執筆:2009年3月
自己紹介
現在LSEのMSc Population and Developmentに在籍中の藤井です。日本の大学で人類学を学び、その後、開発に関係する政府系機関で数年間働いていました。開発の実務に携わる中で、「貧しい国はなぜ貧しいのだろうか?」「開発(援助)は、誰が、何のために&誰のためにしているもので、それが途上国にどんな結果をもたらしているのだろうか?」「その中のどこに自分を位置付けるのか?」といった初歩的かつ根本的な疑問を持つようになり、それに関する自分なりの答えを探すために留学を決意しました。
大学院及びコースを選ぶ際には、開発全般を広く考えることができるということに加え、特定分野の専門性を高めることができる内容を有するということをポイントにしました。開発と人口を選んだ理由は、人口問題が途上国にとって重要な課題であることはもとより(高齢化という点では先進国にとっても重要な課題です)、もともと仕事で携わっていたジェンダー分野と関係がある点、マクロかつ定量的な視点で「人」に関係する物事を考える力を培うことができるといった点を満たす内容であったためです。
所属コースの概要
私が所属するMSc Population and Development は、開発の文脈の中における様々な人口問題を理解及び研究する構成となっています。具体的なコース構成は、(1) 開発学の理論に関する授業を必修とし、(2) 人口に関する授業3種類の中から2種類を選択し、(3) その他自分の興味がある授業を1つ選択するといった形になっています。開発理論の授業では、広く包括的視点で開発全般の潮流と課題を捉えながら、そして人口に関する授業では、焦点を人口問題に絞った深い議論をするといった流れになっています。人口に関する授業は、マクロな人口転換に関する理論的内容のものから、人口分析に係る具体的な手法を習得できる内容のものまで様々なものがあります。ただ、開発の文脈のなかで人口を扱うという点と、比較的理論を中心とした内容が多いという点から、人口統計に関する本格的な手法を習得したいといった人向けではないかもしれません。また、学期開始前には、統計学(及び経済学)の予備知識がない生徒のために、予備コースが用意されていますので、任意で参加することが可能です。
MSc in Population and developmentは、Social Policy Department とDevelopment Studies Institute (DESTIN)のjoint-degree programmeという形で運営されています。Joint-degree programmeの利点としては、2つのDepartmentのリソース(知的リソース・人的ネットワーク・設備・イベント等)を活用できる点にあります。また、20人程度と比較的小さい規模のコースであるということと、授業の選択肢が少なく他の生徒と同じ授業を選択することが多くなるため、生徒間が親しくなりやすい環境であると思います。また、LSEの開発にかかわるコース全般に言えることですが、生徒の出身国は多様であり、生徒の多くが職業経験者です。
授業全体について
LSEはMichaelmas term (MT:9月-12月)、Lent term(LT:1月-3月)、Summer term(ST:4月-6月)の3学期制で、MTとLTに授業とセミナーがあり、STはテストの期間となっています。私がとっている授業に関して言えば、理論を中心とした内容が多い傾向が見られます。私は実務の経験があっても、理論的なバックグラウンドがなかったため、大学院で学ぶ開発理論と自分の現場での経験との大きな溝を自身の中で埋めること(何らかの関連性を見つけること)に苦労しました。LSEは、様々な経歴を持った生徒たちが世界中から集まっているので、セミナーでは様々な視点で活発な議論が行われます。
また、LSEの成績評価は、最終テストの結果が占める割合がとても高いため、入学当初から最終テストに向けてどのような対策を取るかということが、卒業に向けた重要な戦略となっています。
これまでに受けた授業の内容・感想
授業名:Development Theory, Policy and History
内容・感想:
Development Theory, Policy and HistoryはLSEの開発に関する授業の中で、最も重要な位置づけとなっているコースの1つです。名前のとおり、開発の理論、開発の歴史、そして開発に関する政策を扱う内容となっています。開発学とは、そもそも学際的な分野であることから、取り扱うトピックも政治的要素が強いもの、経済的要素が強いもの、特定課題や政策に焦点をあてたもの等、週によって様々です。ただ、現在の開発学の潮流として、経済学者による理論が大きな影響力を持っていることもあり、読む論文も経済学者が書いたものの比率が高くなっています。
基本的に、毎週論文を最低4~5本を読み、これらの論文に書かれていることと授業で学んだことを中心にセミナーで議論します。生徒は前期と後期に1回ずつ特定課題についてプレゼンテーションを実施するとともに、それに関係したエッセイを提出します。成績評価は期末テスト80%+エッセイ20%になります。
授業名:Population and Development
内容・感想:
有名な人口学者であるTim Dyson教授の授業です。途上国の人口動態、人口転換、人口にまつわる様々な課題(人口増加、移民、高齢化、都市化、食糧問題、環境、HIV/AIDS等)をマクロな視点で取り扱う授業です。授業では、これらの課題に関する一般的な理論だけではなく、教授自身の研究による興味深いデータ等も紹介されます。この授業の特徴を挙げると、取り扱う課題のスケールの大きさはもとより、それ以上に、教壇を飛び回ってダイナミックに人口について講義をするDyson教授であるといえるかもしれません。セミナーは別の担当者がいて、必ずしも授業の内容とは時間的にリンクしていません。生徒はセミナーで特定課題についてプレゼンテーションを実施します。成績評価は期末テスト100%です。
大学情報
LSEは2008年からMoodle(情報プラットフォーム・システム)を導入しており、すべての講義コンテンツがMoodleの中に集約されています。講義によってコンテンツの情報量は異なるものの、授業のアウトライン、パワーポイント、その他配布資料、リーディングリスト等が基本コンテンツとして格納されています。生徒は授業前にこれらの情報をMoodle経由で入手するとともに、生徒自身が自分の担当するプレゼンテーションのパワーポイントをアップロードする等、非常に活発に使われています。最初は使い方に戸惑う人もいるかもしれませんが、ほぼすべての情報はMoodleにアップロードされているという点(同時に、生徒はLSEで実施されているすべての講義コンテンツにアクセス可能であるという素晴らしい点!!)から言っても、LSEの学生にとってMoodleは非常に重要な役割を担っています。
その他の情報
とにかく留学前にどれだけ英語力を上げることができるかということが、留学の成功の1つの鍵になると思います。英語で日常会話を苦なくこなせるというレベルと、アカデミックな議論を英語でできるというレベルには想像以上に大きな差があります。英語でE-mailを打てるというレベルと、英語で論文を書けるというレベルの差も然りです。私自身も恥ずかしながら、本当の意味でそれに気づいたのはこちらに来てからで、いまだに自分の英語力に歯がゆい思いをしています。多くの日本人学生は豊富な知識があるのにもかかわらず、英語でアウトプットができずに苦しんでいるといった話をよく聞きます。IELTSやTOEFLの高得点を目指すだけではなく、英語で実質的なアカデミック議論ができるよう、そして英語で論文が書けるよう(そして、私のように英語で泣かされないように…)、語学に関してはできる限り準備されることをお勧めします。