二次元幾何学的フラストレート格子として、三角格子とカゴメ格子が盛んに研究が行われています。三角格子は最近接サイト数がz=6であるのに対し、カゴメ格子はz=4となっています。一般的に最近接サイト数が少ないほうがフラストレーションが強いとされています。また、カゴメ格子は、三角格子から1/4欠損させた格子と見ることもできます。一方、メイプルリーフ格子は、三角格子から1/7欠損させることで作られる格子で、その最近接サイト数はz=5となっています。このような観点から、メイプルリーフ格子は三角格子とカゴメ格子の中間的な幾何学的フラストレート格子と考えることができます。
メイプルリーフ格子をもつ化合物をデータベースから探索したところ、Jianshuiite MgMn3O7・3H2Oという鉱物を発見しました。結晶水が含まれていることから、水熱合成法で合成するのが妥当だろうと考え、様々な合成条件を検討した結果、過マンガン酸カリウムに対して硝酸マグネシウムを大過剰にして反応させることで合成できることが明らかになりました。S=3/2メイプルリーフ格子を形成するMn3O7層は非磁性のMgおよび結晶水の層によってブロッキングされ、良い二次元性が期待できます。
得られた試料を用いた帯磁率測定および比熱測定によって、5 Kおよび15 Kにおいて逐次相転移が存在することがわかりました。また、強磁場測定においても、多段階の磁気異常が観測されており、磁気プラトーが実現している可能性が示唆されます。
これらの磁気相転移の起源や磁気構造など、明らかになっていない部分がまだ多く残されていますが、これらの相転移は、メイプルリーフ格子のもつスピンフラストレーション効果によってもたらされたものであると考えられます。
(論文中でPyrex beakerにいれて合成したと記載しておりましたが、正確にはPTFE beakerでした。)