MA Humanitarianism and Conflict Response
University of Manchester
志水 千紘 (しみず ちひろ)さん
MA Humanitarianism and Conflict Response
University of Manchester
志水 千紘 (しみず ちひろ)さん
執筆:2024年10月1日
インタビュアー:KIM Minsu (University of Manchester)
1. 自己紹介・興味&関心を持つ分野
・KIM:本日はインタビューを引き受けて下さり、誠にありがとうございます。まず、これまでのご経歴について教えていただけますでしょうか?
・志水:はじめまして。2023年9月から2024年8月末まで マンチェスター大学院の「MA Humanitarianism and Conflict Response」に在籍していた 志水 千紘 (しみず ちひろ)と申します。学部では立教大学の経営学部でFinance & Accounting を専攻する傍ら、副専攻として「国際協力人材育成コース」を受講し、国際関係論なども勉強していました。ビジネス・経営学に興味を持った理由は、純粋に将来役に立つ学問を選びたかったからです。また、5歳から英語を習いはじめ、高校で英語科に在籍していたこともあり、英語で学びたいという強い気持ちがありました。その分、立教大学は英語開講科目が多く、うってつけの環境でした。
このようなバックグランドの中で、なぜ人道支援にシフトしたのか疑問に思う方もいるかもしれません。方向転換をした理由は、ビジネスをしている時に、何か違うなと思うようになったためです。ビジネスでは人との競争・利益が中心であり、いかに良い会社に入るかに神経を注ぐことに違和感を感じました。その中で、元国連職員の授業を受講した際、 助けられるはずの命が失われていく様を目にし、衝撃を受けました。「なぜお金稼ぎのことばかり考えているんだろう、明日の食料すら手に入らない人たちもいるのに。」と、利益をあげることを中心に物事が動くビジネスの考え方に疑問を覚えるようになりました。そこから、自分なりに色々な道を模索するようになりました。
・KIM: ご経歴をご紹介いただき、ありがとうございます。元々ご関心を持たれていたビジネスに関して、自分なりに問題意識を感じていたのですね。具体的にはどのような活動を実施されていたのですか?
・志水: 学業と課外活動に2つに分けてご紹介します。学業面では、英語を更に強化したいと思い、コロナ発生前に3週間カナダのブリティッシュ・コロンビア大学に、コロナ発生後に半年間コペンハーゲンビジネススクールに交換留学しました。
課外活動では、人道支援に関する経験不足を埋めるために様々なインターン活動に従事しました。最新の時系列順にいくつかご紹介しますと、
赤十字国際委員会 (ICRC):主に広報関係を担当。SNSの更新・運営やNews Letterの編集を実施。
ジャパン・ハート: 管理部 (主に経理面)でインターン活動に従事。また、広報やイベントの手伝い、翻訳なども経験。
世界の医療団: データアナリストインターン。公衆衛生系のサーベイ調査の手伝いを実施。
等の活動を経験しました。
結果的に、学部でビジネスについて学び、課外活動で人道支援に関連した実務経験を積むことができたため、両者の視点を得ることができた点は非常に良かったと感じています。
2. マンチェスター大学院について
・KIM:次に、イギリスおよびマンチェスター大学院に進学しようと思った背景などあれば教えていただけますでしょうか?
・志水: まず、大学院に進学しようと思ったのは学部4年生の6月頃です。この時期にちょうどデンマークへの交換留学から帰国し、進路について卒業論文の執筆と並行して考えていました。なかなかやりたいことは決まりませんでしたが、適当に企業を受けてなんとなく就職することには違和感を感じていました。そのような中で、将来国際協力系の仕事に進むなら少なくとも修士号は必須となるため、どうせならそのまま進んでしまおうと思い、進学を決意しました。
イギリスにした理由は、主に(1) 一年で修了できるから、(2) 開発学のパイオニアとして有名だったから、(3) 治安が比較的良いからです。日本に残ることもできたのですが、折角なら大変だとしても好きな英語を活かして新たな挑戦をしてみたいと思ったのも理由の一つです。
その中でもマンチェスター大学院の本コースにした理由は、より普遍的に人道支援を学べると思ったからです。開発学に強みを持つイギリスでも人道支援を専門にしているのは本当に少なく、マンチェスター大学の他にはLSEやSOASなどがコースを提供しています。しかし、SOASはより地域研究の側面が強かったため、人道支援全般を普遍的に学びたかった私にとってはマンチェスターの方がより魅力的に感じ、最終的に進学を決意しました。
・KIM:ありがとうございます!次に、所属しているコースの特徴や授業、所属している学生のバックグラウンド等について教えてください。
・志水: 本コースはHumanitarian and Conflict Response Institute (HCRI)という研究機関の直属コースの一つであり、修士課程はMAであるHCR(Humanitarianism and Conflict Response)とMScであるIDM(Interntional Disaster Management)、MSc Global Healthの主に3つのコースに分類されます (他にオンライン修士課程あり)。私が所属する前者のコースは人道支援に強みを持っており、後者はどちらかというと災害支援寄りのアプローチに興味がある人におすすめです。学期中は、HCRIが主催するイベントが多数開催され、人道支援に特化したNGOなどが集まるHCRI所属学生向けキャリアイベントや、他大学の教授などをお招きしたレクチャーなどが豊富にありました。HCRI内での学生の交流を促進するためのSocial eventなども開催され、コースメイトやレクチャーを聴きにきた外部のプロフェッショナルなどとお話をする機会もたくさんありました。2024年2月には、ロンドンで開催された人道支援のグローバルカンファレンス「Humanitarian Xchange 2024」にHCRIの学生として参加させていただいたのもいい経験でした。
コースでは人道支援について、経済・教育・人権・ジェンダー・公衆衛生・文化人類学・歴史など様々な観点からアプローチします。国境なき医師団や多様な国際NGOともパートナーシップも持っており、実際に現場で活動するプロフェッショナルのゲストレクチャー等も多々あります。関わる機会も多々あります(確認)。一方、コース自体はかなり理論寄りの授業が多く、学部時代に経営・経済系のアプローチに慣れていたため、最初に来た際にはかなり苦労しました。人道支援に対する理論や扱う姿勢はかなり深めることができると思います。一方、職務経験がある人専用の授業もありはしましたが、少し実践する機会が少ないように感じました。
また、後述するように、イギリス人の学生が多いことも反映しているためか、授業やチュートリアルで学ぶ理論も西洋寄りの印象を受けました。実際、教授陣も欧州・欧米出身者の方が多めで、意外と歴史学をバックグラウンドに持つ先生も多く、実務経験を持つ先生は少ないという印象を受けました。取り扱う地域に関しても、アフリカ、中東、ホロコースト等が中心で、アジアはベトナム戦争やカンボジアの件くらいで、あまり対象になることはありませんでした。
次に、受講していた授業の一部をご紹介いたします。
Economics, Peace, and Conflict: 経済的観点から人道支援にアプローチする少し異色な授業です。「経済的に豊かな状態は平和と言えるのだろうか?」など、感情論に偏重しがちな人道支援の分野において非常に興味深い授業でした。
Humanitarianism and Conflict Response - Inquiries: 全学生必修のコア授業です。人道支援の定義から、歴史的な背景、文化人類学・公衆衛生学や国際関係学と絡めた人道支援の役割、開発や平和構築プロセスとの関わりなどを広くカバーしている授業で、他の授業で学ぶより専門的な部分への橋渡し的な役割を果たす授業でした。
Humanitarian Diplomacy and Negotiations: 人道支援を届けるために、現地の政府関係者や他の人道支援団体、そして時には武装勢力との対話をする際に起こりうること・注意することなどを学びました。ICRCを含む人道支援のプロフェッショナルとして今も現場で活動するゲストスピーカーの方が多く参加してくださり、学生がグループに分かれてインタビューする機会もありました。理論では見えてこない、現場での苦労やジレンマなどをお聞きできる貴重な授業でした。
Research and Evaluation Methods: 修論執筆への準備をする授業でした。テーマの決め方から実際のリサーチの手法などを学び、この授業を受けることで卒業論文を執筆したことのない学生でも修論を書き上げられるようサポートしてくださる授業構成となっていました。
その他にも、オプションとしてウガンダへのフィールドワークも存在しましたが、費用が高すぎて断念しました。
コースメイトに関しては、中国人とイギリス人がそれぞれ約40%ずつ、残りがインドネシアやジンバブエ、メキシコ、トリニダード・トバゴなどから来た方々が在籍していました。私の年度には意外と途上国から来ていた人は少なかった印象を受けました。学問的なバックグラウンドは国際関係論やビジネスなど、多様な分野から集まっていたと記憶しています。また、約30%の人々が職務経験を持っており、1人が国連、2〜3人は地元のNGOでの業務経験をお持ちでした。
・KIM:ありがとうございます!また、8月末まで修士論文を執筆されていたと思うのですが、どのような内容の論文を執筆されたのでしょうか。
・志水:修士論文に関しては、Development Impact Bondに関する内容で執筆しました。これはSocial Impact Bondと呼ばれる債券の一種で、民間企業の資金力を債券を通じて紛争支援の資金調達に使用できないかという現在進行形のトピックです。投資リスクの高い公共サービス(人道支援を含む)において、金銭的リターンの付帯された債券を使って民間企業の資金力を活用しようというものです。各プロジェクトごとに目標が設定され、その目標が達成されれば投資家にリターンが支払われるというものです。投資リスクを公共から民間へ移すだけではなく、民間企業とのコラボレーションによるイノベーション促進も期待されています。まだまだ新しい研究分野であるため、先行研究やケーススタディも少なく、修論の執筆はかなり苦戦しましたが、指導教官との相談のもと、構成を考えていきました。学生一人一人に指導教官がつき、7月までに指導教官からフィードバックを受け、8月末に提出する流れになります。これは人によると思うのですが、私は提出前の8月に一番修論のアドバイスが欲しいのに相談することができないことに少し疑問を感じていました。しかし、教授によっては直前でも相談に乗ってくださる方もおられるとのことだったので、少しダブルスタンダードである気もします。笑
・KIM: 詳しく紹介くださりありがとうございます!修論に関しては私の指導教官にも8月に全く相談できなかったので気持ちはわかります。。。笑 今後のキャリアについてはいかがでしょうか?
・志水: 今後のキャリアとしては、コース修了後の9月から三ヶ月間UNICEFにてCommunication & Advocacyのインターンに従事する予定です。その後のキャリアはまだ決まっていませんが、これまで得た経験やスキルを活かしつつ、人道支援に関するNGOや国際機関に入りたいと考えています。現時点では広報系のインターン経験が多めですが、それだけに留まらず、今後はフィールドでProject managementにも携わってみたいですね。
3. 留学を目指している人に一言
・KIM:詳しくご紹介下さり、ありがとうございました!最後に、大学院やイギリス留学進学を目指している方々に対してアドバイスお願いします!
・志水:周りの人と違うことに挑戦することを恐れないでほしいです!大学院進学、ましては海外大学院への進学は不安もあると思います。私も「なんでイギリス?仕事はどうするの?」と聞かれましたし、日本社会におけるレールからは外れた道を行ってるのは自覚していますが、だからこそ意外と他のレールもあることに気づけました。日本でいう主流 (社会のレール)は必ずしもonly optionではないですし、心配しなくて大丈夫です!イギリス大学院進学という決断が成功だったのか失敗なのかは現時点では分かりませんが、来たこと自体は後悔していません。なので、興味があるなら恐れずに第一歩を踏み出してください!応援しています!