円周上ではグラフを表示するのが面倒であることから、このように表現せず、円周上のある一点(例えば、左図の一番低い点)から切り開き、両端がつながっていると考えて、直線上に描くことが多い(右図)。

Mathematica 8以降では、フォン・ミーゼス分布のコマンド(VonMisesDistribution[mu, kappa])が入っています。)

このフォン・ミーゼス分布は二変量正規分布を極座標変換し、それの条件付き分布を計算して得られる。また、通常の正規分布と同様、エントロピー最大化により得られ、指数型分布族であることから、``円周上の正規分布"としばしば呼ばれている。 さらに、この分布は正規分布同様、平均方向と集中度を表すパラメータの最尤推定とモーメント推定が一致する。

しかし、再生性を持たない等、正規分布と異なる性質もある。

実数上の統計学では、特性関数が定義され、それがFourier変換に対応していることと同様に、方向統計学では、三角モーメントが定義され、それがFourier係数に対応している。 その意味で、実数上の統計学とは似ている部分もあるが、分布が有界区間で周期性を持つことから、扱いに注意が必要となる。

また、実軸上では、平均・分散が存在する場合、母集団の分布がどんな分布であっても、標本数を大きくすると、標本平均と真の平均との誤差分布は近似的に正規分布に従うが、円周上では、標本数を大きくすると、和の分布は近似的に一様分布に従うという、実軸上の直観とは異なることが起こる。 しかし、平均と分散が存在し、和の取り方を変えると巻き込み正規分布に従うことが知られている。

方向統計学における対称分布は、平均パラメータと集中パラメータを持つ対称分布であり、フォン・ミーゼス(von Mises)分布、(再生性を持つ)カーディオイド(cardioid)分布、(再生性を持つ)巻き込みコーシー(wrapped Cauchy)分布などがある。2000年以前の分布論においてはそれらに関する研究が行われていた。2000年以降になると,これらの既存の分布を含む柔軟な分布族の提案がされるようになってきた。特に、Jones & Pewsey (2005, JASA) により提案された分布族は、形状パラメータの導入により上記の分布等を含む非常に柔軟な円周上の対称分布族である。 この分布に関連して、投影図法によるJones-Pewsey分布の拡張が、Abe, Shimizu & Pewsey (2010, JJSS)により提案されてる。

柔軟な対称分布族が提案されている一方で、2000年以降には非対称性を示す円周分布族の提案もされるようにもなってきている。ただし,非対称性を満たす分布族はあっても、統計分布が非常に複雑であったり、最尤推定が困難なことがある。そのような状況の下で既存の分布族よりもより単純で、数学的にも統計学的にも扱いやすい分布族が構成できれば理想的である。

この観点で、より柔軟で性質の良い単純な非対称な円周分布族の一つとしては、 Abe & Pewsey (2011, Stat. Pap.)による正弦関数摂動分布族がある。 この分布の利点は

・正規化定数が元の対称分布と同じである。

・正弦関数摂動分布族のモーメントは元の対称分布のモーメントを用いて表現できる。

・最尤推定が比較的容易にできる。

という点があげられる。 また、この分布族の多変量化(多次元球面上の正弦関数摂動分布)が Ley & Verdebout (2017)により提案されている。 Abe & Ley (Econometrics and Statistics, 2017)ではsine-skewed von Mises分布とWeibull分布を組み合わせることにより、単純でありながら非常に良い性質を持つシリンダーモデルを提案している。

他にも、Abe, Pewsey and Shimizu (SPL, 2009)では分布の頂点付近がある特殊な性質を持つPapakonstantinou (1979)の円周分布族を拡張し、その分布族の数学的性質について調べている。 Abe, Pewsey and Shimizu (2009)の一般化としてAbe, Pewsey and Shimizu (AISM, 2013)では対称な円周分布族の頂上付近を平坦もしくは急傾斜の性質を持たせる対称・非対称な変換の一般式を与え、単峰性やモード付近における曲率を調べている。 そこで提案している分布は正規化定数の単純さを犠牲にし、単峰性と柔軟性を持たせている。 実際、乳幼児突然死の月毎のデータに対して、パラメータ推定を行った結果、当てはまりが良いことが確認されている。