執筆:2017年9月
1. 自己紹介
国内私大卒業後、民間企業に就職。4年強営業に従事したのち退職し、JICA長期ボランティア、青年海外協力隊に参加。村落開発普及員(現在はコミュニティ開発へ職種名変更)としてウガンダへ派遣され、地方の町役場に所属。主に水・衛生分野を担当し、農村部にて井戸修理のコーディネート、小学校やコミュニティにて衛生啓発を実施した。その他、かまど設置や生ごみを利用した炭づくりも地元グループと行った。安全な水資源の確保という観点と、人口増加や開発に伴う森林減少、大量のゴミ排出、都市部の大気汚染等への対策という観点から資源・環境保全、環境管理の必要性を感じ、持続可能な開発や環境と経済開発との調和について学べる本コースを希望。
2. 所属コースの概要
当該学部は都市/地域開発系と環境系との2つに大別できる。私が所属していた環境系には環境・開発コースの他、環境経済学・気候変動、環境政策・規制の2コースがある。環境・開発コースの特長は、国際開発学部の授業を履修できること。環境保護に偏ることなく、社会経済開発の枠組みから環境を学べるコース編成が強みといえる。
一方、アカデミック色が強い教授陣や職歴が短い(多くは0~2年)大半の学生を反映してか、セミナーにおける議論は現実味を欠き物足りなさを感じることも。コースの人数は50名。欧米からの学生が多数を占め、アジア・アフリカからの学生は少なかった。日本からは私を含め2名、近隣国では韓国1名、中国3名。英語圏において生活あるいは学部教育を経験している者が多い。環境・開発コースだが、開発より環境にバックグラウンドを持つ学生が多かった。
3. 授業の概要
授業は講義とセミナーの2部構成。講義は履修者一斉、セミナーは15~20人前後に分かれて行われる。授業中の発言やセミナー中のプレゼンは基本的に成績評価の対象外。エッセイのみで成績が決まる授業は少なく、全般的に試験結果が重視される。なお、試験の過去問には在校生なら誰でもLSEのウェブサイトからアクセスできる。以下は履修した各授業の概要。
・授業名:環境と開発 Environment and Development
内容:通年必修科目。トピックが広範に亘るため前後期通じ5名の教授・講師が専門領域を持ち回りで担当。前期は持続可能性、グリーン成長、環境経営、環境テクノロジー等。後期は各週異なるテーマ(生物多様性、農業、水、森林、エネルギー、都市化等)を取り上げる。
感想:前期は理論中心でやや抽象的だったが、後期は具体的なトピックを掘り下げていった。前期の内容が後期の内容を理解するための土台になっていたように思う。環境と開発の繋がりをウガンダでの協力隊経験と照らし合わせて学べた点で後期の方が面白く感じられた。
・授業名:気候変動:科学・経済学・政策 Climate Change: Science, Economics and Policy
内容:気候変動について学問的見地から学べるところが特色。例えば、経済学の需要供給曲線やゲーム理論をツールとして実際の気候変動政策や国際交渉を読み解いていく。面白いのは、投げかけられる選択式質問に学生がボタンで答え、教授がウィットを交えながら解説していく講義スタイル。
感想:授業内容がよく練られていた。セミナーは気候変動政策の運用面にポイントが絞られており、CO2排出権に関し各自がディーラーとなりオンラインで仮想取引を行ったりした。試験問題がパターン化されておらず準備が大変だった。
・授業名:経済評価 Economic Appraisal and Valuation
内容:コスト・ベネフィット分析をはじめ公共事業等を評価するためのツールとその運用例が提示される。そこでは環境コストを数値化する手法も紹介される。また、生物多様性や生態系機能(土壌の水浄化作用や森林の保水機能等)といったマーケットが未発達あるいは存在しない領域に対する環境価値の測定方法が模索される。
感想:分析ツールを研究した論文は概念的であり、試験前に時間を割いて勉強することでようやく理解できた内容も多かった。生物多様性オフセットや生態系サービスへの支払いといった方法は環境対策の先端をいく分野の1つでありワクワクした。
・授業名:国際環境ガバナンス Global Environmental Governance ※国際開発学部の授業
内容:気候変動、エネルギー、生物多様性、森林管理といった国際的な環境問題について、環境レジームの変遷と各アクター(国家・地域間協定・多国籍企業・NGO・世銀等)の行動・役割を議論し、環境問題解決に求められるガバナンス体制を国際政治・国際関係論ベースで検討していく。
感想:地理環境学部の授業では環境問題を経済学的なアプローチで分析することが多いが、この授業では政治学的なアプローチが用いられる。国際政治のバックグラウンドがないためか自身の理解度に自信が持てなかった。
・授業名:人口と開発 Population and Development: an Analytical Approach ※国際開発学部の授業
内容:人口動態の要因となる出生率、死亡率、年齢構成、移住等の変化と、開発レベル―生活水準、産業化、都市化、人間開発(健康・教育・ジェンダー平等・人権)、持続可能性(環境)―との相関関係や因果関係について分析していく。
感想:人口動態には固有の歴史や文化等の違いが反映されるものの、国ごとの差異を超えた一定のパターンが存在する点が興味深かった。人口問題のインパクトに関心があったので楽しめた。何よりの魅力は担当のダイソン教授。左右に動き回りながら人口と開発を情熱的に語ってくれる。
4. 大学紹介
10数のビル・建物からなる都会型キャンパスといえる。中庭やグラウンドは備えていないが、キャンパス隣にはリンカンズ・イン・フィールズという公園があり昼食や休憩には丁度良いスペースがある。学生の自主性を旨とするせいか、学生サポートはお世辞にも良いとは言えず必要時に自らアクセスすることとなる。授業全体を通じては“クリティカル”であることを相当意識させられる。その他、LSE主催のパブリック・レクチャーは有名で各分野の著名人が講演に来る(ただ注目の講演は在校生さえチケットが入手できないことも)。コベントガーデンやレスタースクエアが徒歩圏内と繁華街へのアクセスはとても良い。
5.その他
私はLSEの大学院生用の寮に10か月、日本人/外国人夫妻の住宅に2か月住んでいた。寮では7人で1つのキッチンをシェアするかたちに何かと不便を感じた。また、設備が古いためかシャワーの温度調節が利かなかったり、他学生の音漏れや週末のバカ騒ぎに度々悩まされたりした。留学生活は日本の学生生活と比較すると学業面において相当タフになることと思う。金銭面の制約もあると思うが、寮以外でも在英日本人向け掲示板MixB等で探せば、そこそこのロケーションで寮と同額くらいの部屋が見つかるかもしれない。学業面がストレスフルな分、周辺環境をできるだけ快適にしておくのが凄く大事だと実感した。
6.留学をめざしている人へ一言
よく言われることですが、留学の位置づけを明確にしておくことをお勧めします。純粋な学問的関心、就活のネタ作り、キャリアアップ、転職に向けた学位取得…いずれの場合も留学経験を自分のストーリーに効果的に挿し入れられるよう準備・計画しておくといいかもしれません。そうすることで、留学中の困難で逃げ出したくなっても最低ラインはクリアしなきゃと踏みとどまれると思います。もちろんモチベーションを常に高く維持でき、自らの出来栄えに満足行かせられるようであればそれに越したことはありませんが、私の場合、セミナーもプレゼンもエッセイも試験も修論も乗り切るのが本当に大変でした。それでも修士号取得を目指しサバイブできました。留学という点が他の点と、そして理想とする線へとつながっていくよう意識しておくと短期的にも留学のベネフィットを感じられそうです。