「大型藻類における世代交代様式(生活環)多様性の進化生態学的理解」
コンブやアマノリ、アオサなど大型藻類(海藻)の多くは、配偶体と胞子体という染色体セット数が異なる二つの独立した世代をもち、それらが世代交代するhaploid-diploid生活環を示すことが知られています。胞子体が減数分裂を通して作るhaploidの胞子が配偶体になり、配偶体由来の雌性/雄性配偶子が合体することでつくられるdiploidの接合子が再び胞子体に発達するという世代交代の一連の流れは生活環と呼ばれます。
この生活環に着目すると、海藻には「配偶体が大型化して胞子体二が微小な種」「胞子体が大型で配偶体が微小な種」「両方の世代がほぼ同じ大きさとなる種」「片方の世代しか存在しない種」が存在していることが知られており、その多くが緑藻、紅藻、褐藻という全ての分類群に見られます。生活環の多様性がなぜ、どのようにして進化してきたのか?それらの疑問を理論研究による予測とデータ解析による検証を組み合わせることで理解したいと考えています。
「複雑な繁殖様式を示す生物の進化生態学的応答を記述する一般モデルの構築」
生物の繁殖はその個体群動態や進化を決定する重要な現象です。そして、そこには様々な多様性な繁殖様式が観察されることが知られています。例えば、私が主な研究対象としている藻類では、有性生殖の過程が伴う減数分裂によるゲノムセット数の半減と接合によるゲノムセット数の倍加が、haploidの配偶体とdiploidの胞子体という2種類の独立した世代の交代を引き起こします(haploid-diploid生活環)。このような複雑な繁殖システムが観察されるのにもかかわらず、古典的な進化生態学では、個体群がdiploidの個体のみで構成されて、haploidの細胞は配偶子としてのみ存在することが長らく仮定されてきたため、集団に異なるゲノムセット数をもつ個体が混在し、それらの間に複雑な生物間相互作用が働く系において、どのような進化が起きるのかについては、未だ謎に包まれています。
私は、このような複雑な繁殖システムを示す生物の進化と生態を記述する数理モデルを解析することで、古典的な仮定から逸脱するような系をもつ生物の進化生態学を完成させたいと考えています。
「海洋生物生活史の環境改変に対する進化的応答」
海洋酸性化に対する単細胞藻類(円石藻)の進化的応答や光制限ストレス下での海藻の可塑的な対被食者防衛戦略など、専門である進化生態学的な知見を活かし、人間による環境改変が海洋生物に及ぼす影響について理解したいと考えています。
「海洋有用種の空間構造、生活史特性を考慮した個体群動態、資源管理に関する数理モデリング」
アワビ類などの海洋有用種について、空間構造や生活史特性が、その資源管理に及ぼす影響についての研究を行っています。