MSc Development Management
London School of Economics and Political Science
吉馴 真汐さん
MSc Development Management
London School of Economics and Political Science
吉馴 真汐さん
執筆:2025年3月
担当:伴場森一 (London School of Economics and Political Science 修了)
2024年9月まで、LSEのMSc Development Management(以下DM)で学んでいた吉馴真汐(よしなれ ましお)と申します。国際開発への関心と、学部生の時にコロナ禍で留学に行けなくなったことで、2023-2024年度の海外大学院進学を決めました。所属していたゼミの担当教授がLSEの卒業生だったこともあり、後押しを受け進学しました。専攻のDMでは、学部時代から興味のあった世界の構造格差について、ガバナンスや制度といったアプローチを軸に研究を進めていました。
DMはDepartment of International Development(以下ID)に属するコースの1つであり、学部全体の中でも上記のガバナンスや制度に着目し、「なぜ一部の国が貧しく、他方、豊かな国があるのか」という問いを基にディスカッションや授業を展開されていきました。学部時代に国際関係学を学び、そこからグローバル・ガバナンスや持続可能性に興味を持った時に国際開発学について知り、大学院では国際開発学に進むことに決めました。IDの中でもDMを選んだ理由としては、以下で触れている「Consultancy Project」が決め手でした。大学院に行くなら、将来的には国連機関を目指してみようと大きな目標を描いていたため、その経験が少しでもできる該当コースがあるDMへの進学を決めました。
授業では、(2025年以降は色々と異なるようですが)IDに所属する教授が担当のレクチャーを2つ履修しました。所属コース以外の他学部の授業を履修した場合はコースリーダーからの許可が降りると、パブリック・ポリシーや国際歴史などの授業を履修することもできました。私の場合、IDの中では 「Democracy and Development」、「International Institution and Late Development」、パブリック・ポリシーのコースから「International Political Economy and Development」を履修しました。
上記3つの中で一番面白かったのは「Democracy and Development」で、これはLSEの中で唯一民主主義を中心テーマに置いた授業です(24/25年度以降は、必須科目としてまとめられているようです)。この授業の中で、「Autocracy and Development」をテーマとして扱う回があり、主に「なぜ非民主主義体制は経済成長に繋がらないのか?」という問いを様々な理論や事例を基に検証していきました。具体的には、80〜90年代の理論をもとに「非民主主義体制は持続的かつ包括的な開発にはつながらない」という主張を深堀していくのですが、現在の中国やベトナムなどの事例をそれらの理論は明確には説明できておらず、その矛盾点と理論と現状事例の乖離に非常に面白さを感じていました。理論的に説明できないと言いつつも、その理論を考案するに至った経緯や理論自体の意味深さは、ずっと考えていられるほど興味深く、最も履修してよかったと思う授業です。この回をきっかけに、修士論文ではベトナムの南北格差に着目し、省政府と中央政府の関係性とその関係性がもたらす開発への影響について研究しました(ちなみに、担当教授のアメリカ英語が非常に早く、英語の処理速度とメモをとる速さも鍛えられました)。
何時間も暗くなるまで過ごした(うるさい)図書館
そして、冒頭で言及した通り、DMは「Consultancy Project」という必修授業があります。国連機関や国際的なコンサルティングファームなどをクライアントに、私たち学生が学生コンサルタントとして事業やプロジェクト解決に取り組むDMの目玉となるコースです。私がDMへの進学を決めた1つの理由でもあり、結果としては非常に良い経験ができたと感じています。
私は第一希望であったILO(国際労働機関) フィジー事務所のスコーピングスタディに参加しました。スコーピングスタディというのは、テーマとなっている問題を具体的に明らかにすることを意味します。ILOのプロジェクトでは、「太平洋諸国における東南・南アジアからの移民労働者の現状」がテーマとなっており、それに関してどのような問題があり、なにが背景にあるのかなどを明らかにする必要がありました。テーマ設定の背景には、プロジェクト開始の数年前からバヌアツでの移民労働者たちの労働搾取及びその背景にある不法滞在と人身売買が地元ニュース紙で取り上げられ、ILOフィジーがこれから具体的に施策に動こうとしている段階でした。私たちは、グループでデスクリサーチやインタビューを通じて、土台となるプライマリーリサーチを行いました。時差があったため、朝5時からオンラインインタビューをしたり、他の授業と並行して行うのは非常に大変でしたが、職務経験のない私はプロジェクト自体からも、他の職務経験のあるコースメイトたちからも学ぶことが多くありました。何より、修士に在籍しているものの、職務経験のない新卒の履歴書に学生コンサルタントとしてILOフィジーの経験が書けたことは大きなアドバンテージになったと感じています。
私は現在、日本のODA事業を行う民間のコンサルティング会社でアシスタントとして働いています。就活は周りの新卒の日本人よりはかなり遅く、コースを終了して日本に帰国した10月からコツコツゆっくりと始めました。LSE在学中に、ロンドンキャリアフォーラムがあったり、LSE内のジョブフェアもありましたが、コースワークに疲れ果てて、それどころではなかったため、在学中は勉学に集中し、コースが終わってから取り掛かることに決めました。
結果的には、(目指す業種によるかもしれませんが)就活を始めた時期が遅かったわけではないと考えています。コース終了から現在に至るまでのスケジュールとしては、「9月末に帰国→10月からバイトと並行して就活→12月初旬に内定→同月半ばに大学院の修了式→3月から勤務開始」という流れです。就活と一言に言っても、私の場合は通年採用を行なっている会社に応募したので、もし、新卒の就活サイクルに入りたいのであれば、異なる戦略が必要かもしれません。今となって振り返ると、コースワークで疲れ切っている時に無理に就活に取り組まなくても、大学院がひと段落してから就活を行うというやり方は、自分としっかりと向き合うという点で私自身のスタイルに合っていたと思っています。
ロンドンの夏と天皇陛下訪英時のバッキンガム宮殿前。
なかなか見られない光景です
私は今回のLSEへの大学院進学が初めての留学で、不安しかなく、ロンドンに到着した時は本当にどうなることかと思いました。しかし、日本にいる家族や友だち、ロンドンにいる同じ日本人の方々やロンドンでできた友人たちに支えられ、1年間を何とか生き延び、無事修士号を取得することができました。よく、留学など何かに挑戦するときは常に先のことを考えて行動したほうがよいというアドバイスを耳にしますが、私自身、留学中は留学のことを、留学後にその後のことを順番に考えるというやり方でもここまでなんとかやってこれました。そのため、あまり先のことばかり考えて不安になる必要はないと思っています。目の前のことを精一杯頑張れば、その先の未来は何とかなる(はず)と少数派かもしれませんが少しばかりの楽観性を持って考えています。これから留学に挑戦される皆様も、先のことばかり考えて不安になるようであれば、ぜひ目の前のことに一生懸命取り組み、’Be present’を意識して1つ1つの経験を大事にしてほしいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました。私の経験が少しでも参考になれば幸いです。皆さんの留学が、学びが多く良い人たちで溢れた経験になりますよう、心より祈っております。