安全保障関連法案に反対する福岡大学教員有志の声明

※引き続き本声明への賛同署名を呼びかけます。これからは法案を法律に、廃案を廃止に読み替えてご署名頂ければ幸いです。2015年9月22日

福岡大学は、福岡高等商業学校・九州経済専門学校時代、戦争の真っ只中にありました。多くの本校学生が戦地に、勤労に動員され、福岡大空襲では図書館を焼失しました⑴。1943年(昭和18年)には廃校の危機に晒されました。

福岡大学の記録をひも解くと、そこには一人一人の痛切な思いがいくつも綴られています。

戦地に赴いた学生の遺書があります。八回生だった学生はこう書き遺し特攻隊員として戦死しました。

「私はどれほど恋に憧れたことか。しかし、遂に私はその実体を知らないまま終わってしまった……私の青春とは一体何であったのか、私の青春は遂に何物も残さないで終わった。否、中断された。こんな遺書を残して、私は新しい世界に入って行こうとする。再び七隈の学園に戻って、書物をひもとくことはないだろう。」⑵

また、召集され、戦地に赴く友を送る句、そして、学生を送る教員の句があります⑶。

「満月に 踊り狂うて 友征きぬ」(十回生)

「学兵を 送る苦吟の 夜浅し」(教授)

福岡大学は、戦争の恐ろしさを身を以て経験しました。いったん戦争になれば、大学といえども否応なく巻き込まれ、人類の幸せを願う自由な教育・研究活動が失われていくことは歴史の教訓です。

戦後、福岡大学は総合大学に成長し、真理と自由を追求し、自発的で創造性豊かな人間を育成し、社会の発展に寄与すること(本学教育研究の理念)を使命として教育研究を行い,幾多の卒業生を輩出してきました。福岡大学がこのような教育と研究を行ってこられたのは、本学構成員の不断の努力と有形無形の公的・私的支援によるとともに、日本が平和であったからにほかなりません。日本の平和を保障してきたものは、日本国憲法を尊重する政治、とりわけ、自衛隊の合憲性に賛否はありつつも、ともかくも憲法9条のもと自衛隊の活動を専守防衛に限定してきた営みにあります。

現在、国会で審議されている安全保障関連法案は、専守防衛の限定を取り払い、日本が攻撃されていない段階での武力行使を可能とするものです。厳格な要件とされているものも、時の政府によって広く運用することが可能な内容であり、国民の反対や疑問を置き去りにしたまま米軍などの戦争に参加する可能性が否定できません。国民が政府の判断を後に検証しようとしても、特定機密保護法により、検証を妨げられる可能性があります。

安全保障関連法案は、日本国憲法、とりわけ憲法9条をないがしろにし、国民を置き去りにしたまま戦争に突き進み、人類の幸せを願う自由な教育と研究を脅かす危険を多分に含んだ法案といわなければなりません。

安全保障関連法案の持つ危険性と大学にとっての意味は、すでに「安全保障関連法案に反対する学者の会」の声明によって指摘されています。声明発表以後、大学と学生に多大な危険をもたらすとの共感が広がり、数多くの大学教員、研究者と市民が賛同署名をしています。

私達も、福岡大学の歴史に学び、また、福岡大学の使命を全うするために、日本国憲法を国民とともに尊重する政治を求め、安全保障関連法案の廃案を求めるものです。

2015年 8月 25日

声明呼びかけ人(五十音順)

石村 善治 (法学部 名誉教授)

井上 禎男 (法学部 准教授)

井上 亨 (理学部 名誉教授)

植上 一希 (人文学部 准教授)

宇加治 一雄 (理学部 名誉教授)

小川 富之 (法科大学院 教授)

勝山 吉章 (人文学部 教授)*

紙屋 正和 (人文学部 教授)

後藤 良宣 (薬学部 名誉教授)

佐藤 基治 (人文学部 教授)

中島 章子 (経済学部 教授)

西嶋 有厚 (人文学部 名誉教授)

畑中 久彌 (法学部 教授)*

林 政彦 (理学部 教授)*

東原 正明 (法学部 准教授)

廣瀬 貞三 (人文学部 教授)

福嶋 義博 (理学部 名誉教授)

藤原 玄夫 (理学部 名誉教授)

寳来 和巳 (理学部 名誉教授)

松塚 俊三 (人文学部 教授)

森 丈夫 (人文学部 准教授)

山田 英二 (人文学部 教授)

横張 文男 (理学部 教授)

※福岡大学関係者(教員、職員、学生、院生、名誉教授、元教員、元職員、元学生、元院生、他)の皆様へ

この声明への賛同署名を募っています。賛同していただける方は、HPの「署名」のページからご署名下さい。

お知り合いにこの声明を紹介していただけますと幸いです。

また、福大教員、名誉教授の皆様には、賛同署名に加えて、呼びかけ人にもなっていただけると幸いです。呼びかけ人になってよいという方は、賛同署名中にその旨、ご記載ください。声明呼びかけ人に氏名と所属(または福大との関係)を記載させていただきます(なお、情報管理につきましては、*のついた教員のみで行わせいただきます)。

【声明文・注】

(1) 志願者を含め、兵士となった学生について『福岡大学75年の歩み:写真・年表編』はこう記しています(171-172頁)。

1943年(昭和18年) ……学徒出陣の第1陣が出る

同 年 ……本校生は、海軍予備学生(航空)志願者51人中合格者50人

(すでに入隊したもの28人)陸軍特別操縦見習士官、志願18人

中合格者4人

同 年 ……臨時徴兵検査が行なわれ、本校から80人が出陣することに

なり、壮行式を挙行。送別クラスマッチを開催

同 年 ……仮卒業者60人および第1学年修了者21人の学徒出陣に対し

証書授与式を挙行

同 年 ……本校生多数が学徒兵として第2海兵隊に入団応募することに

なり、博多駅から出発。

このほか、集団勤労作業についても多数の記載があります。

(2) 『松稜の日々 福岡大学有信会50周年記念』260頁

(3) 同上・237頁

※参考

「安全保障関連法案に反対する学者の会」の声明

「戦争する国」へすすむ安全保障関連法案に反対します

「戦争しない国」から「戦争する国」へ、戦後70年の今、私たちは重大な岐路に立っています。安倍晋三政権は新法の「国際平和支援法」と10本の戦争関連法を改悪する「平和安全法制整備法案」を国会に提出し、審議が行われています。これらの法案は、アメリカなど他国が海外で行う軍事行動に、日本の自衛隊が協力し加担していくものであり、憲法九条に違反しています。私たちは憲法に基づき、国会が徹底審議をつくし、廃案とすることを強く求めます。

法案は、①日本が攻撃を受けていなくても他国が攻撃を受けて、政府が「存立危機事態」と判断すれば武力行使を可能にし、②米軍等が行う戦争に、世界のどこへでも日本の自衛隊が出て行き、戦闘現場近くで「協力支援活動」をする、③米軍等の「武器等防護」という理由で、平時から同盟軍として自衛隊が活動し、任務遂行のための武器使用を認めるものです。

安倍首相の言う「武力行使は限定的なもの」であるどころか、自衛隊の武力行使を際限なく広げ、「専守防衛」の建前に反することになります。武器を使用すれば、その場は交戦状態となり、憲法九条一項違反の「武力行使」となることは明らかです。60年以上にわたって積み重ねられてきた「集団的自衛権の行使は憲法違反」という政府解釈を安倍政権が覆したことで、米国の侵略戦争に日本の自衛隊が参戦する可能性さえ生じます。日本が戦争当事国となり、自衛隊が国際法違反の「侵略軍」となる危険性が現実のものとなります。

私たちは、かつて日本が行った侵略戦争に、多くの学徒を戦地へ送ったという、大学の戦争協力の痛恨の歴史を担っています。その歴史への深い反省から、憲法九条とともに歩み、世界平和の礎たらんと教育研究活動にたずさわり、再び戦争の惨禍を到来させないようにしてきました。二度と再び、若者を戦地に送り、殺し殺される状況にさらすことを認めることはできません。

私たちは、学問と良識の名において、違憲性のある安全保障関連法案が国会に提出され審議されていることに強く抗議し、それらの法案に断固として反対します。

2015年6月

安全保障関連法案に反対する学者の会