ダニ類はもともと土壌中に生息していた節足動物であり、そのうちの一部が陸上植物を利用するようになりました。ハダニ科のほとんどの種は被子植物に寄生するため、被子植物が多様化した白亜紀(約1億3千万年前)以降に急速な種分化が起きたと考えられます。現在では、ハダニの行動や生活史が種によって大きく異なることがわかってきました。なかでも、絹糸の利用は他のダニ類には見られない特徴であり、我々は特に常緑樹に寄生する種の生活史戦略や社会性について研究しています。
私の研究は、ハダニを主な研究材料として、植食者が季節環境にいかに適応しているかを解明することを目的としています。
特に、生活史戦略(繁殖スケジュール・休眠性・母性効果)と社会行動(巣網形成・反撃行動・雄間闘争)が捕食回避に及ぼす影響に着目しています。
全体を「捕食圧を中心とした生活史全体の最適化」という観点から結びつけることを目指しています。
図1.捕食者に対する反撃(社会性)、および天敵がいなくなる冬期に繁殖する能力(休眠の深さ)の関係のもとで生活様式が進化してきた。
(1) ハダニの季節適応
ハダニは一般に増殖率を最大化する方向へ進化してきたと考えられています。しかし、不規則な撹乱のある環境では、増殖率の最大化が必ずしも最適戦略とはならず、休眠や分散の能力もまた個体群の存続に重要な役割を担います。
休眠の生理的メカニズムについては多くの先行研究がありますが、その生態学的意義については十分に解明されていません。我々の研究により、常緑樹林のような安定した環境に生息する種では、草本植物のような撹乱環境に生息する種とは休眠性が根本的に異なることが明らかになってきました。
現在は、母性効果が休眠パターンの進化にどのように関与しているかを検証しています。
(2) 造巣性ハダニの生活史戦略と防衛行動
ハダニは捕食者と同じ葉面環境で生活しており、高い捕食圧にさらされているため、多様な捕食回避のメカニズムを進化させてきました。特に常緑樹に寄生する種は植物の防御物質のため、一般的に増殖率が低い傾向にあります。本ページに示した写真は、アラカシに寄生するカシノキマタハダニです。本種のメスは生涯産卵数が約20卵と少なく、発育速度もきわめて遅いことが知られています。このように低い増殖率を補償するかのように、本種は捕食者に対する高度な対抗適応を進化させてきたと考えられます。
本種は葉面に濃密な巣網を形成しますが、この構造が捕食回避にいかに機能しているかは、いまだ明らかではありません。本種を取り巻く捕食被食関係には、数多くの謎が残されています。