い大学です。また当時はアフリカ救済色が強い時代背景から、アフリカ研究に強く、アジアは南アジア(インド、パキスタンあたり)まではカバーしている一方、残念ながら東南アジアについてはほとんど学ぶ機会はほとんどないと言っても過言ではないと思います。ロバート・チェンバース氏を始め開発学での著名人は多く、当方の専門でもある環境と開発分野でも渡英する前から名前を聞いた事あるような教授も多数在籍。
近年、サセックス大学は財政不足(イギリス全体でそうと聞いていますが)から、教授を減らす一方で、学生の数を増やしておりコースの増加・生徒の増加が目立っています。一例として、「一ヵ月後の授業の講師が決まっていない」というコースの話すら聞きました。07年度より開発学関係だけでも150名の増員し、08年度にもコースが増えるとかどうとか…。また、コースによっては数年前まで関連分野での経験が必須だったようなコースでも、生徒増加に伴うリクアイアメントの低下により、学部卒や経験なしでも入学可能なようになっています。この状況はまだ続くと予想され、このような状況や、アフリカ開発の強調も以前より少し落ち着いてきた世界状況を考えると今後、今までの「開発のサセックス」という名声を今後も保てるかどうかに対し懸念も聞かれ、今後数年が正念場であるという意見も在学中に多々耳にしました。
※実際に聞いた話を中心に書いているので、100%鵜呑みにしない方がいいでしょう。あくまで個人目線です。
3. 専攻しているコースの紹介 (MA in Rural Development)
a) 生徒(出身、バックグラウンド、年齢層等)
06/07年度のコースメイト国籍は、イギリス、アメリカ、日本、台湾、インド、パキスタン、シエラレオネ、南アフリカ(順不同)で計12名(日本人は3人)。途上国・先進国割合は半々で、男女比もおおよそ半々である。うちのコースは学部卒でも入学可能なので、学部卒の人から、NGO等で経験10年、アフリカの現地語入れると7ヶ国語ぺらぺらというような人までいろいろ在籍し平均年齢は26,7くらいでしょうか。農村開発という分野がらなのか、国際機関というよりNGO等で草の根レベルで活躍していた人が多いと思います。
また「農村開発」と一言に言っても、途上国農村部の問題を取り扱うコースなので、HIV/AIDS、マイクロクレジット、資源管理、移民問題、ジェンダーなどそれぞれの興味・背景はばらばらでした。
b) 特徴、授業内容や進め方、コースの雰囲気
農村開発のコースだけではなく多くのサセックスの開発関連のコースは、1ターム(秋・春)に2コマ履修し(夏タームは1つor 0)、それぞれのコマはタームペーパー(5000語)だけの評価で、かなり極端な話、授業に出なくともターム末の課題さえしっかり書けば卒業可能とさえ考えられている。もちろん授業に出ないとどんな分野でどうように焦点を絞って書けばいいのかわからないわけなのですが。
それぞれのコースとも秋学期は2コマとも必須で春学期は1コマが自分の学科&1コマは他学科から履修可能である。秋タームの農村開発学のコマは「Sustainable Development」と社会開発(MA in Social Development)の人たちと共同で行う「Theory of Development and Underdevelopment」から成り、農村開発学の人だけの特有の特徴と言えば、「Sustainable Development」と言える。
「Sustainable Development」では毎週様々な農村部での問題を取り上げ、実際のケースについて議論した(持続可能な開発とは何か、人口問題、環境問題、参加型資源管理、ジェンダー、エイズ、貧困と環境など)。06/07年度の学生が12人と言う小規模コースゆえ、3人のグループ(×4)か4人のグループ(×3)でアットホームな雰囲気の中、ある村での実際の問題などを議論したりロールプレイしたりと質の濃いコースである。
このコマを経て、春タームは自分が興味を持った授業を履修するのだが、サセックス自体「Theorist」が多い大学で有名で、春タームに他コースの授業をとったうちのコースメイト(自分を含め)は口をそろえ、「他コースは理論ばかりで実際のケースにまで当てはめて考える時間が少ない。実際のケースについて一番よく考えられた「Sustainable Development」のコースが年間を通じ一番よかった」とこのコマに対する評価は軒並み高い。しかし、名前は「Sustainable Development」だが、様々な農村部における問題にふれ、結局何が「持続可能な開発」なのかの明確な答えは求められずじまいで、「Sustainable Development」と言うより、「Rural Issues in Developing Countries」と考えた方がよいかもしれないです。
農村開発の学生が一斉に集まるのはこの「Sustainable Development」だけなので、春ターム以降、履修コースによっては同コースの人達と会う機会は激減する。セミナーの前日などは準備等でかなり忙しいので、やはり履修している授業が違うと一週間のリズムも異なり、会い辛くなる。
c) 修士論文(自分のテーマ、他の人のテーマで多いもの・特徴など、作成の流れ)
文字数は夏タームを取って(タームペーパー5,000語)+修士論文(10,000語)か夏タームを取らず修士論文20,000語かどちらか選べる多くの場合後者はフィールドリサーチにいく人用である。10,000語でリサーチに行った人も多いが、口をそろえて、「1万でまとめるのは難しい」と言っている。
うちの学部の修士論文の作成の特徴は、最初にタイトルを提出し、その後タイトル変更は基本できない(もちろんスーパーバイザーの承認などがあれば可能だが、手間がかかる)。これは、「タイトルが決まっているから柔軟性がなく苦労した」という意見と「書いていて方向性がわからなくなった時にタイトルが決まっているから軸がぶれずにすんだからよかった」と賛否両論な気がします。
作成の仕方は5月くらいから、スーパーバイザーを決め、一緒にアウトラインを煮詰めていきます。スーパーバイザーは開発学者、地理学者、人類学者など様々で、自分で交渉して見つけるか、書きたい内容をコース長に提出すると、似ている分野の教授を紹介してくれる。どのくらいの頻度で、いつまで会えるか、またどこまでコミットしてくれるかはその教授次第であり運である。当方の場合、春タームの片方のタームペーパーと修士論文のトピックが似ていたので、その春タームのタームペーパーのスーパーバイザーに一連の流れで引き続き修士論文の指導もお願いした。ちなみに春タームに書いた論文は「ネパールの参加型森林保全」についてで、修士論文は「スリランカのコミュニティーベースでの灌漑・及び水資源管理(人間への健康をキーポイントとして)」である。
ちなみに当方のスーパーバイザーはJames Fairhead教授という社会人類学者の教授で環境人類学という分野の第一人者の一人で、ちなみに彼とアフリカの森林などについて数多くの共同執筆しているMelissa LeachというIDSの教授は彼の奥さんであり、公私共にパートナーであるらしい。
修士論文に限らず、全タームペーパーにおいて、多くの日本人はプルーフリーダーと言う英語をチェックしてくれる人に文法・構成などをチェックしてもらっている。先生自体も「英語の問題で言いたい事が伝わらないのはもったいない」とプルーフリードを推奨する人も多い。多くの場合有料で、文法だけ見てくれる、内容までチェックしてくれるかはその人次第である。文字数でいくらという人もいれば、時間制の人もいる。当方の場合、一時間£15だった。
d) 卒業生の進路(就職先の傾向、就職サポート、自分の求職経験)
実際に修士論文の文字数と3ヶ月という書く期間を考えると時間的にかなり余裕があり、その間に一時帰国やインターネットベースで就職活動する人も多い(6月くらいに留学生用の新卒向け就職セミナーの時期なので、新卒生は就職活動に帰る傾向が高い)。 しかしながら、1年間絶え間なく授業や課題があるクイックマスターという事を考えれば、卒業時点で進路が決まっていない人も過半数以上いる。決まっていない多くの人は、7、8月にインターネットで履歴書だけ出し帰国後面接のアポイントメントを得てから帰国するパターンが多い。
e)Admission(出願から入学まで、自分の体験、学費と奨学金、出願者へのアドバイス)
2でも書いたが、以前よりはかなり入学しやすくなっているのと言えると思います。審査に関しては、一斉審査ではなくアプリケーションの届いた順に審査される。ゆえに期限はあってないようなものと言え、早めに出した方が得策だと思う。例えば、コースによって多少の違いはあれども国別配分を行っているとの事なので、その場合日本人で何人くらいという枠があると考えられ、どんなに優秀な人でも遅く願書を出しそれ以前に日本人入学者が決まっていれば、その人を落とさざるを得なくなるらしい。ゆえに遅くとも3月中までには出す事を強く薦めます。
語力による条件付合格ですが、個人的にはほとんどの人が条件を通過しているという聞いています(もちろん落ちる人もいないわけでないのでご注意を)。条件は元来の英語試験のスコアを入学までにクリアするか、夏のプレセッショナル英語コースに参加し最後の試験で定められた点以上出す事が条件です。例えその語学コースの試験で条件をクリアできていなくとも少しくらいの僅差で足りないのであれば、進学予定のコース長に交渉し秋ターム中に語学コースに通う事を条件に入学を許可される事も多いです。しかしながら、これももちろん進学するコース長次第なので、同じ点でも交渉の末に入学許可される人もいれば、許可されない人もいる。
ちなみに農村開発学の現コース長のGrace Carswell教授はかなり面倒見もよくいい人なのだが、かなりシビアな面も持っていて交渉は難しいらしい。ただ、無理に入学してもその人もためにも他のコースメイトのためにもならないと個人的には思う。当方も英語は出来ないので、語力に関してはまだ準備が全然足りなかったと今更ながら後悔している。
4. その他感想
アメリカ等の大学院に比べ英国の大学院は授業数が少ないと言われている。英国内でもサセックスは他大学と比べ試験もなく放任主義的な色合いが強いと言われ、それに対し「高い金を払っている分もっとちゃんと面倒を見てほしい」と不満も確かに耳にする。しかしながら、著名な教授も多く存在し、図書館の品揃えもかなり高いので、やりたい事・目標があらかじめしっかりし、自信でマネージメントし勉強できる人は、コマ数が少ないその分自身で興味あるところを積極的に教授と話したり、集中的にリーディングに時間がさける事ができる点ではいい環境ではないかと思っている。これも人それぞれの取り方だろう。
今まで徒然と思う事を書いたが、かなり個人目線で書いているので、あくまで一意見としてとって頂けばと思います。またこの情報が今後サセックス、特に農村開発に進学希望している人達によって何かの役にたてればと切に願っています。またもし個人的に聞きたい事があれば、shigefreeworld*googlemail.com(*→@)まで連絡して頂ければわかる範囲でお答えいたします。