執筆:2017年6月
1. 自己紹介
2012年に経済学部卒業後、インフラ企業に就職。国際部門所属時に国際協力関係業務に携わったことがきっかけで、経済開発分野に興味をもつ。学部生時代から漠然と大学院進学したいと考えていたこともあり、大学院留学を決意。イギリスを選んだのは1年で修士号を取得できる為で、その中でも人・物・金・情報の集まるロンドンで学びたいと思い、ロンドンの大学を中心に各コースを検討。経済発展をトップダウン、ボトムアップ両方の視点から学べる現在のコース(MSc Local Economic Development)に惹かれ、2016/2017期生として在籍。
2. 所属コースの概要
経済地理学の理論を基礎とし、途上国・先進国両方の地域レベルでの経済発展について学ぶ。キーワードは新古典派経済学、内生的成長論、新経済地理学、集積の経済、産業クラスター、イノベーションシステム等。非常に学際的なコースで経済学や地理学のバックグラウンドがなくても授業についていくことは可能。
日本では地理学自体があまりメジャーではない(気がする)が、イギリスでは一つの学問として確立されており、LSEの地理学部にも著名な教授陣が揃う。2016年に生じたBrexitやTrump大統領の選出、日本の地方創生の議論にも大きく関わる旬な学問であるものの、地域経済開発といってもアプローチが貿易、グローバリゼーション、インフラ政策、産学連携、多国籍企業と多様であり、一つのポイントに的を絞った学問を修めたい人には不向きかもしれない。また、途上国の開発学に特化した勉強をしたい方は開発学部のコースを選んだ方が良いと思う。
コースは50名弱おり、ヨーロッパ出身の学生が約半数。他は中南米、アジア、北米から。日本人は毎年2名程在籍している模様。職務経験のある学生は約3分の1であり他のコース、学部と比較しても学部卒でそのまま大学院に進学している学生が多い印象。
3. 授業の概要
卒業の為の取得単位数は4unitあり、0.5unitは必修のコース(GY404)。1unitは修士論文。残りの2.5unitのうち1unitはGY407もしくはGY408が必修で実質的に自由に選べるのは1.5unit分。他学部のコースも受入られれば受講可能であり、DevelopmentやSocial Policyの学部の授業を取っている学生も中には居た。
LSEの学期は、9月~12月のMT(前期)、1月~3月のLT(後期)、5月~6月のST(試験期間)の3学期制となる。LSEの授業は試験による評価が中心となるため(大学によってはエッセイのみの評価方法のところもある)、4月以降学生は試験勉強で非常に忙しくなる。
修士論文については前期に1度アドバイザーと面談があるものの、具体的な研究テーマを確定するのは後期になってから。論文の為のアドバイザーも学生一人一人につくことになるが、面談の機会・時間も限られているため基本的には個人の力で進めていくしかない。私のコースではQualitative(インタビュー形式)もしくはQuantitative(StataやSPSSを使ったデータ分析)の研究が必須であるが、他のコース・学部によっては文献ベースの研究でも修士論文として認められる模様。
授業名:GY407 (1 unit) Globalisation, Regional Development and Policy
内容:
(前期)グローバリゼーションの影響を地域経済発展の視点から学ぶ。<キーワード>比較優位、所得の収斂、資本・労働移動、産業内貿易、地域間格差拡大、都市化など
(後期)グローバル化が進展する中での地方政府の役割、対内直接投資誘致のインパクト、インフラ設備投資、人材開発について考察を行う
感想:前期、後期ともにこの分野でトップクラスの教授が教鞭をとる。後期の授業のセミナーでは授業に関連するトピックをディベート形式で議論。勝利チームには教授からお菓子のプレゼントもあることから、白熱した議論となる。
授業名:GY408 (1 unit) Local Economic Development and Policy
内容:
(前期)地域経済発展を“ボトムアップ”の視点から学ぶ。具体的には地域経済発展の鍵となるアクター(大企業、中小企業、多国籍企業、大学・研究機関、政府、産業機構、NGO、地域コミュニティ他)についてそれらの定義と役割について分析を行う。
(後期)マクロ・メソレベルにおける地域経済開発について“トップダウン”の視点から主に政策分析を行う。先進国、途上国両方における地域経済開発政策の評価を行う。具体的にはEUの地域政策をアメリカ、インド、中国の例と比較することによって、既存の政策ツールの利点/欠点の分析を行う。
感想:前期、後期ともに理論中心の講義となり理論を理解するのに一苦労するが、きちんと学習すればしっかりとした基礎と応用力の身に着くコースとなる。
授業名MY452 (0.5 unit) Applied Regression Analysis
内容:単回帰分析、重回帰分析、ロジスティック回帰分析をStataもしくはSPSSを用いて行い、アウトプットされたデータの分析を行う。
感想:実践的な授業。GY407,GY408の授業の課題リーディングがほとんどStataでデータを解析、分析を行っているため、こうした分析に慣れ親しんだことない人にはお勧めのコース。
4. 大学紹介
ロンドンの中心部に位置する都市型のキャンパスであり非常にコンパクト。近くにリンカーンズインフィールドという公園があり、お天気の良い日はLSE生や近隣で働くオフィスワーカーでいっぱいになる。建物のせいなのか課題やリーディングの多さのせいなのか、“キャンパスライフ”というよりも時々“予備校”に通っている気分になることもあった。
最近は学生サポートも力を入れているようで、LSE Lifeという組織が授業選択のコツやエッセイの書き方、修士論文の計画方法等についてレクチャーや指導を実施している。また、就職サポートも手厚くCVの添削やキャリアイベントの開催も毎日のように行われており、年に1度、国際機関での就職を目指す学生に向けた大規模なキャリアフォーラムも主催している。
5.その他
Lilian Knowles Houseという大学の寮に住んでいる。立地の割には比較的安い値段で住めているが、それでもかなりの家賃負担となる。寮は抽選制で早めに申し込まないと入寮できない場合あり。自分で探して住んでいる学生も多く(ほとんどはフラットシェア)、学校から遠くでも良ければ大学の寮よりも安く住める場合があるのでそちらも検討しても良いかもしれない。寮のタイプもいろいろあるので(院生のみ、学部生とMix、LSE生のみ、他ロンドンの大学生とMix、食事付、バス・トイレ共用etc)自分の好みにあった所を情報収集し探すと良いと思う。
学校からウエストエンドの劇場やコヴェントガーデン、ソーホーは徒歩圏内であり、気分転換にミュージカルを見に行ったり、レストランで食事をしたり、学業以外の面でもロンドンという地を満喫できる恵まれた環境。また、多くの人が書かれているように、LSE主催の無料のPublic Lectureの質は非常に高く、LSE関係者でないと参加できないものもあるためその時はLSE生で良かったと改めて感じる瞬間である。2016/17のPublic Lectureではノーベル平和賞を受賞したコロンビアのサントス大統領(LSE Alumni)、マイケル・サンデル教授、世銀のジム・ヨン・キム総裁他、政治、経済、アカデミックといった様々な分野で活躍する人の講演が多く行われた。
6.留学をめざしている人へ一言
社会人で留学を考えられている方は、現役の大学生と異なり、情報収集手段や応募できる奨学金が限られているなど多くの制約があると思います。働きながらのIELTS取得やアプリケーション書類の作成、奨学金探しなど苦労も多くあると思いますが、それでもこの1年間を振り返ると、その苦労は軽く吹き飛ぶくらいの素晴らしい出会いに恵まれ、貴重な経験ができたと感じています。人生1度きりですので、迷ったらGOの精神で、その時々で後悔のない選択をされたら良いのかなと思います。