こんにちは。高知大学・昆虫生態学研究室の伊藤桂です。私はハダニやナナフシを材料として植食者の生活史や行動の進化を研究しています。
Contact: Prof. Katsura Ito (Ph. D), Kochi University. e-mai: ktr@kochi-u.ac.jp
ハダニ研究の最前線の成果を紹介しました。教科書ではありますが、イラストもふんだんに使っており、読んでいて楽しくなるような本になるように心がけました。私は休眠性、社会行動、飼育法の項を執筆させていただきました。
2025. 4. 25 NHK総合『ダーウィンが来た!』で研究成果が紹介されました。
出版情報
Chida, M., Mizuguchi, T., & Ito, K. (2025) Evaluation of counterattack efficiency against predators in Schizotetranychus brevisetosus using small glass beads and phytoseiid eggs. Entomologia Experimentalis et Applicata. doi: 10.1111/eea.13590
ハダニの社会行動を発見!巣網に物理的な刺激が加わると、多くの成虫が巣の外に出てパトロールを行い、遭遇したカブリダニの卵を口針で刺し殺すことがわかりました。また、ガラスビーズのような無生物に対しても、実際の捕食者と同様に積極的な「攻撃」行動が見られました。
Stephan W. Gale (2025) Molecular phylogenetic analyses reveal multiple long-distance dispersal events and extensive cryptic speciation in Nervilia (Orchidaceae), an isolated basal Epidendroid genus. Front. Plant Sci. 15:1495487. Link
Stephan博士が主導した、ムカゴサイシンを含むNervilia属(ラン科)の系統地理学に関する論文が発表されました。塩基配列情報からムカゴサイシンのアジア圏の分岐経路を推定した力作で、重要な論文になることは間違いありません。同じ時期に大学や牧野植物園でシーケンス解析をした日々が懐かしく思い出されます。
Nagata K, Negoro Y, Ito K* (2025) Overwintering at multiple life stages in Schizotetranychus shii (Acari: Tetranychidae), a specialist of evergreen chinquapin. Exp Appl Acarol 94, 10. Link
これまで非休眠とされてきたシイノキマタハダニについて、短日条件ではメスが産卵を停止し、長日型の光周反応による休眠性を持つことを示しました。一方、冬季には葉の上で全ての発育段階が見られます。この論文ではその謎を実験的に解明しました。
Ito, K.*, Takatsuki, K. (2023) Hybridisation between host races broadens the host range of offspring in Eotetranychus asiaticus (Acari: Tetranychidae). Experimental and Applied Acarology 84: 389-405. Link Full text
コウノアケハダニについて、モッコクとヤブニッケイに寄生する集団は互いの寄主を利用できないホストレースであることを示しました。また、これらを交配して得られたF1子孫はモッコクとヤブニッケイのいずれを餌でも発育できるという共優性のパターンを示しました。これらの結果は、従来考えられてきた特定の寄主における自然選択だけではなく、異なる系統間の交雑の結果として寄主範囲が進化するという可能性を物語るものです。
Ito K & Ioku Y (2022) A novel type of counterattack against predatory thrips in Schizotetranychus brevisetosus (Acari: Tetranychidae). Int J Acarol 48, 207–213. Link
巣を作る習性を持つカシノキマタハダニは侵入してきた捕食性アザミウマに対して口針を突き刺して追い出すことがわかりました。本種は捕食性のタマバエも攻撃する習性を持っており、捕食ー被食関係が逆転している興味深い種であることがわかってきました。 動画(momo)
ナナフシの鳥による分散 (2023) link
エダナナフシやナナフシモドキは無翅昆虫ですが、遺伝分析をすると遠隔地に同じ遺伝子配列(ハプロタイプ)が見られることが長年の謎でした。以前の共同研究により、これらのナナフシ類は卵が鳥の消化管を通じて遠隔地に運ばれるとことが示唆されていたのですが、この研究では遺伝子分析を行うことでその予想を力強く裏付けました。昆虫が鳥により運ばれることは驚きをもって受け止められ、SNSでも一般の方、研究者の間で話題となりました。
ナナフシの遺伝的変異 (2021) Link
エダナナフシには有性生殖集団と無性生殖集団があります。マイクロサテライトマーカーを使ってそれらの間の遺伝的変異を比較したところ、無性集団には変異がきわめて少ないことがわかりました。