MSc Development Economics and Policy
University of Manchester
金 旼秀 (キム ミンス) さん
MSc Development Economics and Policy
University of Manchester
金 旼秀 (キム ミンス) さん
執筆:2024年11月
こんにちは。2023/2024年度にThe Univerisity of Machester MSc Development Economics and Policy を修了したKIM Minsu (キム ミンス) と申します。この度はこのような機会を下さり誠にありがとうございます。まず、私の生い立ちについて軽くご説明いたします。
私は韓国で生まれ、小学校に入学する前に父親の仕事の関係で来日し、大学まで日本で過ごしました。高校2年生の時に一年間ニュージーランドの現地校に留学し、帰国後は英語で授業を受けていました。自身が外国人であるというバックグラウンドや、留学、様々な課外活動を通じて、漠然と世界の政治・経済・文化について知見を深めることができるだけでなく、自分と似たような経歴を持つ方々が多く集まると考え、立命館大学の国際関係学部に進学しました。また、当時はあまり理解できていませんでしたが、中学3年次に滞在したフィリピンでスラム街と高級リゾートが隣接している状況を目の当たりにして以降、貧困・格差問題を始めとした開発問題について何かしらの解決策を模索できるのではないかと思ったのも進学の決め手になりました。
学部では主に国際関係学 (e.g. 政治、経済、文化、法律)について様々な観点から学びました。その中でも、上述した問題意識に対する知見を深めるべく、開発学、国際経済・金融論、政治経済学といった内容を専攻しました。また、自分なりに実務経験を積むために、カンボジアでのボランティア活動やJICA・公益財団法人・民間企業でのインターン、IMF主催のワークショップ参加などを通じて、多様なアクターに関する知見を深めるように努めていました。一方、将来専門家として働けるだけの専門性を会得するにはもう少し勉強・研究を続けたいという気持ちがあったため、大学院進学を決意しました。
その中でもイギリス及びマンチェスター大学院に決めた理由は主に4点あります。
一年で修士号を取得できる点。この点は皆おっしゃってますね (笑)。
マンチェスター大学が私が興味を持つ分野(開発経済・金融、格差研究) で強みを持っていたから。
理論だけでなく、計量分析を始めとするデータ分析力もバランスよく身に付けられるコースが提供されていたから。
ロンドンやOxbridgeだと学費や生活コスト的に高すぎるが、マンチェスターだと物価も都市の規模感もちょうどいいと感じたから。
以上の理由から、大学卒業後に国内の国際協力系大学院に半年間在学した後にマンチェスター大学院の該当コースに進学を決めました。
[コースの特徴について]
本コースでは、計量分析の手法としての計量経済学と開発経済学 (マクロ・ミクロ)を中心に、それぞれが興味を持つトピックの専門性を深めていきます。トピックは貿易・金融・制度・貧困・所得格差・ジェンダー・環境など幅広く、開発経済学に関連した内容はほぼ網羅されている印象を受けました。詳細については (MSc Development Economics and Policy) のリンクから確認できます。また、全体的に理論のみに焦点を当てるというよりは、理論を用いていかに実証分析に活用することができるかをより重要視しているように感じました (純粋な理論経済学は他コースでも提供されているため)。
修了要件として180 creditsを取得する必要があり、各セメスターごとに60 credits (基本的にSemester 1、 2はそれぞれ4科目 (各15 credits))を受講します。Semester 1では基礎的な計量経済学や開発マクロ経済学を中心に修士論文を執筆するための基礎力を付け、Semester 2ではより発展した内容や各自が関心を持つトピックへの知見を深めます。Semester 3は修士論文 (60 credits) の執筆期間です。それぞれのSupervisorの指導の下、定量分析の手法を用いて12,000〜16,000 words程のDissertationを作成する流れとなります。Supervisorは5月頃に学生一人一人に割り当てられます。私がいたコースでは6-7月の間に4回ほど個人面談を実施し、8月末に提出します。3ヶ月で論文を執筆することになるため、短期間で集中して論文を書くことができる反面、より事前準備や自立的な研究能力が求められます。個人的な感想ではありますが、短期間で論文執筆ができたことは自信になった反面、論文の質を向上させるにはもう少し時間が欲しかったです。そのため、研究活動により重きを置きたい方は、イギリス国内であれば Master of Research や Master of Philosophyといった研究重視のコースや、日本やアメリカといった2年制の大学院への進学をご検討されるのも選択肢になりうると思います。
[学生層]
本年度は約60人くらいの学生が在籍しており、経済学部出身の人が多いように感じました。コースの6割以上の学生が中国出身で、約2割がインド出身でしたが、残りはバングラデシュ、ラオス、パキスタン、ガーナ、アメリカなど、比較的多様性が担保されている環境でした。イギリス出身のコースメイトも数名在籍していました。社会経験のある学生の割合に関しては、中国出身の学生は比較的新卒で来ている人が多い反面、他の学生は実務経験 (e.g. コンサルティング会社、JICA、中央銀行、研究機関)や既に自国で修士号を取得してから渡英してきた人など、多岐にわたりました。
今回は必修科目及び個人的に受講して印象に残った科目をいくつかご紹介します。まず、必修科目に関しては以下の通りです。
Econometrics Methods for Development (Semester 1): 基礎的な計量経済学の授業。初歩的なOLSから学習を始め、操作変数法、差の差分析、誤差修正モデルなど、計量経済学を学ぶ上で重要である手法を学びました。毎週あるTutorialでは、R studioを用いて講義で習ったモデルを実際に活用できるようなサポートもありました。学部まで一度も計量経済学を学んだことがなかったため苦戦しましたが、理論一辺倒というよりはいかに実証分析に活用できるかを重要視している印象がありました。
Development Macroeconomics (Semester 1): 主に経済成長理論と国際マクロ経済学の2パートで構成されており、前者ではソローモデルや内生的経済成長モデル、後者ではマンデル=フレミングモデルや為替理論について学びました。
Applied Development Economics Project (ADEP) (Semester 2): 修士論文執筆への橋渡し的な授業。主にLectureでは計量経済学の手法について学びますが、課題として自身が興味を持つトピック・手法を用いて5000 words のレポートを執筆します。なんとなく理解しているのと実際に活用できるかは全然違うため、修論執筆前のいい肩慣らしになりました。
また、選択科目に関しては、
Further Econometrics (Semester 2): Semester 1で習った計量経済学の発展版。扱うモデルも複雑化するだけでなく、数式を用いた理論的な解釈もかなり求められるようになりました。かなり苦戦しましたが、数式を用いて一つ一つ理解を深めることで修士論文執筆時における計量モデルへの理解度がかなり向上したため、履修してよかったと感じています。
Contemporary Issues in Development Finance (Semester 2): 開発金融論の授業。金融と開発、金融発展が経済成長・所得格差・貧困削減にどのように影響するのかを学びました。開発金融論における古典的論文から最新の論文まで幅広く取り扱い、Tutorialではそれらの論点について議論しました。私の修論トピックが開発金融に関連した内容だったのもありますが、かなり有意義な授業でした。
私が在籍した The University of Manchester はイギリスでも一番規模が大きい大学 (学部・大学院合わせて約4万人)なので、所属する学生も多種多様です。日本ではあまり馴染みの無い国・地域から来ている留学生も沢山在籍していました。一方、Societyと呼ばれるサークル活動も非常に活発であり、普段の学業だけではあまり会う機会の無い学部生や現地の学生などとも親睦を深めることができました。個人的には国際協力に関心を持つ学生だけでなく、多様なバックグラウンドを持った方々と関わりたいと思っていたので、非常に感謝しています。もちろん、国際協力に関連したコースに在籍している学生との交流も非常に刺激的でした。本大学院では国際協力・開発に対して非常に多様なアプローチを持つコースを多々提供しているので、これまで以上に視野を広げることができました。
学内には24時間空いている Learning Commons だけでなく、大学院生のみ24時間365日使用できる建物もあり、勉学・研究に没頭することができます。また、多種多様なイベント・セミナーが日々実施されています。専攻以外の興味ある分野の教授・ゲストスピーカーの講演を聴講することで知見を深めることができました。また、勉強関連以外でも、様々なイベントが行われるStudent Unionやフェスティバルホールだけでなく、マンチェスターの一大観光地である Manchester Museumも全てキャンパスの敷地内にあるので、プライベートも充実させることができます。
[学生寮・寮生活]
私はGeorge Kenyon Hallという唯一キャンパス内にある大学院生専用の学生寮に住んでいました。マンチェスター大学は多数の学生寮を保有しているため、どの学生寮にするか悩みましたが、個人的には満足しています。メリットとしては、何よりキャンパス内に位置しているため夜遅くまで勉強してもすぐ帰ってこれる点ですね。部屋も机が非常に広くて使い勝手がよく、En-suite式の寮だったためキッチンでは他の寮生と交流したりと、勉強・課外活動とプライベートのメリハリがつけやすかったです。一方、デメリットとしては、壁が薄い点です。
ただ改修工事の影響で来年度は募集しないとのことなので、少し残念ですね (笑)。今後留学を検討されている読者に対して一点お伝えするなら、興味がある学生寮を見つけたら早めに仮応募することをおすすめします。私はオファーを貰ってすぐ応募した (2023年1月) ので第一志望の寮に入れましたが、4月に応募した友人は入寮することが出来ませんでした。
[マンチェスターでの学生生活について]
良くも悪くも本当に住みやすい都市といった印象を受けました。もちろんロンドンと比較すると規模は小さいですが、大学からCity Centreまで徒歩で20分程度しかかからないだけでなく、City Centre自体もコンパクト (徒歩20〜30分圏内)にまとまっているため、気軽に遊びに行くことができます。ショッピングモールを始めとして、レストランやカフェ、レジャー施設が揃っており、一年間生活していて特に不便は感じませんでした。
また、イギリスの地方都市の中ではかなり多国籍な環境であり、イギリスにいながら世界の食文化やイベントを堪能できる点もよかったです。City Centreにはチャイナタウン、キャンパスから徒歩で20分くらい南の場所には Curry Mileと呼ばれるインド・中東系のエリアが広がっており、エスニック料理が大好きな私は日々開拓していました (笑)。また、春節やディワリ、クリスマスといった季節のイベントも多数実施されるため、日常生活は退屈しないと思います!
渡英前は「自分が本当にイギリス大学院でやっていけるのか?」と不安になることもありましたが、いざ実際に来てみると「意外とそんなものか」と感じました。ただ、もちろん楽な道のりではなく、どちらかというと大変なことの方が多かった気がします (笑)。慣れない専門的な定量分析や、就職活動との両立に苦戦することは多々ありましたが、そういう時だからこそ一人で閉じこもるのではなく、コースメイトや信頼できる友達と助け合い、切磋琢磨しあえる環境を意識的に作れたからこそ最後までやり抜くことができたと思います。周りの助けを得ながら、置かれた環境で何ができるのか、どうすれば自身の目標を達成できるかを考えながら日々ベストを尽くした経験は一生の財産になりました。個人的にはイギリス大学院に進学して本当によかったと思っています。
もちろん、近年の急激な円安の進行やインフレなど、海外大学院留学に挑戦しづらくなっているのも事実です。否応無しにイギリス大学院進学をおすすめするわけではありません。自身の今後進みたいキャリアも鑑みて、留学におけるコストとリターンを慎重に検討する必要はありますが、もし少しでも興味があるのであれば積極的に挑戦してほしいです!そのためには、早めから情報収集をすること(ほとんどこれは命運を分けると言っても過言ではないです)、自身のキャリアをなるべく明確にすること、周りにどんどん発信すること、そして何より頑張ることを楽しむことが大切だと思います。この記事が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。また、質問やより詳細に聞きたい点などございましたら、以下の連絡先まで気軽にご連絡ください!
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