執筆:2014年4月
1. 自己紹介
アメリカで大学院生活をしていたところ、以前から関心のあった開発の勉強を深く掘り下げてみたいと思い直し、開発研究の歴史があるイギリスでの勉強を決意しました。中でもLSEは、interdisciplinary(学際的)に開発を学ぶことができると思い、LSEの開発学専攻に出願し、幸運にも合格通知をいただきました。
開発学の中でも、特に哲学的な分野に関心があります。ドイツの哲学者ヘーゲルが、西洋社会の歴史の進歩を指してEntwicklungという言葉を使い、開発/発展と訳される概念が生まれ、社会の発展の歴史が進んできたことに対して、非西洋社会における開発/発展の在り方とは何か、というのが自分の問題意識です。この問題意識をもとに、アジアやアフリカ中東などの地域の独自の発展の仕方、発展の目標を探るのが私の研究テーマです。Well-beingやHappinessをもたらす開発とは何か、そんなことを考えてみたいと思っています。
また、約100年前に夏目漱石がロンドンに留学した際に、西洋の近代化と日本の近代化との違いから、葛藤に悩み、日々格闘したこのロンドンの地で学ぶことに、以前からとても関心がありました。開発/発展とは何か、と考えるにはロンドンは最適の場所だと思っていました。
2. 所属コースの概要
国際開発学部には、開発学、開発マネジメント、人道緊急援助のためのコースがあり、学部全体では200人を超える規模となっています。特に開発学専攻は、約80名のコースとなっていて幅広く開発を学ぶことができます。必修科目以外は、多くの授業の中から自分の関心にあった授業を履修することが可能で、また他学部の授業も履修することができるため、本当に自由に授業のカリキュラムを組むことができます。
授業は、講義とセミナーに分かれ、セミナーでは、講義を踏まえて、多くのリーディングを読んでくることが前提となっています。これまでの開発の勉強や実務経験などは前提とせず、1年間の限られた期間の中で、集中的なインプットを行う場であるという印象です。そのため、個人的な研究発表をする場という感じではないのですが、コースワークの中で、数多くの学術研究に触れることができ、刺激に満ちたコースであると思います。
所属コースはEU域内、特にドイツ人が最大ですが、アフリカやアジア、中南米からの留学生もいて、大変バラエティ豊かな構成となっています。年齢は比較的若い学生が多いですが、それぞれの学生のバックグラウンドは本当にユニークで、国際機関での勤務経験がある学生から、NGOでのインターンや、自ら起業したことのある学生もいます。また、将来PhDへ進学することを希望している学生も少なからずいます。
3. 授業の概要
授業名:Development: History, Theory and Policy
内容:MSc Development Studiesの必修の授業。前期に開発学の歴史、理論を網羅的に学び、それを踏まえて後期に、開発政策を学ぶ授業です。
感想:開発学の理論な展開について、著名な学者の論文に大量に当たりながら、学説を追っていきます。リーディング量は、履修した科目の中でも特に多く、抽象的な理論の論文も多かったです。毎週大変ですが、知的好奇心がとても刺激され、学ぶことが楽しいと感じた授業です。
授業名:Social Research Methods in Developing Countries
内容:修士論文執筆のために、質的及び数量的分析手法の基礎を学ぶ授業です。具体的には統計学を使った論文の読み方からインタビューの手法まで幅広く学びます。
授業名:Key Issues in Development Studies
内容:開発学の主要なテーマについて、幅広く学ぶ授業です。
感想:アマルティア・センのケーパビリティ・アプローチから始まり、民主主義、環境、紛争など、毎週異なる幅広いテーマを扱うため、特定分野を掘り下げるよりも、幅広い関心をもっている学生に最適の授業だと思います。
授業名:Economic Development Policy
内容:世銀等の報告書を読めるようになるために、経済政策を数量的手法にて学ぶ授業です。
感想:実際の世銀の報告書などを使ってセミナー等が行われるため、実務に役立つということで、例年、人気がある授業です。前提知識は不要となっているものの、これまで経済学及び統計学等を学んだ学生が多くなっています。またセミナーでは統計ソフトも使います。
授業名:Introduction to Quantitative Analysis
内容:Methodology学部に設置されている数量的手法の入門授業。大変体系的に授業が行われ、統計学を全く学んだことのない学生でも、半期の授業を受けると、統計学の基礎的なことを網羅的に学ぶことができます。
感想:自分は聴講していたのですが、セミナーにも参加させていただき、SPSSという統計ソフトの使い方を初歩から教えてもらいました。数学や統計学が苦手な学生に向いていると思います。
授業名:Global Political Economy of Development
内容:国際開発を国際政治経済学の観点から学ぶ授業です。主に、世界銀行・IMFの政策などを扱います。
感想:セミナーでは、毎週、講義を踏まえた小テスト、1ページ程度の手書きエッセイの提出がありました。国際経済学の知識がなくてもついていくことはできますが、国際経済学の事前知識があると準備がしやすくなります。
授業名:International Institutions and Late Development
内容:国際開発を国際政治経済学の観点から学ぶ授業です。主に、貿易・通商問題などをテーマとして扱います。
感想:経済学の知識は求められていませんが、理論的に掘り下げるアカデミックな観点というよりは、実務的な視点で専門的な事柄を扱う印象があります。
授業名:Poverty
内容:貧困について、多角的な視点から学ぶ授業です。アマルティア・センの理論から始まり、民主主義と飢餓の防止の関係や、環境、ジェンダー、都市問題、紛争など、いろいろな切り口で、貧困について学びます。
感想:毎週のようにいろいろな分野のリーディングを読むので、幅広い関心がある人に向いていると思いました。
4.大学紹介
LSEは、都心に位置して、キャンパスというよりは、予備校みたいな雰囲気がありますが、大学全体としては、国際開発学部に限らず、とにかく、多くのユニークな学生が集まっています。NGOなどの草の根の活動をしていた学生もいれば、ヨーロッパの王室から勉強に来ている学生もいました。これらの学部を越えた同級生とのネットワークは、貴重な財産であり、将来、きっとその花を咲かせ、実を結ぶことになると思います。事実、卒業生は、アカデミズムの道から実務の世界まで、幅広い分野で顕著な活躍をしています。
5.その他
LSEでは、アマルティア・センやマイケル・サンデルなどの著名教授や国際機関等の実務家たちを呼んで、多くの公開講義(public lecture)が行われています。ほぼ毎週のように、いろいろな講義やイベントがあるので、全てに参加することは難しいのですが、その一部でも参加することで、大きな刺激を受けて、勉強をする意欲が高まります。
6.留学をめざしている人へ一言
大学紹介にも記載しましたが、LSEはやや予備校的な雰囲気があることは間違いありません。勉強だけなら、日本でもできるかもしれませんが、夏目漱石も思い悩んだこのロンドンの地で、多くの仲間から刺激を受けて勉強するのはここでしかできません。逆説的になりますが、勉強以外のことを大切にすることをお勧めします!