尤度関数の最大化のための一手法として、EMアルゴリズムが知られている。このアルゴリズムは最尤法以外にも活用の場があるが、ここでは最尤法に関連したものを考える。この場合、EMアルゴリズムは不完全な状態で観測されたデータに基づいて形成される尤度関数を最大化するために、完全な観測による尤度関数を利用して簡潔で扱いやすい枠組みに置き換えるものとなる。 EMアルゴリズムは現在、非常に多くの拡張や例がある。

正規分布のように最尤推定法の解がすでに陽的表現されているような分布の場合はEMアルゴリズムの適用は混合分布の場合等になるが、一般にそのような例は稀で、最尤法を行う場合は通常なんらかのアルゴリズムに頼ることになる。例えば正規分布の拡張とも考えられるt分布や、その歪対称化である歪正規分布となると、最尤法では陽的表現を得ることができない。一方で、これらの分布に対して確率変数表現を利用した陽的表現は可能であることが知られている。(Liu & Rubin, 1995; Abe, Fujisawa, Kawashima & Ley, 2021)

陽的表現可能な多くのEMアルゴリズムが、通常確率表現を基礎に構築されているのは、潜在変数を確率表現に含んでいるからだと考えられる。Abe (Submitted)では指数分布のパラメータに関数の構造を入れ、そこから一般的な推定関数を導出することでCauchy分布のように密度関数の核がある関数の逆数で定義されるような分布一般に関する推測理論を与えている。 また、推定関数と相性の良い分布として、Cauchy分布を含む自由度が既知の$t$分布、log-Cauchy分布を挙げ、それらについてのEMアルゴリズムの陽的表現を導出している。さらに、Azzaliniらの提案している歪t分布とは別のクラスの歪t分布を考え、EMアルゴリズムによる陽的表現を与えている。これによる直接的な応用としては、誤差項を歪t分布とした回帰モデルが可能である。その他にも打ち切り分布やCopula等への応用も考えられる。