Research

人工衛星を用いた水環境リモートセンシング手法の開発

沿岸域や湖沼では陸域からの物質の流入のため,外洋域と比較すると大気・水中の混在する様々な物質の影響により光環境が複雑になります.そのため,従来の全球観測に用いられる人工衛星による水質推定手法では,推定誤差が生じることが報告されています.私達は,沿岸域・湖沼の複雑な光学特性を解明し,その知見に基づく新しい大気・水質推定手法を開発することを目的として研究しています.本研究における研究成果は,高い生産性を有する沿岸域・湖沼の炭素循環へ及ぼす影響の解明に貢献可能なだけでなく,低コスト・低労力でエコな恒常的環境モニタリング手法として,私達と密接に関わる社会基盤を支える技術になり得ることを期待しています.

参考資料:2018年度東京湾シンポジウム2018年度GCOM-C PI Meeting資料

GCOM-C/SGLIによるクロロフィルa(植物プランクトンの色素)月平均推定結果

水環境の実態解明を目的とした現地観測の実施

私達の研究室では,水環境における実態解明のために船や陸上から現地観測を実施しています.主な研究対象水域である東京湾では赤潮,青潮の水質・底泥の調査を実施しています.また,JAXA GCOM-C/SGLI「しきさい」衛星の水質推定プロダクト検証や水域ごとの光学特性解明を目的して,国内では東京湾,九十九里・鹿島灘,伊勢湾・三河湾,瀬戸内海,有明海,霞ヶ浦,琵琶湖等,国外でもタイ,ベトナム,スリランカ,インドネシア等の様々な国々の水環境で現地観測を実施しています.現地で環境状態を実測することは,これまで未解明であった水環境の実態・機構の解明のために非常に重要です.

東京湾の水質調査の様子(観測中の動画はMovieのページにアップしています)

流動・生態系シミュレーションモデルの開発

物理的・化学的・生物的な機構が非常に複雑な沿岸域・湖沼を対象として,流動・生態系シミュレーションモデルの開発を行っています.一例として,東京湾の青潮を対象として「有機物の増殖・沈降・分解,底泥からの硫化水素溶出,硫化水素の酸化による硫黄の生成,硫黄の硫酸イオンへの酸化」といった一連の生物的・化学的な反応プロセスを計算可能な青潮の数値シミュレーションモデルの開発に取り組んできます.複雑な流動・生態系を正確に表現可能な数値シミュレーションモデルの開発は,環境の実態把握,環境問題改善,環境予測に貢献できる可能性があり,重要な研究です.

参考資料:2019年度第水環境学会シンポジウム資料

2015年8月24日発生した大規模な青潮の数値計算結果

UAV・デジタルカメラによる水環境モニタリング技術

衛星データの利用は広域を捉えるのに適していますが,小規模な領域には,ドローンや固定デジタルカメラによるローカルなリモートセンシングが有効です.例えば,アップされている動画は固定カメラが捉えた千葉港付近の青潮の時系列変化です.衛星データや船上観測,係留系の設置では捉えることが困難な青潮分布の詳細な動きが捉えられていることが分かります.他にも,有明海の干潟漁場を対象にドローンを用いたホトトギスガイマットの空間分布の観測を行っており,これはドローンが捉えた静止画像からDeeplearingによりホトトギスガイの分布を検出し,マットが発生し易い場を特定する研究です.これらの研究はInternet of Thingsによる環境モニタリングの自動化を目指し開発を進めています.

参考資料:Deeplearningによるホトトギスガイマット推定手法開発(宮辻孝史卒論),固定カメラによる硫黄濃度推定手法の開発(菊池薫和卒論)

2016年8月29日に固定カメラにより撮影された千葉港内の青潮

共同研究及びプロジェクト関連

2015年4月 - 2018年3月 JAXA地球環境変動観測ミッション第6回研究公募(GCOM-C RA)Co-Investigator(CI)

2016年4月 - 2018年3月 水産庁有明海干潟漁場モニタリング事業:Deepleanirngによるホトトギスガイマット検出手法の開発

2016年4月 - 東京湾における青潮の現地観測及び数値計算(電力中央研究所,島根大学との共同研究)

2017年10月 - 2022年3月 卓越研究員事業 研究テーマ:沿岸域における陸域と水域を網羅的に捉えるリモートセンシング手法の開発

2019年4月 - 相模湾沿岸の藻場密度推定手法の開発(神奈川県水産技術センターと共同研究)

2019年 4月 - 2022年 3月 JAXA第2回地球観測研究公募 Principal-Investigator (PI)

2020年4月 - 2023年 3月 令和2年度科学研究費 若手研究(研究代表者)

: 水色リモートセンシングによる沿岸域・湖沼に 特化した大気補正及び水質推定手法の提案

2020年6月 - NASA PACE (phytoplankton, Aerosol, Cloud, ocean Ecosystem) Early Adopters Principe-Investigator (PI)

: Harmful Algal Bloom (HAB) and Red/blue Tide Detection and Modeling for Coastal and Inland Waters in Asia

2020年10月 - 2023年10月 ホロニクス・インターナショナル株式会社共同研究:光学衛星の大気・水中モデル検証を目的とした

CIMELサンフォトメーターの設置及び NASA AERONET-OCを通したデータ公開

2020年11月 - 2025年3月 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B)) (研究分担者)

画像解析によるマングローブ水域おけるプラスチック汚染実態把握と生態系への影響評価

2021年4月 - 2022 年3月 北極域共同推進拠点(研究代表者):北極域沿岸の海色衛星観測のための大気補正モデルの開発