MSc Human Rights
London School of Economics and Political Science
Wさん
MSc Human Rights
London School of Economics and Political Science
Wさん
2023年12月執筆
担当:伴場森一 (London School of Economics修了)
1.自己紹介
2022年3月に上智大学法学部卒業後、2022/2023年にLSEの当該大学院プログラムに在籍。高校では理系専攻(その後、自分の夢を見つけて大学で文転)。帰国子女ではなく、また、過去に留学経験なし。
国際法を専攻しているが、法領域に長居しすぎて理屈っぽくなったり頭が膠着したり盲目的になったりする前に、他の周辺学問領域の大きなマップを手に入れておこうと思い、分野横断型の当該プログラムを選択。加えて、自分の研究テーマは学部レベルで言及されない発展的分野に在り、近年の学説の状況からして学際的なアプローチを試みる必要性を感じたため、当該プログラムを選択。
2.所属コースの概要
[比重の大きい科目:必修科目]
人権を主軸に学際的な学びが提供される。なかでも取り扱われる学問領域は、法学、政治学(政治哲学)、社会学である。これに対応する形で、3名の教授が各々の専門分野において必修科目を専任する。修士論文の監督者は、学生の事前アンケートの回答を頼りに学部スタッフの手によって振り分けられる(しかし学部生の頃に比すれば、監督回数や時間はだいぶ少ないから自立的な研究能力が試されることになるだろう)。
[学生層]
本年度の学生は、法的なバックグラウンドを持っている学生が大半であった。その理由は、LSEのHPにある出願要項にて「出願者が法的な問題を扱えるか否か」という観点からMSc Human Rights and Politicsと棲み分けされていたという事情によるものと推察される。日本人は自分だけであり、アジア人もほんの一握りだった。既に職歴を持つ実務者の方は多く、彼ら彼女らの話を聞くと世界のありとあらゆる地域の事情や状況を見聞きするようであるから問題意識が喚起されるうえ、自分事化されていく。
3.授業の概要
上の2.によれば、法的な教育が比較的分厚いものであるとの期待を持つが、実際、必修の「Approaches to Human Rights」(1 unit)では法学・政治学(政治哲学)・社会学の授業回数が均等に配分される。本講義で聞けるキーワードは、(2022/2023年時点で)社会契約、功利主義、共同体主義、帝国、ジェンダー、ジェノサイド、ICL(International Criminal Law)、人種、社会運動である。他に、必修「MSc Human Rights Dissertation」(1 unit)がある。選択科目として、他学部の講義から上限1 unit分(つまり0.5 unitの講義×2)が選択できるが、(履修科目リストに挙げられている)社会学部の講義から最低限1 unit分(つまり0.5 unitの講義×2)を履修しなければならない。最終的な履修計画の全体像としては、「Approaches to Human Rights 」(1 unit)+「MSc Human Rights Dissertation」 (1 unit)+選択科目(0.5 unit×4で2 unit)=4 unitということになる。それゆえ、最低限1 unit分は受講することになる社会学部の講義に対して自分の学問的関心が合致していることが最も望ましく、都合が良い。
4.大学紹介
[機会]
LSE Lifeという学問の作法を習う無料のワークショップが年間を通して度重ねて提供されているから、イギリスでの作法を知るために利用しない手はない。他に、世界中からゲストスピーカーを招いた講演会も頻繁に開催され、そこではあらゆる情報が手に入る。息抜き程度にとりあえず足を運んでみると、知識や認識、視野に格段に広がりが出ると思っている。
[学友]
教室の外であっても学問的な会話が好きな学生がやはり一定数存在する。そういう学生を見つけることができれば、分野横断型の新しい教養が形成される契機となるはずである。自分と相手の類似性や共通点にこだわらず、様々なバックグランドを持つ学生と話してみると良いと思う。学部をまたいで交流することもまた面白いものである。また、博物館や美術館、歴史的建造物をはじめとして、学友を連れ出してみると(あるいは自分を学友に連れ出してもらうと)世界観が広がる。学友の影響を軽視せず、大事にされたし。私自身もその恩恵に預かった一人であり、非常に感謝している。
5.その他
[図書館]
LSEの図書館では、例えばSilence Zoneや大学院生専用の勉強部屋など、目的に沿った勉強スペースが見つかりやすく非常に快適であるため、積極的に利用してみるとその有用性が身に染みる。休憩に書架の間を散歩すると他の講義の教科書になっている面白い本を見つけることもある。書架や本のラベリングがよく整理されているから、利用するのに便利であった。
[学生寮]
Urbanest Westminster Bridgeという学生寮に住まわせてもらった。評価するならば、満点である。贔屓目に見えるかもしれないが、セキュリティ、レセプション対応、部屋のメンテナンス、部屋の設備(床暖房がついている)と公共設備(印刷機がついている)、立地、衛生面、Wi-Fi、その他サービス(トラブル対応等)を含め、何一つ不自由しなかったし、不安感や不快感もなかった。 他の学生寮に住んでいたわけではないため比較対象に乏しいのだが、それでも2023年9月時点(自分が学生寮を出た時点)で、おすすめしたい学生寮である。
[出願]
出願書類を準備するに際して、LSEがHP上で提供している情報を詳細に読んでそれに正確に従って欲しい。他に何か技をこねくりまわす必要はなく、それだけで事足りる。私に合格が与えられたのは、個人的な推測に基づいて言えば、ステートメントと客観的判断材料の充実によるものと思われる。客観的判断材料は、研究論文・成績・学外活動の受賞歴、学外活動、トレーニングの修了や資格といったものである。私はそれぞれに思い当たるものが複数あったため、幸いにして書くことに困らずに済んだ。勉強部屋に住み着いているだけでは社会との結びつきが薄弱だし、社会的に活動していても机に付かなければ経験が学びとして身にならない。アドミッションはそういうバランス感覚が養われた人間に学問的貢献と社会的な貢献を期待するものだろうと思うから、出願者に学業と社会的な活動のどちらも要求されるのは自然なことだと個人的には考えている。
6.留学をめざしている人へ一言
LSEは充実した環境である。とはいっても他の海外大学院も同じ修士の教育レベルを提供できる以上は、環境による恩恵はそこまで大差のあるものではないだろう(むしろ大差ある方が問題なくらいだ)。結局のところ、このLSEの環境を活用して何を目的に何をするのか、そして結果的に自分は成長できるかという個人の問題に行き着く。もしそういった問いとLSEが合致し、LSEが良いと思うようであれば、迷わずLSEを選んで欲しい。望みに応えるように、LSEは多くのものをもたらしてくれると思っている。