Current Research

地球温暖化の進行を緩和しつつ、社会の発展を維持するために十分なエネルギーの供給を続ける事は、一つの領域の技術や対策だけでは成し遂げることは出来ない。新たな技術オプションを創出すると共に、多様な技術群を結びつけ総体として最適に機能させる「システム創成学」的アプローチが必要となる。当研究室は、エネルギーと環境の諸課題に対し、バイオテクノロジーを中心に、電気化学や石油工学、化学、数理解析など、多角的な手法を用いた新しいアプローチを試みている。

I. バイオ電気化学的システムの基礎研究と技術開発:微生物を用いたカーボン・エネルギー変換技術

バイオ電気化学的システム(Bio-Electrochemical System: BES)とは、電気化学的反応の触媒に微生物を利用した反応システムの総称である。有機物などの嫌気的酸化により発電する微生物燃料電池(Microbial Fuel Cell)や、水素の生産を目的とした微生物電気分解セル(Microbial Electrolysis Cell)など、エネルギー生産・変換、水処理、バイオセンサーなどの分野での利用が期待されている。

当研究室では、バイオカソード(Biocathode)を用いたBESによるCO2変換・有効利用を中心とした研究を行っている。バイオカソードとは、電気化学的な還元反応の触媒に微生物を利用した電極(カソード)である。電極の表面に定着している微生物が、電極から供される電子を利用し、還元反応による化合物の合成を触媒する。微生物の優れた代謝能により、バイオカソードは電気エネルギーを高い効率で利用し、CO2から有機物(燃料,原料などの有用化合物)を合成する(Microbial Electro-Synthesis)。

バイオカソードを利用してメタンを生成する反応系は特に電気化学的メタン生成(Electromethanogenesis)と呼ばれる。バイオカソード上で電子(e-)とプロトン(H+)を用いてCO2を還元し、メタンを生成する(CO2 + 8H+ + 8e- → CH4 + 2H2O)。この反応系は、基本的にCO2と電力があれば、メタンの生産にバイオマスなどの原料を必要としない。また、反応の過電圧が極めて小さく、クーロン効率が高い(ca. 96%)ため、電力の変換・蓄電(Power to Gas)での活用が期待される。

実用化には、しかし、反応速度の向上など、バイオカソード性能の更なる進化が必要だ。現状はまだ基礎研究の段階にあり、電気化学的メタン生成を触媒する微生物的な機構に関しても不明な点が多い。当研究室では、カソードと微生物の間の電子移動の機構の解明などの基礎的研究と、リアクターや電極の改良、電子伝達を仲介する添加物の利用など発展的な技術開発を行っている。また、新規の触媒生微生物を用いた新たなCO2変換・利用技術の開発を試みている。

II. 資源開発分野の新たなバイオテクノロジー

エネルギー密度や安定性、原料などとしての幅広い用途、埋蔵量、コストなど、人類は石油より優れた資源をまだ見つけてはいない。再生可能エネルギーがより広く使われるようになる未来でも、石油・天然ガスをはじめとする化石資源は(CO2回収・貯留などにより、使用による温暖化ガスの放出を最小限に抑えられた上で)人類の社会を支え続けていく。

当研究室では、資源開発で利用可能な新しいバイオ技術の開発を行っている。資源開発では、これまでも微生物を用いた石油増進回収(Enhanced Oil Recovery: EOR)や微生物脱硫、廃水処理などでバイオ技術の利用が試みられてきた。しかし、私たちは、近年の技術発展とエネルギー・資源分野の最新情勢を背景に、バイオ工学の石油・天然ガスの分野での新しい技術応用を試みている。最近はバイオ粒子を用いた新規のEOR技術、地下流体挙動の4Dモニタリング手法、サワーガス処理に伴うメタン生産技術の開発に取組んでいる。