作品制作/佐山 泰弘 SAYAMA Yasuhiro
当時通っていたバイク屋さんに、ある日子猫が保護されていました。
まだ歯も生えていない小さな2匹。
「猫いらない?今が旬、だよ~。」
その一言に心動かされて引き取ることになったのが、猫作品をつくるきっかけをくれたみーちゃんです。
いろいろな楽しいコトで魅せてくれるみーちゃんの日常は、作品アイデアの宝庫で(作品集「御猫様いろは総覧」でご覧いただけます)、
30年ほど前にちいさな立体作品からはじまった作品制作は、墨絵、アクリル画「煌彩画」作品、陶作品、からくり作品など、手法も多岐にわたることとなりました。
現在は天国で見守ってくれているはずですが、今なお「これでぜんぶなの?」という問いかけが聞こえてきます。
また、「うちのこがいちばん!」という思いの皆さんの愛猫さんをおつくりすることも、とても貴重で幸せな時間です。
大切な愛猫さん作品制作を託してくださることに、なんとかお応えしたく思っています。
そこにいるだけで、空間を優しく温かくしてくれる存在たちに感謝を込めて。
お愉しみいただけると幸いです。
2025年春 佐山泰弘
猫作家、と呼ばれるまでになってしまったけれど
~ちょっと長いプロフィール~
子供の頃は図工好き。大病をしたせいもあり、あまり運動も得意ではなく、何かを作ったり絵を描いたりするのが好きでした。イラストレーターや漫画家、アニメーターなどを漠然と志してみますが「何を描けば、何をつくればいいかわからない」し「食えるわけがない」。やがてフィニッシュデザイナーという職種に「フィニッシュって何だ?」なまま、版下屋さんに就職しました。ここでは徳間書店さんの月刊誌の印刷原版フィニッシュ作業に携わる。まだDTPなど無い時代、写植をいかにキレイに貼るか、とか、カラスグチを研いだりして罫線の美しさを競うような仕事でした。愛読書だった「アニメージュ」のフィニッシュがあり、当時連載中だった宮崎駿さん直筆の「風の谷のナウシカ」の生原稿にネームを貼ったことは自慢の楽しい思い出のひとつです。
【会社員の頃~粘土との出会い】
指定されたレイアウトをなぞる作業にたまらくなり、デザインする立場に転職。全くの素人を雇ってくれる会社に巡りあうことができました。フィニッシュデザイナーに仕事を任せるグラフィックデザイナーにとりあえずなったわけです。先輩たちに教えてもらいながら修行、修行・・・。
若かりし頃、思い上がりもあり、すでに会社は3社目。ここは主に旅館などの宿泊産業に関わる代理店でした。旅館やホテルの取材やパンフ制作で「和風の美しさ」を多数目にする機会に恵まれました。猫つくりの「核」がこの時代にできていたのは間違いありません。この頃の仕事は深夜帰りも当たり前、会社では重要な役もいただいていたのですが、忙しすぎる日々から現実逃避するように、ある日粘土を買ってみました。粘土売り場の謳い文句「あなたの手のおもむくままにつくろう!」にそそのかされていじり始めるも、何をつくっていいかはまだわかりませんでした。なんとなくつくってみたのが、怪獣のような恐竜のようなナメクジのようなイキモノたち。
【猫つくりのきっかけ】
ウチに来た友人に「売れるよ」と推され、休日、地元のフリーマーケットに試しに出品すると、その妙な粘土作品はウソのように売れていきました。これに味をしめて数回出店するうちに、重要な人と出会うことになりました。それがキャトグラファーの坂東さんでした。猫にしか興味を示さないと思われるこの方が、ワタシの「お店」に興味を持ってくれたのは奇跡でしょう。「おもしろいですねぇ」「売れますか?」・・・そんな会話の中、「猫はつくらないんですか?」の一言。・・・猫?猫ならウチにいます。「猫の作品ができたら、カレンダーをつくりましょう。」そう言って別れました。・・・でも猫ねぇ・・。このときはまったく猫をどうつくればいいのか見えていませんでした。
【みーちゃんとの出会い】
この2年ほど前に、「猫」は我が家にやってきていました。当時バイク乗りだったワタシは何か用があって練馬のバイクショップを訪れました。このお店は、ワタシが中型免許をとって初めての、そして乗るならコレ!とずっと決めていたカワサキGPZ400Fというバイクを買ったお店で、何かと出入りさせてもらっていたのですが、この日は人の顔をみるなり「猫いらない?」という言葉が飛んできました。「猫。どっちがいい?イカ?タコ?」そんな冗談の中、見せてもらうことに。。。バックヤードのダンボール箱の中には、ま~~~~!!まだ目も開いて間もないようなよたよたの子猫が2匹、いたわけです。ペット不可のアパート住まいではムリ、でも、でもなぁ・・と思い悩んだ末、2匹のうちの1匹をもらう決心をしました。子猫は2匹ともサバトラ白。猫飼うならサバトラ・・・子供の頃飼っていた「チビ」という猫がまさにサバトラ、そのせいか、関係ないのか、理由はわからないけれどサバトラ好きだったのでしょう。まさにその思いにぴったりだったからです。そして殺し文句「今が旬だよ~」。もらうなら、顔に鼻くそみたいなシミのない「キレイ」なほうだな。そして数日後、いよいよ猫をもらいにいきました。
「猫をいただきにきました」・・・と、思いがけない事態。心に決めていた「キレイ」なほうは売約済、ウチはシミのあるほうでした。「え~っ?」という感じでしたが、見れば「シミ」のほうが元気に歩き回ってるし、いいか、と、連れて帰ることになりました。
さて、名前ですが、バイク屋さんではこの猫はすでに「ミー」と呼ばれていました。まだ離乳前で小さな哺乳瓶と一緒に我が家に来て、哺乳瓶を見せると、もうちょうだいちょうだいッ★吸い付いて飲みます。「みー」と呼ぶこともできるし「ミルク」という名前にしよう。これが我が家のみーちゃんです。まだ歯も生えてなく、やりたい放題の元気な子猫との生活の始まりです。
【初めての猫作品~猫つくりが本業に】
粘土でイキモノを作っている頃、みーのことも一度つくってみました。みーはすっかり成猫になっています。・・でもこの毛の模様とか、どうすればいいんだぁ?・・・試行錯誤してつくってみた小さなみー。猫の作品ってなんだろうと思ううち、新聞の切れ端の上に乗せてみました。本物のみーがよく新聞にのっかってくること、ちゃんとふわふわなところをつくってあげているのに、そこを避けて新聞の上で香箱を組む、そんな光景を再現してみたのです。・・・すると、まー、なんだかちっちゃいけど、これ、みーだねぇ!・・・ついでに広告仕事では欠かせない「キャッチコピー」を書いた紙を後ろに置いてみました。「何故か、新聞が 好き。」 しかも筆でそれらしく書くと、いっそう可笑しいことがわかりました。これがまさに猫作品の第1作になりました。
後日、あのフリマであった坂東さんと初の猫作品を持って再会、この新聞みー作品を見せると「面白い」という合格をいただくことができました。その後すぐ、銀座のプランタンの猫展に坂東さんが代表を務める風呂猫スタジオが出店、そこでの出品に混ぜてもらうこととなり「心打つ四足像」として販売されました。今の心打つ猫シリーズの出発です。その後は風呂猫主導のもと、伊勢の第一回招き猫祭りや各地の猫イベントに出品、初めて会ったときのカレンダーをつくることも実現しました。また、猫作品を扱う画廊やギャラリーの方とも面識ができていき、グラフィックデザインとの二本立て生活から猫作品つくりに専念することを決意、今の活動に続いていっています。
【いつも傍らにいるみー】
猫作品つくりが生きる糧というのは、実は悩み苦しみいっぱいの毎日になるということでした(汗笑)。楽しいだけじゃないあの時この時、傍らに座ってとぼけてくれているのが作品のモデル、みーです。「みーちゃん、次はなにつくればいいのかなぁ?」・・尋ねてももちろん無言のままです。「・・・!」そうか、そうだね、みーのことをまだぜんぜんつくりきってはいないよねぇ。みーをつくればいいんだねぇ。なにも奇をてらうことはないんだねぇ。そのまま、が、いいんだね。ちゃんと「猫を」つくりたいねぇ。猫の姿を借りた別のものは自分には要らないネ。深夜のそんな会話も何度交わしたことか。もう18歳になりますが、ここへ来てすっかり子猫戻り。ものすごーく甘えんぼうの寂しんぼうです。以前のような面白いこといっぱいの楽しい「若猫」時代とは代わりすっかりおとなしくなってしまいましたが、「ワタシのいうことをキキナサイよっ!!」という、「御猫様」であることは変わりません。みーがお腹もいっぱいになり、満足してゆっくりオヤスミになっているときに、粘土をしたり色を塗ったり、パソコンをやったりできる今日この頃です。高齢化社会、みーもまだまだ「ワタシが一番」で微笑ませてくれれば、と思っています。
【猫好きなのか、そうでないのか】
よく「猫が好きなんですね」と言われます。この長いプロフィールを読んでくださった方には、実はそうではないんだなぁ、と感じられるかもしれません。事実そのとおりでした。猫が好き、なのではなく、みーが好き、というのが本心でした。でも、今は、違います。変えたのは「ウチの猫(コ)プロジェクト」での作品制作です。根っからの猫好きでは「なかった」ワタシが、「他所」の猫をつくるには、その猫への「愛情」が必要でした。その猫を「オレんちの猫」と感じることが必要でした。思えば、好きでないもの、興味のないもの、は、絵にしても立体にしてもつくる気がしないのです。昔からそうでした。「ウチの猫(コ)・・・」について詳しくは別頁を参照いただきたいのですが、この作業により、技術と、少しだけ広い視野をえることができたと思っています。中でも、猫の存在が今の人の生きる時間の中に欠かすことができないのではないかと思うほどの大きな、温かな生命で、偶然という出会いにより、その人その人に「与えられるもの」のような気がしてならなくなりました。Aさんちのあのコ、Bさんちのこのコ・・・どの猫も、その人・家のためにやってきて、去っていく・・・その人の宝物であると実感したとき、どの猫も、街で見かける野良猫でさえ、ありがとうと声をかけたい愛しい存在になりました。「猫が好きなのか」、そう問われた時、今でも少し口ごもるかもしれませんが、この意味は「好き以上」とご理解いただければ幸いです。
佐山泰弘
*
2011年春、みーとしばしのお別れをしました。
でも、見えないだけで、自由気ままにやっているのでしょう
掌の中にいつでも帰ってきてくれます。
*
「またつなぐ手。」
夢に見た光景を描いたものです。
猫の手はもちろんみーちゃん、夢では小さな女の子の姿になっていました。
間違いなくまた会えると想えた温かい時間でした。
(和紙にアクリル・2023年)
*
1964年生まれ。
1991年●みーをもらう
1994年頃から猫の立体作品を制作
1995年●伊勢おかげ横丁「第一回来る福招き猫まつり」出品・告知物デザイン・展示会場演出
1996年●個展「ねこごよみ」 銀座ボザール・ミュー
1996年●ミニカレンダー「猫暦」(発売元・風呂猫)発売開始
*以後毎年全国書店等で販売してました
1998年●個展「お猫様展」 銀座ボザール・ミュー
2001年●個展「猫の宴」展 瀬戸市おもだかやギャラリー
2002年●個展「からくり猫小劇場」 ギャラリー猫町
2002年●招き猫ギター「TAMAYA380special」が「第2回平成の招き猫展」大賞受賞
2002年●「招き猫ギターとからくり猫劇場展」 瀬戸市工芸館
2002年●「Don't disturb please展」 銀座ボザール・ミュー
2003年●個展「立体猫型録」 銀座ボザール・ミュー
2004年●個展「いろは猫 returns」 銀座ボザール・ミュー
2005年●個展「いろは猫 番外編」 銀座ボザール・ミュー
2006年●ウチの猫(コ)プロジェクト開始 個展「ウチの猫(コ)展vol.1」 銀座ボザール・ミュー
*以後、ウチの猫(コ)プロジェクト、継続中
2007年●韓国大田市立美術館「犬と猫の話」展に招待出品。
2007年●横浜人形の家にて個展
2009年●個展「1日2缶×365日=730缶 with ウチの猫(コ)展vol.6」
2010年●個展「ねことひとやすみ」写真展 銀座ボザール・ミュー
2011年●個展「ねこの足音」銀座ボザール・ミュー
2013年●出品「まるごと猫フェスティバル」阪神百貨店
2013年●個展「サヤマ式 書写教室~ねこ、と書写する~」谷中ギャラリー猫町
2013年●出品「ねこらんまん展」目黒雅叙園百段階段
2013年●個展「猫からの贈り物」渋谷Bunkamura Box Gallery
2014年●個展「日本画猫 whith 猫の宴展」銀座シャトン・ド・ミュー
2015年●個展「みなさんの愛猫さん作品展」銀座シャトン・ド・ミュー
2015年●個展「猫からのおくりもの」静岡ねこふく
2015年●個展「佐山泰弘猫作品展」そごう千葉店内「點燈夫」ギャラリー
2015年●個展「カレンダー原作展」メゾン・ド・ネコ
2016年●個展「みなさんの愛猫さん with 猫の宴」展メゾン・ド・ネコ
2016年●個展「猫からのおくりもの~in静岡」静岡ねこふく
2016年●個展「カレンダー原作展」メゾン・ド・ネコ
2016年●発売 カプセルトイ「御猫様・立体図鑑」以降カプセルトイの企画・デザイン
2017年●個展「佐山泰弘 猫作品展」そごう千葉店内點燈夫ギャラリー
2017年●個展「みなさんの愛猫さん&作品展」京橋メゾン・ド・ネコ
2017年●出品「ねこらんまん展inぐんま」高崎ねこらんまんギャラリー
2017年●個展「猫からの贈り物」東日本橋ねこの引出し
2017年●個展「カレンダー原作展 with C」京橋メゾン・ド・ネコ
2018年●出品「ねこらんまん展」横浜赤レンガ倉庫
2020年●猫的しりとりカレンダー2021年版・はじめは「あ」発売
2022年●個展「猫のおもちゃ箱」ねこの引出し
2023年●個展「たからもの~猫の記憶・猫との記憶~」静岡ねこふく
2024年●個展「∞(インフィニティ)」ねこの引出し
2024年●個展「ねこのヒミツ」静岡ねこふく
2024年●出品 にゃんクリエイターズ「ねこのかたちアート展」初参加 上野2k540
2024年●個展「2025カレンダーと原作展」 京橋メゾン・ド・ネコ
2025年●個展「うちのこ展2025」ねこの引出し
2025年●個展「うちのこ&作品展」仙台またたび堂
2025年●個展「いろは猫新編」ねこの引出し web展示開始
2025年●個展「佐山泰弘猫作品展@福島2025」福島民芸うえき
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【テレビ出演】
ぶらり途中下車の旅
韓国バラエティ番組
ペット百科
【掲載誌】
ねこぷに
猫びより
月間NEKO
瞳
月刊cats
【出版】
作品集「猫からの贈り物」
ミニ作品集「猫の宴」ブック
作品絵本「1日2缶×365日=730缶」
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