執筆:2011年2月
自己紹介
留学する前は日本の大学院で修士課程に在籍していましたが、より自分が関心のある紛争と紛争後の平和構築にフォーカスしたコースで学んで知識を深めたいと思い、留学を決意しました。それ以前の職務経験等はありません。ロンドン大学キングスカレッジ(KCL)を修了後はできれば平和構築活動が実際に行われている国で一度働いてから、近い将来、博士課程に進みたいと考えています。
所属コースの概要
私の所属しているコースはその名の通り、紛争前・中・後それぞれにおける安全保障と開発の複雑な関係に着目したコースです。この“複雑な関係”が表れた一例として、アフガニスタンでの紛争が挙げられます。アフガニスタンでは一方で、安全保障の確保という目的のために各国の軍が経済援助を行なっておりますが、人道・開発援助NGOなどはこれらの援助の長期的有効性や中立性の観点などから強い非難を行っています。他方で、同国内で紛争の続く地域においてこれらのNGOなどが善意で行っている人道支援や開発援助が逆に紛争を長引かせる一要因となる事もあります。こうした事から、これまで別の分野としてみなされ研究されてきた「安全保障」と「開発」ですが、近年になって両者の間にある境界線は非常に曖昧であると認識されるようになりました。そのような両者の関係を政治学・経済学・文化人類学など様々な視点から分析し、明らかにしていくことが本コースの最大の主眼となります。現在およそ50名程度の学生が在籍していますが、大部分は欧米出身の学生で、それ以外にはアフリカから10名弱、アジアからも同様に10名弱(うち日本人3名)の学生がいます。紛争地で働いていた人やNGOで働いた経験がある人もいますし、学部全体としては各国の軍の出身の方も多く在籍していて、学部などから直接来ている人は半分程度だと思います。
授業全体について
実際に授業があるのは2学期間で、9月下旬から12月中旬までが1学期、1月中旬から3月下旬までが2学期となります。一部の授業の試験は1月初旬にありますが、大部分は5月に試験が行われます。必修科目は通年で1つですが、それに加えて選択科目を、通年のものであれば2つ分とる必要があります。授業の雰囲気や内容は授業ごとに大きく異なりますが、現実の政策提言に直接つなげるというよりもどちらかといえば理論的な側面に着目したものが多いと思います。
これまでに受けた授業の内容・感想
授業名:Security and Development
内容・感想:
必修授業で、多様なトピックを扱います。例えば、貧困と紛争との関係、グローバル化の影響、紛争における政治経済的側面、人道支援が紛争に与える影響、国連・NGOなどが紛争地域において果たす役割などが含まれます。毎週1コマの講義とセミナーによって構成されていて、セミナーでは担当者がプレゼンテーションを行い、そのプレゼンテーションをもとにディスカッションを行います。成績は、年度末の試験1回(50%)と3000単語のエッセイ2本(各25%)で決まります。
授業名:Comparative Civil Wars
内容・感想:
世界各地の内戦を比較するための理論枠組みと知識の習得が目的の授業です。枠組みとしては内戦の原因・経過・終結や、第三国の介入が内戦に与える影響、国際法の意義などが扱われ、事例としてはスペイン、ギリシャ、バルカン、アフガニスタン、シエラレオネなど20世紀以降の内戦の事例を扱います。講義とセミナーが毎週1時間ずつあります。講義ではKCL以外からも各内戦の専門家を招くこともあります。プレゼンテーションは希望制ですが、基本的には年間で1人1回やることになります。成績評価は、年度末の試験1回(75%)と3000単語のエッセイ1本(25%)によって行われます。
授業名:The Conduct of Contemporary Warfare
内容・感想:
テロリズム、アフガニスタン・パキスタンでの紛争、メディアと戦争の関係、イラク戦争、中国の急速な台頭など、現在の世界が直面している様々な安全保障上の課題に対する基本的な見方を身につけることが目的の授業です。この授業にもテーマによって学内・学外問わず様々な先生がいらっしゃって講義をしてくれます。週ごとにテーマが大きく変わってしまう為、馴染みのない分野についてはきちんと予習をしていかないと、あまり理解できないまま終わってしまう可能性があります。毎週、講義とセミナーがそれぞれ1コマずつあり、毎学期1回ずつのプレゼンテーションをセミナーで行う必要があります。成績は4000単語のエッセイ2本(各50%)で決まります。
大学情報
大学のキャンパスはロンドンの中に4か所あるのですが、私が所属している学部はStrandにあるキャンパスで全ての授業が行われます。図書館はキャンパスから徒歩で5分位のやや離れた場所にあり、しかも内部は迷路のようになっているのが難点ですが、勉強スペースはいつでもほぼ確実に確保できるのと、外観が荘厳できれいなのが良い点だと思います。またLSEの図書館や、世界的なシンクタンクであるIISSがキャンパスの近くにあるため、空いた時間にそこで資料の閲覧・収集ができるのは大きな魅力だと思います。学食は決して質が高いとは言えませんが、少し歩けばロンドンの中心部に出ることができるため、時間があるときは外食も気軽にできます。KCLの寮はロンドンの中に7か所ありますが、私が住んでいる寮(Great Dover Street Apartment)は比較的静かな住宅街にあり、家からキャンパスまでバスを使って25分ほどです。KCLは総合大学なので、医学から文学まで多様な知識・バックグラウンドを持った人と出会えるのは1つの大きな魅力だと思います。またKCLとUniversity of London(ロンドン大学)のどちらから学位をもらうかを選べるというのも面白い点です。
その他の情報
授業への取り組み方は人によって様々です。例えば、出席は成績評価に影響を与えないため、エッセイ前の時期は授業への出席者数が減ったりしますし、インターンなど学外での活動を重視している人もいます。ここでのポイントは、授業の欠席が良いか悪いかということではなく、修士課程の場合は1年という非常に短い期間である為、この限られた時間を何のために使うかを、できれば留学前にはっきりさせるべきだということです。高い学費と貴重な時間を使って何のために何をするのかをきちんと考え、できる限りの情報収集を事前に行っていくことが非常に肝心だと思いました。留学の目的がわかれば授業への取り組み方も自然に決まってくるでしょうし、授業以外の時間の使い方もきっと有意義なものになるのだろうと思います。