研究

河川流域の自然の地形・水の流れ。こういった物理環境をどのように魚や両生類・昆虫・甲殻類など様々な動物が利用し、相互作用しながら共存し、河川生態系を形作っているのか。こうした自然の河川生態系の成り立ちを研究することを通じて、私たちの身の回りの自然管理においても優先して守っていくべき地形や川のつながりなどを知ることができます。

1.河川本流と支流のつながり

2.海と川のつながり

3.湖と川のつながり

4.氾濫原と川とのつながり

1.本流と支流をマイグレーションする水生昆虫による河川ネットワーク内の資源再分配

場所:カリフォルニア、Eel River 期間:2010-2016

これまでの研究から水生昆虫は河川で育ち、羽化して渓畔林に移動するため、河川から陸上へ餌資源を運ぶとされてきました。私はこれらの水生昆虫の生活史を通じた移動を丁寧に調べることで、実は水生昆虫の中には河川と陸上を行き来するだけでなく、面的にも河川の本流と支流を往来する生活史をもつ種が存在し、それの移動にともない河川ネットワーク内の資源再分配が起こっていることを示しました。資源の豊富な日当たりの良い河川本流で育ったカゲロウが羽化後、山間部の日当たりが悪く生産性の低い河川支流に飛んでいくすることで、多くの餌資源を魚やサンショウウオ・クモなどの支流の捕食者に供給しその成長を支えていることを明らかにしました。(Uno & Power, Ecol. Lett. 2015; Uno Aquatic insects 2019)

また、このカゲロウの生活史を通じた温度耐性などを調べることで、季節的に変化する温度をどのように利用しているかを調べました卵・初期幼生・大きな幼生。成虫と各生活史段階がその季節に応じた異なる温度を好む性質を持っており、またその時々・場所の温度に応じて羽化や孵化の時期変化するため、それぞれの生活史段階はその段階に適切な温度の時期に出現することを示しました。このことから温度変化などに対して生物は生活史を通じた対応をしていることがわかり、気候変動などに対して一つの生活史段階の応答から予測される以上に生物は温度変化に対する適応力があることが分かりました。(Uno& Stillman, Oecologia, 2020)

さらに、この温度に依存して羽化の時期が変化するという性質から、場所により河川水温が異なる場合にはそれに応じて場所ごとに羽化の時期がずれることをしめしました。このことから、瀬や淵・溜まり・湧水など複雑な地形の残る河川では数十メートルスケールで河川の水温が場所により異なり、水生昆虫は温かいところから先に冷たいところでは数週間遅れて羽化してくるため、水生昆虫成虫が長い期間にわたって見られるということを発見しました。クモなどの渓畔林捕食者は自然な河川の周辺では水生昆虫の成虫が餌として長い期間にわたり供給されるためより大きく成長し、卵を多く産むことが分かりました。このことから河川の空間異質性は河川生物のみならず渓畔林の捕食者にとっても重要であることがわかりました。(Uno, Ecology, 2016; Uno & Pneh, Ecological Research, 2020)

2.両側回遊性生物による山川海のつながり

場所:和歌山県 富田川、日置川、古座川 期間:2017-2021

河川に生息する多くの生物が、実は生活史の一時期海に下ります。北方の河川におけるサケの海と川の回遊は有名ですが、実はサケ以外にも日本の本州以南の河川にすむ多くの小魚、エビ、貝などにも海に降ります(両側回遊性の生物)。これらの両側回遊性の生物は川で生まれ、一時だけ海に下り、すぐに川に戻って成長、再び川で産卵します。一時海に降りなければその一生を全うすることができないので、ダムなどの構造物ができるとその上流にはいなくなってしまいます。本プロジェクトでは海から遡上する両側回遊性生物が他の生物のエサとして、また消費者として河川生態系に及ぼす影響を評価することで、河川生態系と海の切っても切れない関係を明らかにしてきました(Uno et al., Oecologia, 2022) [プレスリリース] [Eurek-Alert!]

3.琵琶湖からの遡上魚が流入河川生態系に与える影響

場所:滋賀県 安曇川・知内川 期間:2020-2022

40万年もの歴史を持つ古代湖琵琶湖。そこには琵琶湖を海に見立てて琵琶湖と川の間を回遊する生活史を持つ生物が多くみられます。コアユやハス、ウグイ、ビワマスなど様々な魚が琵琶湖で成長し、産卵のためにその流入河川に遡上するのです。私たちはこれらの色々な種類の回遊魚が順々に産卵のために遡上してくる琵琶湖流入河川で、それらの遡上魚が上がってくることが河川生態系にどのような影響を及ぼしているのか調べてきました。遡上魚の存在は流入河川水中の栄養塩や藻類、水生昆虫など様々な生き物に波及効果を及ぼしていそうだということが分かってきました。(Kurasawa, Onishi et al., Freshwater Biology, 2023; Kurasawa, Onishi et al., under review)

4.ダイナミックな氾濫原生態系の生き物による利用①

場所:北海道 雨龍研究林 期間:2017- 現在進行形

自然のままに流れる河川は降雨や融雪により流量が大きく変動する。氾濫原とは繰り返す河川の氾濫によって形成された地形の一種で、その地形も水の流れも河川の氾濫収束に伴いとてもダイナミックに変化する。何がそのようなダイナミックな地形と水位変動を支えているのか。変化し続ける環境の中で生物はどのように生きているのか。氾濫原に生きる生物にとって、その地形と水位変動の必要性とは。。。氾濫時の河川の動態というのはとても複雑で、これまであまり研究がなされてきませんでした。このプロジェクトでは、研究林の技官さんたちの力を借りて、ドローンやLiDARトレイルカメラなどを駆使してダイナミックな氾濫原の様子をありのままにとらえ、いろんな専門の研究者や学生で一斉にプランクトン、水生昆虫、両生類、魚など様々な生き物の応答を調べています。かつては世界中に広がっていたにもかかわらず現在そのほとんどが失われてしまった氾濫原生態系について、その本来の姿を探ろうというのがこのプロジェクトです。これまでの研究から、氾濫原の複雑な地形(河川本流に様々なつながり具合をもつ池が存在すること)と氾濫時の水の動態(少しずつ水位が上がって少しずつ下がっていくその変化のパターン)が氾濫原に多様な生物が共存できる秘訣であることが分かってきました。(Uno et al. Freshwater Biology, 2022)[プレスリリース] [Eurek Alert!]。年に一回の大掛かりな生物相調査により、毎年の水文過程および地形の変化がどのように生物相に影響を与えているのか、研究を展開している。

また、本研究から発展して、地元の地域住民の方々と共に川をよりよくしていこうというプロジェクトにも発展しています。

[ブトカマベツ川氾濫原復元プロジェクト

クラウドファンディングにおいてもたくさんの応援ありがとうございました!

ダイナミックな氾濫原生態系の生き物による利用

場所:アメリカモンタナ州 Swan River   期間:2022- 現在進行形

Swan Riverの大きな氾濫原は航空写真からも見ることができ、航空写真を過去にさかのぼって調べることにより、過去数十年にわたりどのように河川地形が変化してきたのかを知ることができる(Google Earthでも見れます!)。このプロジェクトでは、航空写真の解析により変化の歴史を調べた川に実際に訪れて生物相を調査することで、どのように過去から現在に至るダイナミックな川の地形の変化が多様な生物の共存を可能にしているのか調べています。

ダイナミックな氾濫原生態系の生き物による利用

場所:インドネシア 西カリマンタン Kapuas River 期間:2020- 2023

熱帯地域には温帯地域には見られないような雄大な蛇行河川と氾濫原が広がっています。その生態系は謎だらけ。基礎的な生態系の仕組みに関する調査研究から、上記のような氾濫原のダイナミクスや生息地の接続性が生物の生息地利用に与える影響に関する研究まで、インドネシアのカウンターパート、インドネシア国立研究革新庁(BRIN)の陸水学研究所(Research Center for Limnology)の研究者らとともに研究を進めています。(Subehi et al., 2022)