執筆:2009年1月
自己紹介
ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)に在学中の本田翠と申します。将来、開発分野の職に就きたいという希望があったので、大学を出て数ヶ月後にロンドンに来ました。特に、平和構築に関わる仕事をしたいと思い、紛争後の移行期の開発について学ぶコースが設置されているSOASに入学しました。これまでに職歴はなく、よって開発分野での職歴という意味での経験はありません。大学時代にフィリピンに1ヶ月ほど滞在し、そこで子供関係の国際機関の補助機関で4ヶ月ほどインターンをしましたが、同じ学部にいる学生と比較すると、開発分野での実務経験は格段に少ないと思います。
所属コースの概要
私は開発学部(Department of Development Studies)の中の暴力、紛争と開発コース(MSc in Violence, Conflict and Development:VCD)に所属しています。VCDに通う学生は、Political Economy of Violence, Conflict and Developmentという必修科目(1単位)のほか、1単位をTheory, Policy and Practice of Development、あるいは Political Economy of Developmentから選択し、さらに1単位を自由に選択することができます。修士論文と合わせ、合計4単位を取ることになります。 VCDのほかに開発学コース(MSc in Development Studies)、中央アジアに特化した開発を学ぶコース(MSc in Development Studies with Special Reference to Central Asia)、グローバリゼーションと開発コース(MSc in Globalization and Development)があります。さらに、来年から人の移動と開発(MSc in Migration, Mobility and Development)に関する新しいコースが設置される予定です。
開発学部に通う多くの学生は入学前に開発のフィールドで職務経験を積んだ方が多く、学部から直接来た私にとっては刺激の多い環境です。SOASの開発学部はどちらかというと社会主義と思われる文献を多く読むように感じます。所謂メインストリームを批判的に評価する点は面白いと思います。そのため、開発における主流の考え方をある程度知っていたほうが、より授業を理解できるように思います。また、私の場合、職務経験がない分、授業がピンと来ないこともあるところは少し残念です。
授業全体について
大学院は3学期制ですが、授業が行われるのははじめの2学期です。1学期は9月の後半から、2学期は1月の初旬から始まり、それぞれ10週間ずつです。それぞれ5週目の後にReading Weekという1週間の休みがあり、この週に今までに読めなかった本を読んだり、授業で課されるエッセイの準備をしたりします。3学期は基本的に授業はなく、テストに向けての勉強をする期間という位置づけです。(ただし、私の所属する学科では評価の対象となるプレゼンテーションがあります。)
開発学部全体に関して言えば、SOASでは1学期の間は主に理論を学び、2学期になるとその理論に基づいて実際の開発における諸問題を取り扱うようになります。開発学部は比較的人数が多く、必修科目は大学の大教室を利用して行われます。選択科目はその科目を担当する教授、人数により必修とは趣の違う部分がありますが、どちらにしても、講義の後のセミナーでは活発な議論が行われます。イギリスの多くの大学でおそらく同じような傾向があるのだと思いますが、学生はインタラクティブな議論を楽しみます。この点で私ははじめ苦労しましたが、セミナーに出るうちにすこしずつ楽しめるようになります。
これまでに受けた授業の内容・感想
授業名:Political Economy of Violence, Conflict and Development(必修)
内容・感想:
暴力と開発の関係について、理論を中心に学ぶクラスです。紛争の根本原因は何であるのか、それに関する既存の理論の問題点は何か、紛争を継続させている原因は何か(紛争経済など)、人道援助の意義と問題点、平和構築やテロリズムなども扱います。1学期に1本のエッセイ(それぞれ15%)、テスト(50%)、プレゼンテーション(20%)で評価されます。
授業名:Theory , Policy and Practice of Development(必修選択)
内容・感想:
開発全般の理論、政策について学ぶ授業です。政治哲学から開発の理論(古典的理論、たとえば従属論から新制度派経済学まで)、ジェンダー、保健、インフォーマルセクターの労働、農業開発、環境やグローバリゼーションなど、かなり広範囲の開発分野における諸問題を取り扱います。それゆえに1回の授業でカバーする範囲が広いです。1学期に1本のエッセイ(それぞれ15%)、テスト(70%)で評価されます。
授業名:War to Peace Transition(選択)
内容・感想:
紛争時から平和定着、開発への一連の流れを批判的に学びます。保護する責任(Responsibility to Protect)、和平協定締結時の問題、平和維持活動、平和構築などのトピックを扱います。セミナー形式の授業で、講義はありません。1週間に4本の論文を読み、ディスカッションをします。また、生徒は一度か二度のプレゼンテーション(30-40分)を行うことになります。選択科目としてはかなり忙しい授業ですが、VCDの半数近くの学生が取る人気のある授業でもあります。5000字のエッセイ(50%)とテスト(50%)で評価が決まります。
大学情報
メインキャンパスは大英博物館の裏手にあり、治安はよいと思います。寮からメインキャンパスまでは徒歩で20分ほど、Vernon Squareのキャンパスまでは徒歩5分です。図書館には120万冊以上の本があり、ガラス張りの窓からは天気が良ければ日が差し込み、勉強しやすい環境です。開発学分野に関しては比較的資料が集まっているように感じますが、SOASの学生は他ロンドン大学の図書館(たとえばLSE)も利用することができるので、その点は有効活用できると良いなと思います。
その他の情報
願書に関しては、大学側から返答が来る時期がさまざまであるので忍耐が必要かもしれません。私は11月中旬に出し、12月末に返事をもらえました。書類がそろっている場合は早めのコンタクトをお勧めします。入学後、日本から留学される場合は、事前に配布されるリーディングリストで少し予習をしておくと、さらに学生生活が実りのあるものになるでしょう。
主流の開発のアプローチに対してかなり強く建設的批判をする点においては、SOASは特殊かも知れません。学期中はほとんど毎日読書、プレゼンとエッセイなどに追われますが、勉強する環境としてはすばらしいものを提供してくれているように思います。