行動経済学の本棚
行動経済学に関する書籍をまとめてみました。ここにリストアップした本以外にも刊行されていますが、読んだことのある本を中心にしか紹介できていません。その点はご了承ください(それぞれの本に一言コメントを随時、付けていきたいと思っています)。
一般書、入門書、教科書、専門書など様々ありますが、初心者から本格的に学びたい方まで参考になると思っております(主に研究者が執筆した良書を主に取り上げています)。
※ 作成に当たり、佐々木周作氏から有益なコメントをいただきました。記して感謝いたします。
最終更新日:2024年11月2日
1.行動経済学になじむ
ダン・アリエリー(2014)ずる:噓とごまかしの行動経済学
ダン・アリエリー(2014)不合理だからうまくいく:行動経済学で「人を動かす」
ダン・アリエリー(2013)予想どおりに不合理:行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」
行動経済学ブームの火付け役となったアリエリーの1作目。自身の行った面白い実験結果をたくさん紹介しています。ただし、上記に書いたような再現性に関して指摘されている研究が含まれている可能性がありますので、注意が必要です。
注:研究の再現性に関する情報は、Framework for Open and Reproducible Research Training (FORRT) で逐次更新されています。可能な限り、本サイトでも反映しますが、全てをアップデートできているわけではありませんので、ご了承ください。また、下記書籍では再現性に関する問題を詳しくわかりやすく紹介されています。
スチュアート・リッチー (2024)Science Fictions あなたが知らない科学の真実
また、「行動経済学の死」の話題については以下の書籍で取り上げられています
依田高典(2023)データサイエンスの経済学 調査・実験,因果推論・機械学習が拓く行動経済学
松木一永(2023)お客様を幸せにする 行動経済学のアプローチ
2.行動経済学をつかむ
大竹文雄(2024)いますぐできる実践行動経済学: ナッジを使ってよりよい意思決定を実現
大竹文雄(2022)あなたを変える行動経済学:よりよい意思決定・行動をめざして
高校生を対象にした連続講義を書籍化したもので、やさしく学べます。
山根承子、黒川博文、佐々木周作、高坂勇毅(2019)今日から使える行動経済学
行動経済学の知見を豊富に紹介した実践的な本。図やマンガ入りなので、読みやすい内容となっています。
ミシェル・バデリー(2018)〔エッセンシャル版〕行動経済学
コンパクトに行動経済学の全体像をつかめる1冊。
多田洋介(2014)行動経済学入門
下記リンク先に公開されているスライドや解説動画も参考になります。
3.行動経済学を新書で学ぶ
川越敏司(2024)行動経済学の真実
行動経済学のもっとも有名な理論「プロスペクト理論」に関する様々な性質について古典的な実験結果から最近の研究動向まで紹介。
川越敏司(2020)「意思決定」の科学 なぜ、それを選ぶのか
行動経済学とも深くかかわる意思決定理論を15の実験を通じて学べる1冊。著者サイトではScratchとPythonによる実験を試せます。
大竹文雄(2019)行動経済学の使い方
基礎から応用まで学べて、行動経済学はこんなに使える!と思える1冊。深く知りたい方は文献解題を読み、気になった論文を読んでみることをおススメします。
依田高典(2016)「ココロ」の経済学:行動経済学から読み解く人間のふしぎ
依田高典(2010)行動経済学:感情に揺れる経済心理
友野典男(2006)行動経済学:経済は「感情」で動いている
私が行動経済学を知るきっかけになった本です。
4.ノーベル経済学賞受賞者を深く知る
マイケル・ルイス(2017)かくて行動経済学は生まれり
カーネマン氏とトヴェルスキー氏の軌跡を追いながら、行動経済学を学べるノンフィクション。
ダニエル・カーネマン(2014)ファースト&フロー:あなたの意思はどのように決まるか? 上・下
ノーベル経済学賞受賞者カーネマン自身の大著。ただし、社会的プライミングなど再現性に疑念のある研究も紹介されていますので、留意が必要です。
リチャード・セイラ―、キャス・サンスティーン(2022)NUDGE 実践 行動経済学 完全版
セイラ―氏のノーベル経済学書受賞の業績である「ナッジ」を説明している本。スラッジについての章が追加されてたりした改訂版の翻訳。
リチャード・セイラ―(2016)行動経済学の逆襲
セイラー氏の自伝的、行動経済学の解説書。
リチャード・セイラー(2007)セイラ―教授の行動経済学入門
5.行動経済学を教科書・ハンドブック等で学ぶ
筒井義郎、佐々木俊一郎、山根承子、グレッグ・マルデワ(2017)行動経済学入門
行動経済学を日本語で学べる教科書として、まず、読みたい本。
黒川博文(2024)分析者のための行動経済学入門 プロスペクト理論からナッジまで、人間行動を深く網羅的に解明する
初級レベル(入門の先、中級の手前)の行動経済学の副読本です。
Nick Wilkinson, Matthias Klaes (2017) An Introduction to Behavioral Economics
網羅的に各トピックを学ぶことができる1冊。
Edward Cartwright (2018) Behavioral Economics
Brandon Lehr (2021) Behavioral Economics: Evidence, Theory, and Welfare
大垣昌夫・田中沙織(2018)行動経済学:伝統的経済学との統合による新しい経済学を目指して 〔新版〕
行動経済学だけでなく神経経済学までも学べる本格的な1冊。
清水和巳(2022) 経済学と合理性 経済学の真の標準化に向けて (シリーズ ソーシャル・サイエンス)
和田良子(2020)実験経済学・行動経済学15講
室岡健志(2023)行動経済学
経済セミナー2019年10・11月号から始まった連載(行動経済学:人の心理を組み入れた理論。ウェブ付録)をもとに、さらに内容を充実化した1冊。
林貴志(2020)意思決定理論
川越敏司 (2019)行動ゲーム理論入門〔第2版〕
Sanjit Dhami (2017) The foundations of Behavioral Economic Analysis
行動経済学の理論と実験結果を体系的にまとめた大著(執筆に12年!かかったそうです)。著者による本書の紹介動画。
B. Douglas Bernheim, Stefano DellaVigna, David Laibson (2018-2019) Handbook of Behavioral Economics. Volume 1, Volume 2
待望のハンドブック、ついに刊行。一線級の研究者が各トピックを解説しています。
注:入門から本格的に学べる順に並べています(個人的意見であり、難易度の受け取り方には個人差があります)
下記リンク先に公開されている講義スライドも参考になります。
講義スライドだけでなく、講義動画、練習問題、試験まで公開されています。MITの学部授業を体験してみませんか?
Behavioral Public Economics Mini-Course
2022年5月に開催されたNBER Behavioral Public Economics PhD Student Boot Campの講義資料。動画もあり参考になります。
6.行動経済学の応用とトピックを深く学ぶ
小林佳世子(2021)最後通牒ゲームの謎 ◇進化心理学からみた行動ゲーム理論入門
依田高典、岡田克彦(2019)行動経済学の現在と未来
行動経済学会設立10周年を記念した書籍。各トピックがうまくレビューされています。
大竹文雄、平井啓(2018)医療現場の行動経済学:すれ違う医者と患者
行動経済学のポイントを最初に紹介し、医療現場において、どのように応用されるか明瞭に記述している本。行動経済学の応用の仕方も学べる。
日本経済新聞社(2017)やさしい行動経済学
競争に対する態度、男女差、差別や偏見などバラエティー豊かに行動経済学のトピックを紹介。
池田新介(2012)自滅する選択:先延ばしで後悔しないための新しい経済学
時間選好に関して深く知るには外せない一冊。
ベンジャミン・ホー(2023)信頼の経済学:人類の繁栄を支えるメカニズム
ジョン・リスト(2023)そのビジネス、経済学でスケールできます。
ケイティ・ミルクマン(2022)自分を変える方法──いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学
マイケル ホールズワース、エルスペス カークマン(2021)行動インサイト
北米Behavioral Insights Team (BIT)のManaging Director (Hallsworth氏)による行動インサイトの解説書。
キャス・サンスティーン、ルチア・ライシュ(2020)データで見る行動経済学 全世界大規模調査で見えてきた「ナッジの真実」
ナッジを扱う人はもちろん、ナッジに対して否定的な人も一読の価値のある1冊。
イリス・ボネット(2018) WORK DESIGN(ワークデザイン)行動経済学でジェンダー格差を克服する
働き方改革が叫ばれている日本において、管理職の人だけでなく、誰もが一読する価値のある1冊。
ただし、無意識バイアスを測るとされる潜在連合テスト(IAT: Implicit Association Test)には測定の妥当性に懸念が示されている点には注意が必要です。
センディル・ムッライナタン、エルダー・シャフィール(2017)いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学
時間やお金といった資源の「欠乏」が寿命や認知能力など様々なものに悪影響をことを紹介。欠乏が注意と借入行動に与える影響を分析した研究(Shah et al. 2012Science)は、著者らによって自己再現(Shah et al. 2019JEPsy)され、再現された実験、再現できても効果量が小さかった実験、再現できなかった実験を整理されています。
ウォルター・ミッシェル(2015)マシュマロ・テスト:成功する子・しない子
子どもの頃の自制心が将来を左右することを示したことで有名な「マシュマロ・テスト」。ただし、人種や親の学歴・年収を考慮すると、自制心よりも社会的・家庭的環境の方が将来を左右するという指摘(Watts et al. 2018PsySci)があり、再現性には疑問が呈されています。
ウリ・ニーズィ―、ジョン・A. リスト(2014)その問題、経済学で解決できます。
経済学の実験を現実社会で実施するフィールド実験で、様々な疑問に解決をしています。
ロイ・バウマイスター(2013)WILLPOWER:意志力の科学
意志力は筋肉のように使うと減るが鍛えられる、消耗すると自制が利かなくなる、など意志力に関する実験を紹介。ただし、自我消耗に関する再現性が疑問が呈され、大規模追試をしたところ再現できなかった(研究1、研究2)り、再現できたとしても効果が小さかったようです。
ディーン・カーラン、 ジェイコブ・アペル (2013)善意で貧困はなくせるのか?: 貧乏人の行動経済学
行動経済学を開発経済学に応用した研究を紹介。
ポール・J・ザック(2013)経済は「競争」では繁栄しない:信頼ホルモン「オキシトシン」が解き明かす愛と共感の神経経済学
オキシトシンが信頼行動を促進させる(Kosfeld et al. 2005Nature)など、様々な実験結果を紹介。ただし、再現性については議論(Nave et al. 2015)があったり、元論文の著者Ernst Fehrらも参加した大規模再現実験でも再現できなかった(Declerck et al. 2020NHB)点には注意が必要です。
イツァーク・ギルボア(2012)意思決定理論入門
イアン・エアーズ(2012)ヤル気の科学:行動経済学が教える成功の秘訣
インセンティブとコミットメントの上手な使い方が学べる1冊。
ニック・ポータヴィー(2012)幸福の計算式:結婚初年度の「幸福」の値段は2500万円! ?
幸福度を規定する様々な要因について知ることができる。お金に直すと、そうした要因はどれくらいの値段かがわかってしまう。
ジョージ・A・アカロフ、レイチェル・E・クラントン(2011)アイデンティティ経済学
National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine. (2023) Behavioral Economics: Policy Impact and Future Directions
Uri Gneezy (2023) Mixed Signals: How Incentives Really Work
著者からサインをもらいました
Lionel Page (2022) Optimally Irrational: The Good Reasons We Behave the Way We Do
Michalis Drouvelis (2021) Social Preferences: An Introduction to Behavioural Economics and Experimental Research
社会選好に関して各章20ページ以内で説明。付録には経済実験を実施するための実践的な情報もあり。
Daniel Kahneman, Olivier Sibony, Cass R. Sunstein (2021) Noise: A Flaw in Human Judgment
Dilip Soman (2017) The Last Mile: Creating Social and Economic Value from Behavioral Insights
Roberto, Christina A. Kawachi, Ichiro (2017) Behavioral Economics and Public Health
William J. Congdon, Jeffrey R. Kling, Sendhil Mullainathan (2011) Policy and Choice: Public Finance through the Lens of Behavioral Economics
行動経済学の公共経済学へ応用。
番外編1:動画(TED)で学ぶ行動経済学
Dan Ariely
Shlomo Benartzi: Saving for tomorrow, tomorrow
現在バイアス・損失回避・現状維持バイアスによって貯蓄を増やすSMarT (Save More Tomorrow)プログラムの紹介
Colin Camerer
Keith Chen: Could your language affect your ability to save money?
言語の観点から貯蓄行動を分析するという斬新な研究を紹介。
Daniel Goldstein: The battle between your present and future self
Daniel Kahneman: The riddle of experience vs. memory
Alex Laskey: How behavioral science can lower your energy bill
Katherine Milkman: Why we fail and how we stand up afterwards
Sendhil Mullainathan: Solving social problems with a nudge
Michael Norton: How to buy happiness
「幸せはお金で買えない」と言われるが、幸せをお金で買うある方法を紹介。ただし、紹介されているDunn et al. (2008Science)の再現実験(Aknin et al. 2020JPSP)を行ったところ、当初の結果ほどの効果の大きさは確認されなかった点には注意が必要です。
Eldar Shaf: Living under scarcity
Robert Shiller: Phishing for phools
Cass Sunstein: Saving money and saving lives
Paul Zak: Trust, morality and oxytocin?
番外編2:ポッドキャストで学ぶ行動経済学
Katy Milkman: Choiceology
The Behavioural Insights Team: Inside The Nudge Unit
Stephen J. Dubner, Steven D. Levitt : Freakonomics (Posts Tagged ‘Behavioral Economics’)
ヤバイ経済学でおなじみのFreakonomics。行動経済学者が出演している回も多々あります。